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ペップと記者の噛み合わない会話
勝ち点1の価値は、立場によって違ってくる。
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マンチェスター・シティにとって今節手にした「勝ち点1」は「勝ち点0」に等しい。逆に対戦相手だったウェストブロムウィッチにとって「勝ち点1」は「勝ち点3」に値するものだっただろう。
現地15日に行われたプレミアリーグ第13節で、シティとウェストブロムウィッチは1-1のドローを演じた。
前節、アウェイでマンチェスター・ユナイテッドとのダービーマッチも引き分けだったシティにとっては勝たなければならない試合だった。相手は今季わずか1勝で降格圏に沈む、明らかな“格下”だったからだ。
試合後の記者会見映像を見ることができたが、シティを率いるペップ・グアルディオラ監督は終始うつむき加減で、時には頭頂部だけが画面に映る場面もあった。冒頭の振り返りも「この試合は勝たなければならなかったが、勝てなかった。チャンスは作っていたが、残念ながらゴールを決めることができなかった」と虚しく、明らかに打ちひしがれていた。
ある記者との面白いやり取りもあった。
記者「ペップ、これは繰り返し話しているテーマだと思うが、今季は例年のようにゴールを決められないね」
ペップ「ああ。多くの試合をしっかりコントロールできていて、失点もゼロか最小限に抑えられている。今日もエデルソンの素晴らしいセーブがあった場面を除けば、相手が得点に値する場面はなかった。我々は他の全ての部分で相手よりも優れていたが、ゴールを決めることだけは苦しんでいる。今季は試合をコントロールできているのに、得点することだけができていないんだ」
記者「それはなぜだ?」
ペップ「なぜなら…ボールを1つ、ゴールの中にシュートしなければならないから」
記者「だが…なぜこれまでは今季よりも容易に得点できていたのだろうか?」
ペップ「ええと…ゴールを決められていないからだな。全ての監督にとって解決策を見つけるのは難しいことだ。我々は今日の最後の10分間のようにもっと多くのチャンスを作らなければならないし、もっと強度を高めなければならない。それが普通のことだ。だが、最後の10分間のようなフットボールを90分間続けることはできない。なぜなら相手はカウンター攻撃を仕掛けてきて、フィジカル的にも力強かった。だから我々は決められなかった」
お互いの話が噛み合っているとは言えないし、もはや禅問答のようだ。グアルディオラ監督の言葉はやや支離滅裂のようにも聞こえる。
元マンUのGKが立ちはだかった
とはいえ完璧に間違っているとも言えない。確かにもっと多くのチャンスを作ればゴールが決まる可能性は高まるだろうし、ウェストブロムウィッチ戦のラスト10分間のようなハイテンポで強度の高い攻撃を毎試合90分間続けられれば無敵のチームになれる。だが、現実問題としてそれは難しい。
昨季は「2.68点」あった1試合平均得点数が、今季はよもやよもやの「1.5点」にまで落ち込んでいる。
ウェストブロムウィッチ戦で先制点を挙げたシティのMFイルカイ・ギュンドアンも「チャンスはあったのに、何と言ったらいいかわからない。勝ち点1は非常に残念だ。今日のような試合は勝たなければいけなかった」と、指揮官同様に格下相手のドローを悔やんだ。そして次のようにも語っている。
「日程が過密になっているので、トップに立って何かを支配するチームが1つだけというのはほぼ不可能だ。欧州の全てのチームが連勝を続けられずに苦しんでいる。それでも僕たちには責任があり、特にホームゲームは勝利する必要がある。僕たちだって機械ではなく人間で、苦労しているのは認める。ただ、今後数週間で状況が簡単になるとは思わない」
ウェストブロムウィッチ戦でシティは山のようにチャンスを作った。特に後半は20本ものシュートを放って相手ゴールに迫った。本来なら複数得点を決めるのに十分な数だろう。しかし、この試合ではウェストブロムウィッチのGKが決定的な場面でことごとくスーパーセーブを見せてゴールを許さなかった。
そのGKとは、サム・ジョンストンという。“宿敵”マンチェスター・ユナイテッドの下部組織育ちで、トップチームのベンチ入りも経験している27歳の守護神だ。数々のレンタル移籍を経て、2シーズン前に完全移籍でウェストブロムウィッチに加入すると現在までリーグ戦全試合にフル出場を続けている。連続出場は100試合以上を数えるまでになった。
ジョンストンにとっては「個人的マンチェスター・ダービー」で、モチベーションも高かったことだろう。とにかくシティの選手のシュートを止めまくった。
57分にはラヒーム・スターリングが放った至近距離からのシュートに体を投げ出し、68分にはディフェンスラインの背後に抜け出してきたケビン・デ・ブライネのフィニッシュも体を大きく広げてピッチの外に弾いた。
終盤になっても集中は途切れなかった。86分、デ・ブライネの蹴った難しい弾道のフリーキックを左に倒れてセーブする。キックの瞬間が壁に遮られて見づらく、さらに目の前でバウンドしたボールにしっかりと反応した。
勝てる理由を作り出すべし
後半アディショナルタイムに入った91分には、デ・ブライネの鋭いクロスからギュンドアンがヘディングシュートを放つが、これもジョンストンが必死残した左足に阻まれた。94分にもデ・ブライネのアーリークロスからスターリングがヘディングで決定機を迎えたが、またもジョンストンがゴールマウスに立ちはだかった。今度は右足でのセーブだった。
今季がプレミアリーグデビューとなっている元ユナイテッドのGKは、自身初のシティ戦でセーブ「7回」を記録した。そのうち「4回」はペナルティエリア内からのシュートを阻止したものだった。まさに守護神と言える獅子奮迅の活躍ぶりだ。
実力差は圧倒的で、20本以上のシュートチャンスを作ったのに、1人のGKにこれだけ止められてしまったらさすがのペップも頭を抱えるしかないはずだ。
歴史的ドローの立役者となったジョンストンは「相手に多くの時間でボールを握られることはわかっていた」と述べたうえで、「近くからの2本のヘディングシュートに足を伸ばし、ゴールから締め出した。彼らが(ゴール前に)入れてきたボールの質は信じられないほど高かった。若い僕らは今日の結果をすごく喜んでいる。ビッグゲームだったからね」と勝ち点1獲得の喜びを語った。
正直なところ、グアルディオラ監督が言うように今回のウェストブロムウィッチ戦のような、対戦相手と実力差のある試合でシティの何が問題だったかを正確に把握するのは難しい。神がかり的な決定機阻止を連発したジョンストンが「今日は時々運もあった」と認めるように、本来ならシティが勝利に値する試合内容だった。
ただ、勝たなければならない試合で勝ち点を落としたことが後々に大きく響いてくる可能性があるのは確かだ。ダービーマッチにも引き分けた後で、格下相手にホームで2ポイントを落としてしまったのはチームの精神面に悪影響を及ぼしかねない。
しかも年末年始は日程が極めて過密で、心身ともにリフレッシュするのに十分な時間が取れないまま次の試合がすぐにやってくる。シティは次節、現地19日に中3日で好調のサウサンプトンとのアウェイゲームに臨む。そして現地22日にはリーグカップ準々決勝で、不調のアーセナルとの対戦も控える。
その後もニューカッスル戦、中1日でエバートン戦、続けてチェルシー戦と年末年始は特に厳しい対戦カードが続いていく。この間に選手たちが見せるリアクションや、チームとして残す結果は、シーズン後半戦の戦いぶりを大きく左右する重要なものになるはずだ。
勝てない理由が見つからないなら探すのをやめ、自分たちの力で強引にでも勝てる理由を作り出さなければならない。
(文:舩木渉)
【了】