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「深さ」を作れるFW
上田綺世とエヴェラウドの2トップが強烈だ。上田は先発しているここ5試合で4ゴール、エヴェラウドはすでにリーグ17ゴールで得点ランキングの2位につけている。
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上田はCFでしかプレーしないが、エヴェラウドは左サイドで起用されることもある。ただ、この2人はトップに並べたほうが相手にとっては嫌だろう。2人とも飛びぬけて長身というわけではないがヘディングが非常に強い。落下点に入っていくタイミング、ジャンプ力、コンタクトの強さもある。どちらか1人でも威力はあるが、2人並べば相手には脅威だ。ヘディングだけでなく、2人とも素早く動けて強烈なシュートを打てる。
この2人を前線に並べるとしたら、4-4-2か4-3-1-2が選択肢になる。4-4-2の場合、サイドハーフ(SH)は中へ入ってハーフスペースでプレーすることが多い。タッチライン沿いにはSBが進出する。鹿島に限らずどのチームでもそうなのだが、ビルドアップ時に後方のハーフスペースでボールを保持した選手は、外のSBへのパスとハーフスペースのSHへの縦パスの2つが、メインのパスコースになる。
ただ、上田とエヴェラウドを2トップに起用すると、もう1つ奥へのパスコースも使える。外とハーススペースが使いにくくても、斜めに動いてサイドへ流れるFWへのロングパスというコースが作れる。そこへ相手のCBを1人つり出せれば、次の展開が有利にもなる。
FWがサイドへ流れるだけなら、背後から相手が迫ってくるので、そこで潰されて終わりになる可能性もあるのだが、上田とエヴェラウドはスピードもあり、フィジカルコンタクトに強いので、そこでキープできる。この深い場所でキープすれば、後方の味方は一気に押し上げられる。「深さ」を作れるという強みが、鹿島の2トップにはあるわけだ。
激しい競争を生き抜く上田綺世
J1のCFはだいたい長身になっている。鹿島の2人もいちおう長身の部類だが、オルンガ(柏レイソル)、レアンドロ・ペレイラ(サンフレッチェ広島)のように190cmクラスもいる。
ジュニオール・サントス(横浜F・マリノス)、レアンドロ・ダミアン(川崎フロンターレ)、長沢駿(ベガルタ仙台)、ドウグラス(ヴィッセル神戸)、アンデルソン・ロペス(北海道コンサドーレ札幌)、パトリック(ガンバ大阪)といった大柄なFWが活躍している。
長身FWは今季にかぎったことではないが、数が増えた印象はある。これはJリーグだけでなく世界的な傾向でもある。
かつて長身FWといえば、ポストプレーやヘディング専門という感じだったが、現代の長身FWは足も速く機敏でテクニックも優れているのが普通になった。守備もしっかりやれるタイプも多く、戦術的に使いやすくなった。マルコ・ファン・バステンやズラタン・イブラヒモビッチは、あのサイズであのテクニックということで希少だったのだが、それがすっかり標準化したのだ。
空中戦やコンタクトの強さという特徴はそのままで、それだけではないFWが活躍している。J1も例外ではないわけだ。
ただ、長身でフィジカルも強い日本人CFはまだそんなにいない。GKやCBもほんの少し前までは少なかったが、どちらも若手を中心に急激に増えている。FWだけ高身長がいないはずはない。実際に高身長FWも増えているのだが、J1でレギュラーポジションを獲れていないのだ。外国籍選手で占められているCFのポジション争いは厳しい。
上田はレギュラーポジションを獲得した数少ない若手FWの1人だ。ラストパスを呼び込む動きが素晴らしく、フィニッシュの正確性がついてくるようになった。大迫勇也のライバルがなかなか現れなかった日本代表の状況も変わってくるかもしれない。
(文:西部謙司)
【了】