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Jリーグ 4年前

ヴォルティスの再現性、アビスパの掌握力、V・ファーレンのバランス。J1昇格を争う3チームが持つ強みとは?【週刊J批評】

明治安田生命J2リーグも37節を消化した。2つの昇格枠を争う戦いは、実質的に徳島ヴォルティス、アビスパ福岡、V・ファーレン長崎の上位3チームに絞られている。それぞれのチームはどのようにして昇格争いを戦ってきたのか。終盤戦のメインキャストとなった3チームの特徴と強みを紐解く。(文:河治良幸)

シリーズ:週刊J批評 text by 河治良幸 photo by Getty Images

佳境を迎えるJ2。徳島の再現性

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【写真:Getty Images】

 “魔境”J2も最後の直線。5試合を残して徳島ヴォルティスが勝ち点77で首位を走り、9月から猛チャージをかけたアビスパ福岡が終盤戦でも伸びを見せて勝ち点73、そしてV・ファーレン長崎が勝ち点70で追いかける。

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 数字的には勝ち点59で4位のギラヴァンツ北九州、さらに同58のヴァンフォーレ甲府にもわずかながら可能性がある。しかし、今年は通常3位から6位のチームが参加できていたJ1参入プレーオフが無い中で、上位3チームが優勝と2枠の昇格をかけてラストスパートをかけている状況だ。3つのチームを見ると、それぞれの特徴と強みがある。

 首位の徳島ヴォルティスは何と言っても就任4年目のリカルド・ロドリゲス監督が欧州仕込みの洗練されたスタイルをさらに成熟させて、非常に再現性の高いサッカーを展開していることが最大の強みだ。入れ替え戦で惜しくも涙を飲んだ昨シーズンのオフは、MF野村直輝(大分トリニータ)やGK梶川裕嗣(横浜F・マリノス)がJ1に、長崎からの期限付き移籍ながら獅子奮迅の活躍を見せたヨルディ・ヴァイスもレンタルバック後、京都サンガに移籍した。

 それでも残った主力の選手たちが継続性を可能にし、さらに新加入のGK上福元直人、鹿島アントラーズから武者修行している大型FW垣田裕暉などがそれを強化した。特に新たなエースとして前線に君臨している垣田はここまで13得点を記録し、9得点の河田篤秀や7得点の西谷和希など、味方の得点に大きく関与している。

 システムは3-4-2-1と4-2-3-1を使い、3-5-2の試合もあったが、戦い方のベースが変わることはない。ボールを握りながら立ち位置でアドバンテージを握っていくことで、自分たちからアクションを起こしてフィニッシュまで完結させる。

 もちろんチームのベースがちゃんとあるからこそ、アクセントとしてのカウンターも効果が増している。そして見逃せないのは試合終盤の安定感だ。2月の開幕2試合目に3-0からセットプレー4発で愛媛FCに逆転勝利を献上したことも、交代枠が5枚になったリーグ再開後に教訓として生かされていると言える。

福岡のゲームコントロール

 サッカーの戦術に絶対の正解はないものの、徳島の戦いぶりを見ると、いかに継続的にチームを作ることがアドバンテージになりうるかを物語っている。その一方で昨シーズンまで水戸ホーリーホックを率いていた長谷部茂利監督が就任1年目のアビスパ福岡は、徳島と違う意味での強さを発揮する形で終盤戦の昇格争いに割り込んできた。

 相手陣内でボールを奪い、攻撃に人数をかけていくという、長谷部監督が目指すサッカーからの理想から見れば、チームとしては志半ばにあるものの、連勝街道に乗ったところからチームの攻守が噛み合った。4-4-2を軸としたシンプルな戦い方に一丸となることで、無類の勝負強さを見せつける。勝っても勝っても慎重に謙虚なコメントを続けていた長谷部監督だが、昇格が現実目標として明確になってきたところで、より結果にフォーカスしてきている様子が見られる。

 徳島と異なり、データ的には相手よりボール保持率やシュート数で下回る試合も少なくない。それでも、先に失点せずにジワジワとプレッシャーをかけ、リードを奪ったら”ウノゼロ”(イタリア語で1-0)のまま試合を進める。相手に隙が見えたところでカウンターから追加点を狙いながら勝ち切るというゲームコントロールは見事だ。

 その主軸を担うのがボランチの前寛之。一時は新型コロナウイルスの陽性反応が出て離脱したが、復帰後に絶大の存在感を示す。その前と並んで後半戦の躍進の立役者となったのがサンフレッチェ広島から夏に加入した松本泰志で、豊富な運動量と集中力を武器に、すぐに長谷部監督の信頼を勝ち取って中盤にインテンシティーを注入し続けている。

 さらに連勝街道のきっかけとなったジェフ千葉戦での起死回生の同点弾から持ち前の得点力が戻ったフアンマ・デルガド、柏レイソルからのレンタル1年目にして守備の要として定着する上島拓巳、J2としては規格外の推進力で速攻に厚みをもたらすエミル・サロモンソン、サイドアタッカーとしてブレイク中の増山朝陽など。適材適所の役者が揃っていることも見逃せない。

 徳島のように終始、相手から主導権を握るスタイルではない。それでも、無敗記録がストップして勢いが止まってもチームとして立て直し、直近5試合で3勝2分と二段ロケットのような戦いぶりで5年ぶりのJ1復帰に向けて一眼となっている。

長崎のバランス

 3位の長崎は前半戦を首位で引っ張り続けたが、途中で北九州に首位のポジションを明け渡し、さらに福岡、そして徳島に追い抜かれた。そのままズルズル行ってもおかしくない状態から粘り強く勝ち点を取り続け、現在のポジションをキープできているのは手倉森誠監督のマネージメントによるところが大きいだろう。

 10月のなかなか勝てなかった時期には、課題に目を向けながらもポジティブな発言を織り交ぜていた。そうした中でJ1でもトップレベルの得点力を持つエジガル・ジュニオを横浜F・マリノスから期限付き移籍で引っ張ってきたことが非常に大きかった。ここまで4得点という個人の結果だけでなく、攻撃全体の相乗効果をもたらしているようだ。

 徳島や福岡よりバランス重視のスタイルだが、ボランチの秋野央樹とカイオ・セザールが非常に安定している。彼らのところで相手のプレッシャーを中央に吸収して、効果的なサイドアタックを繰り出していく基本スタイルがある。さらに、大卒ルーキーでFWから右サイドバックに抜擢された毎熊晟矢のオーバーラップなど、攻撃のバリエーションもある。

 相手にブロックを組まれた時になかなか崩せない課題は、動き出しに特長のあるエジガル・ジュニオの加入である程度解消されている。前線でのハードワークが光る富樫敬真はなかなかゴールという結果が出なかったが、良い位置でフリーになれるケースが増えてきている。守備の安定はそのままに、勝ち点3をとっていくためのゴール前の決め手が残り5試合でも強みになりそうだ。

 最終節で福岡と徳島の直接対決があるが、基本的にそれぞれ難しい相手との対戦が残っており、1つ1つ勝ち点3を積み重ねていけるかがポイントになってくる。まずは水曜日に徳島が4位の北九州とホームで、福岡はファジアーノ岡山、長崎は京都サンガとのアウェイゲームがある。最後まで過密日程が続くが、1試合1試合に注目していきたい。

(文:河治良幸)

【了】

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