目次
⚫︎出だしは最悪だったが…
⚫︎ハーランドやウーデゴー級の逸材
⚫︎独力で打開した1得点1アシスト
⚫︎あふれ出るスターの素質
出だしは最悪だったが…
ミランが欧州カップ戦の90分間で2点差をひっくり返して逆転勝利するのは史上初めてらしい。
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逆境を物ともせずに突き進み、歴史的な勝利をもぎ取ることができたのは、今のミランの好調ぶりをよく表していると言えるだろう。
一方で、幸先のいいスタートを切りながら4失点して散ったセルティックは、「2-0は危険なスコア」というサッカー界でまことしやかに囁かれ続けてきた“神話”の恐ろしさを実感したのではないだろうか。UEFAヨーロッパリーグ(EL)では3試合連続の4失点、2試合連続の逆転負けでグループステージ敗退が決まった。
現地3日に行われたELのグループステージ第5節で、ミランはセルティックに4-2に勝利した。新型コロナウイルス感染から帰還したばかりのステファノ・ピオリ監督は「順調なスタートを切ったのに、2つの不注意がチームを困難に陥れてしまった」と悔やんだが、終わってみれば逆転勝ちで決勝トーナメント進出も確定。底力を見せた。
失点はお粗末なものだった。7分、ラデ・クルニッチがGKジャンルイジ・ドンナルンマからのパスを受けて不用意に反転しようとした際、コントロールが乱れてトム・ロギッチにボールをかっさらわれた。これが1失点目に直結した。
映像を見る限りでは14分の2失点目の場面でも、クルニッチがボールを失っている。最終的にはライアン・クリスティーのスルーパスに抜け出したオドソンヌ・エドゥアールが、GKドンナルンマの飛び出しをあざ笑うかのようなループシュートでゴールネットを揺らした。
しかし、ミランはわずか2分間で同点に追いつくことに成功する。24分にハカン・チャルハノールが見事な直接フリーキックを決めて1点を返す。セルティックのGKが一歩も動けなかった。そして26分には左サイドを駆け上がってきたテオ・エルナンデスの折り返しに、逆サイドからサム・カスティジェホが詰めてタイスコアに戻した。
ハーランドやウーデゴー級の逸材
後半、ミラン勝利の立役者となったのは10月に加入したばかりの21歳、イェンゥ・ペッター・ハウゲだった。
彼にとってこの2ヶ月は周囲の環境も自分の置かれた立場も目まぐるしく変わっていった、キャリアの転換期となったことだろう。
春秋制の母国ノルウェーリーグで18試合出場14得点10アシストという凄まじい成績を残していたハウゲは、今夏のEL予選でも鮮烈なパフォーマンスを披露する。特に予選3回戦では、ミラン相手に1得点1アシスト。チームは2-3で敗れて敗退してしまったが、これが移籍の決定打となったのは間違いない。
10月1日にボデ・クリムトからミランへの完全移籍が決まったハウゲは、2025年夏までの5年契約にサイン。マンチェスター・ユナイテッドやRBライプツィヒも狙っていたという逸材は、たった500万ユーロ(約6億円)以下の移籍金でイタリアへ渡ることとなった。
母国ノルウェーでは、アーリング・ブラウト・ハーランドやマルティン・ウーデゴーに匹敵する大きな期待を背負っているという。移籍が決まって3日後のスペツィア戦でセリエAデビューを飾ると、10月11日にはノルウェー代表デビューも飾るなど、評価は飛ぶ鳥を落とす勢いで高まっている。
まだセリエAでの先発起用は一度もないが、すでにナポリ戦で初ゴールを記録。ELではミランでのグループステージ初出場だったアウェイでのセルティック戦終盤に途中起用され、わずか10分ほどの出場時間で初ゴールを挙げた。
そして今回のセルティック戦は、前節に続く加入後2試合目の先発起用。2-2で迎えた後半に、潜在能力の高さを証明する働きでミランを勝利に導いた。
後半開始してすぐの50分だった。左サイドのタッチライン際でボールを受けたハウゲは、カットインして一気にスピードを上げると、寄せてきた相手ディフェンス3人の間をするすると抜けて右足でフィニッシュ。柔らかくコントロールされた低い弾道のシュートは、GKの伸ばした手をかすめてゴール右隅に収まった。
独力で打開した1得点1アシスト
さらに82分、再び左サイドで味方からのロングパスを受けると、カットインしてペナルティエリア内の狭いスペースに突っ込んでいく。そこでハウゲはボールを奪いにきた2人の相手DFの間に針の穴を通すような精度のスルーパスを送り、反応したブラヒム・ディアスがループシュートで追加点。リードを2点に広げた。
味方がボールを失ったら必ず自陣まで戻って守備をサポートするなど献身的で、自軍ポゼッション時は与えられた左サイドのポジションを守り、パスを受け取ったら勇敢に仕掛ける。自ら決勝点を奪い、駄目押しゴールもアシスト。この日のハウゲは無敵の活躍ぶりだった。
「勝てて本当にうれしいよ。試合に入りは良くなかったし、何もできなかったけれど、フットボールにおいてミスは起こりうるものだ。僕たちはみんなでラデ(・クルニッチ)をサポートするつもりだし、彼は素晴らしい選手。ミスは誰にだってある。それよりも今日は失点した後の反応が本当に良かった。チームのパフォーマンスは素晴らしかったと思う。幸せだよ」
試合後にミラン公式チャンネルのインタビューに応じたハウゲは、失点に関与したチームメイトを気遣いつつ、まずは勝利の喜びから語り始めた。そのうえで「毎日成長し続けたい」と、1得点1アシストの結果に満足することなく努力し続けることを誓っている。
「僕はハードワークしただけ。毎日成長し続けたい。これだけ偉大な選手たちと一緒にプレーするというのは、僕にとって新たなステップなんだ。このチームにはファンタスティックな選手たちがたくさんいる。だから毎日が楽しいし、学んで、成長しようとしているところだよ」
開幕から好調なチームに途中加入し、徐々にではあるが周囲の信頼は厚くなってきている。だからこそELのグループステージ突破がかかった重要な試合で先発のチャンスが与えられただろうし、出場時間も伸びてきているのだろう。
あふれ出るスターの素質
ピオリ監督もハウゲのポテンシャルの大きさを認めている。「ハウゲが彼の持っているクオリティを見せてくれて本当にうれしい。私は彼がまだまだたくさん成長できることを信じている。一緒に仕事をし始めてからそれほど長くはないし、まだ言語面でも難しいところがあるからね。それに彼はまだピッチ上でポジションに慣れているわけではない。それでも非常に質の高い選手には間違いないよ」と、2得点を挙げた21歳のノルウェー代表FWに賛辞を送った。
今のミランは好調だが、絶対的エースのズラタン・イブラヒモヴィッチが負傷離脱中。セルティック戦ではディフェンスラインの柱だったシモン・ケアーが負傷交代してしまい、しばらく戦線から離れることになると見られる。
ならば勢いのある若手たちがチームを引っ張って、ベテラン勢の不在を補わなければならない。セルティック戦でゴールを挙げたブラヒム・ディアスや、中盤で存在感を発揮するサンドロ・トナーリ、右サイドに定着しつつあるアレクシス・サーレマーケルス、左サイドバックで躍動するテオ・エルナンデスらにかかる期待は大きい。もちろんハウゲの台頭も、ミランが勝ち続けるうえで重要な原動力となるはずだ。
「試合に出られる機会を楽しめているよ。特に欧州カップ戦のような場は本当に楽しい。僕たちは力強い選手たちが揃うグループだし、まだまだたくさん試合がある。僕たちにとって完璧な状況だと思う」
ハウゲは大舞台にも物怖じしない強靭なメンタリティも備えている。独力で局面を打開してチームを勝利に導く力だけでなく、献身性や責任感、新しい環境にいち早く順応して成長しようという意欲にもあふれている。
若きミランの躍進を象徴する選手の1人として、ノルウェー出身の21歳、イェンス・ペッター・ハウゲから目が離せない。成功への階段はまだまだのぼり始めたばかりだ。
(文:舩木渉)
【了】