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Jリーグ 4年前

川崎フロンターレはJ史上最も圧倒的。ここまで強い理由とは。キーポイントは王者陥落の昨季にあり?【英国人の視点】

明治安田生命J1リーグ第29節、川崎フロンターレ対ガンバ大阪は、5-0でホームチームが圧勝。この結果、川崎Fが2年ぶり3回目のJ1王者に輝いた。4試合を残しての優勝はJ1史上最速で、最多勝利数と最多勝ち点記録も更新するなど、まさに圧倒的な強さだった。なぜ、彼らはここまでの力を示すことができたのだろうか。(文:ショーン・キャロル)

text by ショーン・キャロル photo by Getty Images

圧倒的だった川崎Fの強さ

川崎フロンターレ
【写真:Getty Images】

 川崎フロンターレについては以前から何かを書こうと思いながらも先送りにし続けてきた。この新たなチャンピオンについて、すでに語られていること以上に何を言えるのか確信が持てなかったためだ。

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 7月初頭にJ1リーグが再開されて以来、鬼木達監督のチームはまさに圧倒的だった。例年であれば接戦のタイトル争いが繰り広げられることの多いリーグを完全に支配し、わずか3敗しか喫することなくプラス54という得失点差も積み重ねている。

 川崎Fの成し遂げたことは普通のシーズンであっても十分に偉業だが、スケジュールが非常に過酷なものとなったこの年にこれほどの安定感を維持し続けたことは驚異的と言うほかない。他チームが負担の管理に苦戦を強いられる一方で、等々力のチームはほぼ何の問題も感じさせることなく進み続けてきた。

 ゴールテープを目前にして少しばかり足踏みを強いられたのは、おそらく川崎Fの選手たちにもようやく疲労が表れ始めたためであり、彼らもやはり人間だったということなのだろう。北海道コンサドーレ札幌戦や大分トリニータ戦の敗戦がなければ戴冠はさらに早く確定していたはずだった。

 いずれにしても、今季の彼らがJリーグの歴史上でも最も圧倒的な戦いのひとつを見せてきたことに変わりはない。水曜日の夜には最後の挑戦者であるガンバ大阪を5-0で粉砕し、まさに川崎Fらしい大暴れでタイトル獲得を完了させた。

強く印象に残る昨季終盤の一戦

 今季を振り返るハイライトに含めるべき試合に事欠くことはない。川崎Fが4得点以上を奪った試合は(現時点で)7回あり、直接のライバルとなり得るチームの多くに対して2戦2勝を飾った。だが、重要なポイントになった試合として強く印象に残っているのは昨季終盤の一戦だ。

 昨季が残り2試合となったところで4位に位置していた川崎Fは、王者戴冠に迫りつつあった7ポイント差の首位横浜F・マリノスと対戦。爽やかな11月の午後、満員の等々力スタジアムでの試合だった。

 前週の試合でマリノスが松本山雅FCとの接戦を1-0で制した時点で、すでに川崎Fの3年連続優勝の望みは数字的に消滅。ハイプレスでリスクを厭わずエネルギーに溢れるアンジェ・ポステコグルー監督のチームが4-1の快勝を収めると、新王者へバトンが引き継がれたような感覚があった。

 だがこの屈辱はひとつの時代の終わりを告げるのではなく、むしろ川崎Fにとってはさらに力をつけて戻ってくるためのモチベーションに繋がったようだ。Jリーグでは滅多に見られないほどの圧倒的な戦いぶりで今季J1の舞台を席巻するための後押しとなった。

 今年11月18日、ホームのピッチに再びマリノスを迎えた一戦はその昨季の呪縛を完全に拭い去る絶好の機会となった。勝ち越しゴールと追加点は終了間際まで待つ必要があったとはいえ3-1の勝利でその目標を果たし、2位に勝ち点17ポイント差をつけてトロフィーに王手をかけることができた。

 今年を通して何度も見られた光景だが、この試合でも違いを生む存在となったのは三笘薫だった。後半開始から投入された三笘は相手にとってほとんど制御不可能であり、1得点1アシストに加えて、小林悠が失敗してしまったがPKも獲得した。

 23歳の三笘は一切の萎縮を感じさせることなくJリーグの舞台に上がり、プロ選手としての1年目に(これも現時点だが)12得点8アシストを記録。力強くも精密な、変化に富むドリブルで数多くの相手DFたちに苦悩と屈辱を味わわせた。

若き力とベテランの力

中村憲剛
【写真:Getty Images】

 三笘の自信溢れる効果的なプレーは、FC東京でブレークを遂げたシーズンの武藤嘉紀を彷彿とさせる。三笘の方がより複雑なタッチで細かくボールを動かすドリブルを得意とし、武藤は抑えがたいパワーと積極性に満ちていたという選手としてのタイプの違いはあるとしても、川崎Fの18番の躍進を見ていると2014年当時の荒削りな武藤を目にしていた頃と同じくらいワクワクさせられる。

 もちろん三笘がいかに素晴らしいとはいっても一人の力でタイトルを手に入れたわけではない。川崎Fの成功の大部分は彼らの選手層の厚さ、そしてほぼ完璧に近いチーム作りと采配を実現させた鬼木監督の仕事の賜物だった。

 青と黒のユニフォームを身にまとってピッチに立つ選手が誰であれ結果を出すことができるのは、何をやるべきだと求められているかを正確に理解しているためだ。そして目的が明確にされているからこそ、選手たちは一緒にプレーすることを本当に楽しんでいるように見えるし、他者が観戦しても楽しめるチームとなっている。

 そしてもちろん、その中には中村憲剛の存在もある。

 間違いなくJリーグ史に残るレジェンドであり川崎F一筋のキャリアを歩んできた男は、2019シーズン終盤に前十字靭帯の重傷に見舞われながらもコンディションを取り戻すことに成功。40歳の誕生日に行われた宿敵FC東京との試合で見事に決勝ゴールを挙げ、その翌日に今季を終えた時点で現役生活を終えることを表明した。

 中村がスパイクを脱ぐ前にもうひとつ新たなリーグ優勝メダルを手に入れたことを祝福しない者は日本サッカー界に誰一人としていないだろう。川崎Fが天皇杯でも勝ち続け、中村がまだ手にしていない国内タイトルを揃えることができたとすればさらに完璧な幕引きとなる。

 その中村にとっては2020シーズンが最後になるとしても、今季の戦いぶりを見ていると川崎Fの黄金時代は今後まだ数年は続いていくのではないかと感じられる。

(文:ショーン・キャロル)

【了】

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