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スタメン最年長が27歳
2020年に行われたリーグ戦において、ミランが無得点に終わったのはたった1試合しかない。それが、1月の2019/20シーズン、セリエA第18節のサンプドリア戦であった。この時ミランは計19本のシュートを放ったが、勝ち点1を奪うに留まっている。
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そして迎えた2020/21シーズンのセリエA第10節。首位に立つミランは、今年のリーグ戦で唯一無得点に抑えられたサンプドリアを相手に、再び苦戦を強いられることになった。
ズラタン・イブラヒモビッチ、シモン・ケアー、イスマエル・ベナセルら主力を怪我で欠くミランは、ステファノ・ピオーリ監督の下で成熟させている4-2-3-1を採用。先発の最年長が27歳アンテ・レビッチという、かなりフレッシュなメンバーで挑んでいる。
前半の立ち上がりからボールを握ったミランだったが、サンプドリアのコンパクトな4-4-2布陣を前に窮屈な戦いを強いられた。最終ラインでのボール回しはある程度許されているが、少しでもパスを前に出すと素早く寄せてくる。スペースは狭められ、スムーズな攻撃を繰り出すのは難しくなっていた。
そんなコンパクトな陣形を崩すため、ミランはロングボールも多く活用した。しかし、イブラヒモビッチという絶対的ターゲットが不在の中で、パスが収まる確率はそこまで高くない。レビッチはよく身体を張っていたが、サンプドリアに対し効果的だったかと問われると、答えは「ノー」だ。
それでも、ミランは少しラッキーな形で点を奪う。前半終了間際、テオ・エルナンデスがヤクブ・ヤンクトのハンドを誘発し、PKを獲得。これをフランク・ケシエが沈め、アウェイチームが1点リードを奪うことに成功している。
的中したピオーリ采配
後半、ピオーリ監督は精彩を欠いていたブラヒム・ディアスを下げ、好調のイェンス・ペッター・ハウゲを投入。かなり早い決断だったが、結果的にこれが功を奏すことになる。
サンプドリアは後半途中から疲労の影響なのか、全体のラインの上げ下げが少し曖昧となっていた。それがよく表れた場面が57分だ。
中盤でボールを拾ったアレッシオ・ロマニョーリがジャンルイジ・ドンナルンマへバックパス。この時、グラウンダーのボールではなく少しフワッとしたパスだったため、ドンナルンマの処理が難しくなると判断したファビオ・クアリャレッラはスプリントしてプレスした。しかし、その後ろの選手がまったくポジションをアップしておらず、ドンナルンマは冷静にサイドへパス。それを見たクアリャレッラは両手を広げ、味方の動きに対しての不満をアピールしていた。
そんなサンプドリアに対し、ピオーリ監督は76分にアレクシス・サレマーカーズを下げてサム・カスティジェホを投入。右サイドに再び運動量をチャージするための交代だった。
するとその直後、ハウゲが左サイドでDF一枚を剥がすと、ボックス内へランニングしたレビッチへパス。パスを受けた背番号12が中央へ折り返すと、最後は反対サイドから飛び込んできたカスティジェホがゴールネットを揺らした。再びピオーリ監督の采配が的中したのである。
ハウゲがドリブルで相手をかわしたことで、サンプドリアは守備陣にズレが生じた。その中でランニングを見せたレビッチ、カスティジェホについていくことができず、最後はフリーでシュートを放たれている。上記した57分のシーン同様に、守備陣の連動性が失われていた。
ミランはその後、アルビン・エクダルに1点を返されたものの、リードを守り切り勝利。今季リーグ無敗を維持し、首位の座もがっちりキープしている。
数々の記録
このサンプドリア戦に勝利したことで、ミランは数々の記録を打ち立てている。
まずは、リーグ戦30試合連続得点というチーム新記録。イブラヒモビッチがミラン復帰後初先発を飾った2019/20シーズンの第19節カリアリ戦から、ずっとゴールに愛され続けているのだ。
そして、ミランは今季開幕10試合のすべてで複数得点を記録。これはセリエA史上2チーム目のことだ。ちなみにリーグ記録は昨季のアタランタが打ち立てた11試合となっている。
また、サンプドリア戦勝利で、ミランは今季セリエA開幕10試合で8勝目をあげることになったが、これを上回るのは1954/55シーズンの9勝のみとなっている。さらに、リーグにおけるアウェイ戦7連勝も記録。これを上回るのは1993年、ファビオ・カペッロ監督体制時の9勝のみとなっている。
イブラヒモビッチ不在で戦力が大きく落ちるかと思われたが、どうやら心配ないのかもしれない。背番号11がいなかったリーグ戦4試合ですべて勝利しており、ヨーロッパリーグ(EL)も1勝1分という成績である。
若さゆえ、ところどころ粗削りな部分がある点も否めないが、今のミランにはそれをチーム全体でカバーできる総合力がある。少し前までであれば、先制点を許しただけで意気消沈し、立て直せぬまま負けるということも少なくなかったが、今のチームには簡単に試合を落とさない忍耐力も備わっている。
イブラヒモビッチ不在でチームの戦い方は変わる。しかし、たとえば彼の代役を担っているレビッチは背番号11には出せない献身性やサイドへのフリーランニングなど、自分の持ち味を発揮し新たな可能性を生んでおり、今季リーグ戦で得点はないがアシスト3つという結果も残している。やはりレビッチはCFよりもサイドの方が輝くという点は否めないが、こうした選手個々の柔軟なプレーが今のミランの強さを支えていると言っても過言ではない。
上記した記録も示す通り、今のミランの強さは本物だ。かつてのようなビッグタレントは少ないかもしれないが、黄金期が再び来たのかもしれない。
(文:小澤祐作)
【了】