目次
⚫︎ロイ・キーンはご立腹だが…
⚫︎ラポルトを押しのけ定位置奪回
⚫︎完璧を追求したが故の苦しみ
⚫︎「癖」の克服が自信回復の証
ロイ・キーンはご立腹だが…
「試合が終わった後、選手やスタッフたちはお互いに抱き合ったり、笑い合ったり、おしゃべりしたりしていた。トンネルに降りていくだけじゃないか。理解できない! みんな仲良しこよし、人気者になりたいだけか!」
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現地12日にマンチェスター・ダービーで英『スカイ・スポーツ』のコメンテーターを務めたロイ・キーン氏は、不満を爆発させた。マンチェスター・ユナイテッドの“物言うOB”として名高い氏曰く、ダービーらしくない雰囲気が気に入らないらしい。
「本当に勝ちたいと願ったチームはあったのか?」と疑問を投げかけるキーン氏は、「ダービーの後にこれほど多くのハグやおしゃべりを見たことがない。これはダービーなんだぞ! 勝たなければいけないはずなのに、本当に腹立たしい」とマイクに怒りをぶつけた。
個人的な見解を述べさせてもらえば、もし自分がオールド・トラフォードで今回のダービーを観戦していても「金返せ!」とはならなかっただろうと思う。確かに決定的なチャンスは少なく、比較的静かな展開でスコアレスドローに終わった。それでも90分を通してのピッチ上でのせめぎ合いはハイクオリティで、一瞬も気を抜けない戦いではあった。
「引き分けに納得してはダメなんだ。ジョン・ストーンズが無失点がどうたらこうたら…と話しているのを聞いていたが、そもそもフットボールの試合というのは勝たなければダメなんだ!」
キーン氏の論にも一理あるが、そもそも簡単に失点していたら話にならない。勝つために無失点を目指し、それを実現して「よかったです」と振り返るのに何の問題もないだろう。むしろストーンズは称賛されて然るべき、極めてレベルの高いパフォーマンスを披露していた。
昨季はコンディションが整わず、試合に出れば動きの重さを狙われ、必ずと言っていいほど大きなミスを犯して批判を浴び続けていた。ところが最近は先発起用が増え始め、非常に安定感のあるプレーでマンチェスター・シティのディフェンスラインを支えている。
これまで負傷などがなければ基本的にはレギュラーとして起用され、不在なら必要性が盛んに叫ばれるなど絶対的な柱として扱われてきたアイメリック・ラポルトがベンチに追いやられるほどだ。今季新加入のルベン・ディアスとストーンズが組むセンターバックコンビは、シティの新たな武器となりつつある。
ラポルトを押しのけ定位置奪回
イングランドの中継カメラは積極的にムッとした表情を浮かべてベンチに腰かけるラポルトをアップで抜くから意地悪だなと思うのだが、仕方あるまい。それほどストーンズの復活ぶりが劇的で、結果にも表れている証拠だろう。
今季のプレミアリーグでラポルトが先発した4試合は1勝2分1敗で、4失点を喫している。一方、ストーンズは開幕戦で許した1失点のみで、先発した4試合は3勝1分。直近の3試合は全て無失点に抑えている。
UEFAチャンピオンズリーグも含めれば、11月上旬から公式戦6試合出場で無失点、5勝1分という素晴らしい成績を残している。ストーンズの復活とともに、序盤戦は苦しんでいたシティの状態も上向いているのは間違いない。
シティを率いるペップ・グアルディオラ監督も「ストーンズにはとても満足している」と『スカイ・スポーツ』の取材に対し語っている。
「彼は21歳か22歳でシティにやってきて、すぐにイングランド代表にも呼ばれ始め、それまでプレーしたことのなかったCLの舞台でも戦うことになった。人はしばしば落ち着くための時間とプロセスを必要とする。また、一部の選手は他の選手よりも多くの時間を必要とする場合もある」
2016年夏にエバートンに加入したばかりの頃から成長を見守ってきたペップは、ストーンズの復調を信じて疑わなかったようだ。プレミアリーグ2連覇に貢献した頃のパフォーマンスを取り戻し、さらに成長してチームの力になってくれるはずだと。
「私は決して自分の考えを曲げることはなかった。エバートンからジョンを獲得した時、彼にはここでプレーするに値するクオリティがあると考えていた。ただ、サッカー選手はただ『サッカー選手』であるだけでなく、1人の人間であり、人間には問題を抱えることもあれば、プライベートな部分もある」
完璧を追求したが故の苦しみ
ようやく本来の姿を取り戻せた最大の要因はコンディションが整ったことに違いない。度重なる負傷の影響を克服し、体を思うように動かせるようになったことが精神的な負担の軽減にもつながったのだろう。
ペップは「ピッチ外で問題を抱える選手の中には、ピッチ内に入るとそれを忘れられる者もいれば、ピッチ内でも問題を引きずってしまう者もいる」とも語る。
おそらくストーンズは後者で、コンディションが万全でないなか、“悪いなりにこなす”ようなプレーができず、真摯にペップの厳しい要求に応えようと常に全力で完璧を追い求める傾向があったのではないだろうか。
そしてミスが続いて批判を浴びるとプレッシャーを感じ、精神的にも追い込まれてしまう。シティのように常にトップレベルのプレーが求められる環境であれば、100%のパフォーマンスを発揮するために相応の準備も必要で、それができていない自覚やもどかしさもあったに違いない。まさしく悪循環だ。
それが最近になってコンディション面への不安が解消され、自分でも納得のいくプレーを見せられるようになった。すると心身ともに右肩上がり。無失点を続けることでも自信を深めているのではないだろうか。
マンチェスターダービーでのプレーにも好調ぶりがよく表れていた。センターバックながらタッチ数「91回」、パス数「86本」、パス成功率「97%」という極めて高い数字を記録した。ミスパスはたったの3本のみ。地上戦デュエル勝率も100%で、ユナイテッドの強力攻撃陣を無得点に抑えた。
ビルドアップ面では的確にパスをさばくだけでなく、パスを出した後にポジションを取り直す細かい動きも秀逸だった。重い身体にムチ打って無理な体勢のまま安易にボールに食いついてあっさりかわされるような、不調時に目立った雑なプレーもない。今のストーンズは思い通りに動く身体で、存分にフットボールを楽しめているように映る。
「癖」の克服が自信回復の証
間近でシティを見続けてきたピッチサイドレポーターも明らかな変化を感じているという。『スカイ・スポーツ』のベン・ランサム氏はとレポートしている。
「ストーンズへの批判は、いつもミスを犯したことに対するものだった。そして彼がミスをすると、残念なことにシティは負けるんだ。かつての彼は、ペップがどんな反応をしているかベンチの方をチラッと見て確認する癖があった。それは選手がやるべきことではない。いいプレーをしたい時に余計なプレッシャーがかかっていると感じてはダメなんだ」
だが、それはもう過去のストーンズだ。マンチェスター・ダービーを無失点で終えた26歳のイングランド代表DFは吹っ切れた様子で、守備への自信を語った。
「僕たちはクリーンシートを継続してDFとしての仕事を果たせたと思う。無失点は僕たちがトップに行くため、自分たちを表現するための土台になる。ダービーはいつもの試合と違うし、アウェイでクリーンシートを達成できたことを本当に嬉しく思う」
さらに「どのクラブと対戦するのも、僕たちにとっては挑戦になる。今日は多くの点で膠着状態だったけれど、僕たちが見せた姿勢からは多くの物を得ることができたと思う」とチャンスが少ない展開でもアウェイで勝ち点をもぎ取れたことの成果を強調した。
試合後に、自分と同様に鮮烈なパフォーマンスを見せたユナイテッドのDFハリー・マグワイアと熱い抱擁をかわしたシーンは象徴的だった。ストーンズとイングランド代表でコンビを組んできたユナイテッドのキャプテンも低調ぶりを厳しく批判されてきたが、ダービーではシュートブロック「3回」、インターセプト「4回」、空中戦勝率「100%」など守備者として極めて優秀なスタッツを残した。
シティのセンターバック争いは熾烈だ。現在主力を張るストーンズとルベン・ディアスが、ラポルトやエリック・ガルシア、ナタン・アケーといった強力なライバルたちにすぐ追い落とされる可能性も十分にある。
とはいえ、ストーンズの復調はシティにとって大きなアドバンテージになる。心身ともに良好なコンディションを維持し、ファンやメディア、解説者たちからのプレッシャーに負けることなく活躍を続けて欲しいものだ。その先に1年以上遠ざかっているイングランド代表への復帰も見えてくるだろう。
(文:舩木渉)
【了】