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運も味方し首位通過
今季のミランが勝てるチームだということを再証明し、最後には首位に立っていたリールが最下位セルティックに敗れるなど運も味方につけた。2018/19シーズンのヨーロッパリーグ(EL)でまさかのグループリーグ敗退に終わっていたイタリアの名門は、その過去の苦い記憶を払拭するように、今度は首位でベスト32入りを決めている。
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このスパルタ・プラハ戦でステファノ・ピオーリ監督は主力を温存。GKチプリアン・タタルシャヌを除いた10人全員が20代、それも2000年1月1日以降に生まれた選手が4人もいるという、とびきり若いスタメンで挑んでいる。
立ち上がりは一進一退の攻防が続いたが、最初に流れを掴んだのはアウェイのミランだった。
スパルタ・プラハは守備時に5バックとなり、中盤3枚で最終ライン前のスペースを警備していた。しかし、当然中央はかなり堅かったが、その分ミランはサイドバックがフリーになる機会が多くなる。そこを重点的に使い、相手を押し込んだのだ。
中でも良い役割を果たしていたのは左SBのディオゴ・ダロだ。ポルトガル人らしい足下の技術を持つ同選手はビルドアップで大きく貢献しており、そこまで深く入り込むことはなかったが、良いタイミングの攻め上がりで攻撃に厚みを加えていた。ダロは右利きなので左サイドだと内側を向いてプレーすることも多かったが、マークがそこまで激しくなくボールを持てる状態が続き、かつ視野が確保できるので非常にやりやすそうな印象を受けた。
23分にはそのダロが左サイドでボールキープ。DFを引き付けたところでイェンス・ペッター・ハウゲへパスを出すと、同選手はそのままドリブルで相手を剥がしゴール右隅へシュートを流し込んでいる。ダロはアシストを記録した。
こうして1点をリードしたミランだったが、その後は攻めあぐねた。先述した通り中央が堅いため、最前線ロレンツォ・コロンボや2列目のダニエル・マルディーニらが孤立。サイド攻撃も当然すべてがうまくいくわけはなく、チャンスらしいチャンスは少なかった。
後半に入ると試合はよりオープンな展開となり、お互いにゴール前まで攻めるシーンが増えた。その中でミランは何度か決定的なピンチを迎えたが、ベテラン守護神タタルシャヌが安定したセービングで失点を許さない。1点リードを守り続けていた。
スパルタ・プラハは終盤に退場者を出してもなお1点を奪いにきたが、ミラン守備陣は最後まで耐えた。こうして、ピオーリ監督率いるチームは首位通過という最高の成績を手に入れたのである。
頼もしいハウゲの個人技
これでELはグループリーグの全日程を終えた。ミランは6試合で4勝1分1敗という成績。6試合で実に12得点をマークしている。
突然だが、ここまでのELにおけるチームMVPを挙げるとすればイェンス・ペッター・ハウゲになるだろう。改めて、ミランは良い買い物をしたと感じる。
このスパルタ・プラハ戦でもハウゲの存在感は絶大だった。
主力を温存し、普段あまり出場機会のない選手のみで挑んだミランは、正直なところ攻撃面の連係という部分がほぼ皆無だった。23分の先制点の場面は狙った形かもしれないが、その他に5バックの相手を前にフィニッシュまでスムーズに運べたシーンは1回あったかどうかというところだ。
そうした中で重要となるのはやはり個の力であった。そして、その「個」で強烈な輝きを放ったのが、他ならぬハウゲである。
幼少期にフットサルで磨いたテクニックでボールを自由自在に操り、身長184cm・体重75kgという体躯からは想像できない加速力で相手を置き去りにする。「彼の最高のスキルは1対1だと思う」とピオーリ監督も話す通り、高確率でDFを剥がすことができるハウゲのこうしたプレーは、勢いのなかった攻撃に大きな可能性をもたらしていた。また、シュートセンスも非凡で、この日の先制弾も難しい角度からボールを流し込んでいる。
ハウゲはスパルタ・プラハ戦でドリブル成功数3回を記録。攻撃陣では最多の数字だ。また、キーパス1本、シュート数3本、パス成功率86%という数字も出ている。全体的に攻撃が厳しかった中、素晴らしい結果と言ってもいい。
また、ハウゲはここまでEL予選(ボデ/グリムト時代)、本大会グループリーグ合わせて8試合に出場しているが、6得点2アシストという成績を収めている。グループリーグに限れば3得点1アシストで、もちろんチーム内では最も多くの得点に関与しているということになる。
さらに、公式戦4得点を記録した選手の中で、ハウゲは現時点でセリエA所属全選手中最年少というデータも出ている。
「私たちが対戦相手としてハウゲと出会ったとき、彼はすでに何ができるかを証明していたので、私たちは彼がそのフォームを続けることを望んでいた。彼はまだ完璧ではなく、もっと向上させることもできるが、パフォーマンスには満足している」。
「彼には90分間における守備面での集中力など改善すべき点はたくさんあるが、我々は彼の資質を見ていたし、クラブはこのような選手と契約できたことは非常に良かったと思う」とピオーリ監督もハウゲを称賛している。指揮官の言葉通りまだ改善すべき点はあるが、若きノルウェー人は今後もミランに光を照らすはずだ。
最大の発見は…
また、スパルタ・プラハ戦では新たな発見もあった。それが、ピエール・カルルである。
バイエルン・ミュンヘンなども狙っていたというU-20フランス代表戦士は、スカウト責任者のジョオフレイ・モンカダが目を付けた逸材で、パオロ・マルディーニの説得が響き今夏にミランへやって来た。ただ、新天地ではなかなか出番が訪れず、ベンチを温める日々が続いていた。
しかし、スパルタ・プラハ戦でようやくチャンスが到来。本職は右サイドバックなのだが、この日のポジションはセンターバックだった。
カルルはミラン移籍後初の公式戦だったが、落ち着いて試合に入った。アスリート能力の高さはさすがで、パワーやスピードで簡単に負けることがない。判断力もこの日は冴えており、左SBダロのカバーリングも丁寧に行っていた。
足下のテクニックにはやや不安があったが、肝心の守備では最後まで大崩れすることがなかった。そもそも大きな出番が少なかったという点は否めないものの、デュエル数3回中2回勝利、空中戦でも4回中3回勝利しているなど、このあたりは申し分ない。無失点に大きく貢献していた。
ミランのCBはアレッシオ・ロマニョーリとシモン・ケアーが不動で、3番手に成長中のマッテオ・ガッビアがいるという状況。その中で4番手は? といったところだったが、この日のパフォーマンスを見る限り将来性も含めカルルで固めてもいいのではないだろうか。
また、カルルは本職右SBで、左にも対応する。今後も過密日程が続き、いつ誰がどのタイミングで離脱するかわからない中、最終ライン全域をカバーできる存在は間違いなく大きい。まだまだ即戦力には遠いが、育成する価値は十分に高い。スパルタ・プラハ戦で見せたカルルのパフォーマンスは、そう感じるだけのものがあった。
(文:小澤祐作)
【了】