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ベティス戦で移籍後初ゴール
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現地11月30日に行われたラ・リーガ第11節のベティス戦で、エイバルに所属する日本代表FW武藤嘉紀が移籍後初ゴールを挙げた。
ゴールが決まると、チームメイトたちが嬉々として一斉に武藤に駆け寄って祝福する様子が見られた。なかなか結果が出ず苦しみながらも、日々の練習から手を抜くことなく準備を続けていた姿勢を周りの選手たちは見ていたのだろう。
加入から2ヶ月以上が経ってのラ・リーガ初ゴール、しかも貴重な先制弾とあって、武藤の周りにできた歓喜の輪は最高の雰囲気だった。
「リーガ初ゴール! 本当に長かった。応援し続けて下さった方々本当にありがとうございました! 一喜一憂せず頑張ります。Muchas gracias amigos」
武藤は自身のインスタグラムにそう記した。「本当に長かった」という言葉からも、初ゴールまでの2ヶ月がストライカーの彼にとってどれだけ苦しかったかうかがい知ることができるだろう。
エイバルを率いるホセ・ルイス・メンディリバル監督も「彼が我々とともにゴールを決めたのはいいニュースだ」と、ニューカッスルから期限付き移籍で加入した日本代表FWの初ゴールを喜んだ。指揮官にとっても得点力不足解消の切り札のつもりで獲得に踏み切ったはずである。
一方で「彼は私の言っていることをほとんど理解できていないと思う。彼には通訳が必要なんだ。タカ(乾貴士)や、他の誰かが違う言語を使わなければならない」と、スペイン語を解さない武藤との間にコミュニケーション面の壁があることも認めている。エイバル在籍歴が長い乾貴士と違い、ドイツ語圏や英語圏でプレーしてきた武藤はスペイン語の習得に苦戦しているようだ。
「しかし、今日、彼は我々の指示を理解していることを、全員に認識させたと思う。ゴールではない部分でもセンセーショナルな仕事をし、試合の均衡を破ってくれた」
メンディリバル監督は、ベティス戦のパフォーマンスから武藤への信頼を深めているようだ。「あいつは本当に自分の言っていることをわかっているのか? 想定通りに動いてくれるのか?」といった不安は解消に近づき、今後の起用にも目処が立ったということだろう。
「現時点で彼がここでの仕事に慣れてくれているのかはわからないが、我々はストライカーに(年間)15得点を求めるつもりはない。我々は(ストライカーに)多くのことを求めるし、彼は今後のチャンスも生かすだろう。最終的に武藤は8〜10ゴールを決めてくれるはずだが、結局のところ、懸命に働くことが我々が1部リーグに残ることを助けてくれるのさ」
バレンシア戦の出来は…
エイバルは12試合消化時点で9失点と守備は堅いが、逆に攻撃面では8得点とリーグ内最低クラスの貧打にあえぐ。武藤はその中で得点源として期待されるのはもちろん、チームの組織守備の一部として機能することも求められる。1部残留が目標のクラブにおいて、メンディリバル監督が「懸命に働くこと」を重視するのはそのためだ。
ベティス戦から7日後の現地7日、武藤はラ・リーガ第12節のバレンシア戦にも出場した。先発起用は3試合連続で、ベテランのキケ・ガルシアと2試合ぶりに2トップを組んだ。
結果はスコアレスドローで、2試合連続ゴールを逃した武藤も不完全燃焼に終わった。もしバレンシア相手にもゴールを決めていれば、さらに勢いに乗っていけるはずだったが、現実はそんなに甘くない。
82分間の出場でシュートもペナルティエリア外からの1本だけと、なかなか決定的な場面に絡めなかった。相棒のキケ・ガルシアが7本ものシュート(うちペナルティエリア内から6本)を放っていたのとは対照的だった。
とはいえネガティヴになる必要はない。武藤は要所で正確にポストプレーもこなし、ピッチを幅広く動き回れていた。ペナルティエリア内に入って仕掛けるようなチャンスは少なかったものの、ボールを受ける位置と周囲の選手たちとの関係性は明らかに向上していて、前節ベティス戦よりもゴールに近いポジションでプレーに絡む回数は増えていた。
むしろ攻撃の形がサイドからの崩しとクロスに頼りがちなのはチームとしての大きな課題で、中盤からいい縦パスが前線に入らず、武藤にとって持ち味を最大限に活かせる状況ではない。逆に大柄で屈強なキケ・ガルシアのようなFWの方が武器を発揮しやすい。
浮かび上がる収穫と課題
【写真:Getty Images】
バレンシア戦はシュート数で19対6と大きく上回りながら、エイバルの枠内シュート数はわずかに3本。キケ・ガルシア、中盤のエドゥ・エスポジト、途中出場のFWセルジ・エンリクが1本ずつゴールの枠内にシュートを飛ばせただけで、他のほとんどは逸れていった。GKマルコ・ドミトロヴィッチの活躍がなければ負けていてもおかしくない試合だった。
やや体力面に不安を残すものの、躍動感を取り戻しつつある武藤がさらに活躍するには、ペナルティエリア内に前向きで侵入できる回数を増やす必要がある。「年間8〜10得点」を期待されているなら、もっとゴールに近い位置でプレーできる時間を長くしなければならない。
今のエイバルで崩しの鍵を握るのは、セビージャから期限付き移籍で加入した若手のブライアン・ヒルだ。左サイドから単独の仕掛けで相手を翻弄する19歳の逸材は、多くの場面で攻撃の起点となる。
あまりに細身で肉弾戦の多い展開になると簡単に潰されてしまうなどの課題はあるものの、ブライアン・ヒルの打開力はエイバル攻撃陣の生命線だ。武藤は両サイドの乾やブライアン・ヒルと近い距離で絡みながら、コンビネーションでペナルティエリア内に侵入していく形を模索するのがよさそうだ。
はっきり言ってゴール前に立ってクロスを待っていても、ラ・リーガのハイレベルなセンターバックを相手に競り勝てる確率はそれほど上がらないだろう。中盤からクリティカルな縦パスが差し込まれてくる回数も少ないなら、サイドの選手の突破を近距離で助けつつラストパスをもらう展開を増やす方が前向きにゴールに近づけるのではないだろうか。
ベティス戦のゴールで周囲のチームメイトたちや監督・スタッフからの信頼度がグッと上がったのは間違いない。先発出場時に見せる周囲との連係も印象も悪くない。武藤自身、ゴールを決めたことで重圧から少し解放されたはず。これからは周りがもっとよく見えるようになってプレーの躍動感も増してくるに違いない。
コミュニケーション面の問題を少しでも克服し、メンディリバル監督の期待と要求に応えられれば、エイバルの1部残留という目標を果たすうえで非常に重要な存在になれるはずだ。ドイツ、イングランド、スペインと3ヶ国のトップリーグでゴールを決めた初の日本人選手となった28歳のゴールハンターの今後の変化を楽しみに見ていきたい。
(文:舩木渉)
【了】