ハーランドとストライカーの系譜
ドルトムントは3連勝で首位の座を守った。前半のうちに2点のリードを奪い、後半に1点を追加して試合を決めた。アーリング・ハーランドに2得点が生まれ、ジェイドン・サンチョも鮮やかな直接FKを成功させている。
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ドルトムントに加入してまもなく11か月が経つが、ハーランドは試合数を上回るペースで得点を重ねている。今季はブンデスリーガで7試合目にして得点数を2ケタに乗せ、UEFAチャンピオンズリーグでは4試合連続でゴールを決めている。
一見すると194cmの体躯はパワフルなプレースタイルを連想させるが、それを前面に押し出すことは少ない。それ以上に光るのは足下の技術と的確な判断で、2列目の選手との連係によって多くのゴールを生み出している。1点目のシーンではサンチョがボールを持つや否や、スペースに走りこんでスルーパスを引き出している。
ワンタッチゴールの多さはポジショニングのうまさを表している。ハーランドは11月4日に行われたクラブ・ブルージュとの前回対戦でも2得点を挙げた。いずれもゴールに流し込むだけだったが、決して運が良かっただけではなく、スペースを認知する能力がそれを可能にしていた。
ユルゲン・クロップの下でストライカーとして活躍したルーカス・バリオスやロベルト・レバンドフスキも、味方との連係からゴールを重ねていた。ボックス内やDFラインとの駆け引きの巧さは、ストライカーの系譜を継いでいる。
ファブレ監督の下で開花する才能
ハーランドはまだ20歳だが、若手という言葉はすでに似合わない。同い年のサンチョもすでにブンデスリーガを代表するアタッカーである。ドルトムントで、20歳は主力を張る年齢なのだ。
今月の代表戦でアメリカ代表としてデビューし、2025年までの契約延長を発表したばかりのジョバンニ・レイナは13日に18歳になったばかり。怪我がちなマルコ・ロイスに代わって今季は先発で起用されることも多く、ここまで公式戦11試合に先発している。
中盤の底で先発したジュード・ベリンガムは17歳ながら、ここまで公式戦で出場がなかったのは1試合のみ。この試合ではボールを自ら運んでファウルをもらい、サンチョのゴールに繋げている。少ないタッチ数でボールを散らし、長短のパスを操る。相手のプレッシャーをものともしないプレーは17歳とは思えない落ち着きで、アクセル・ヴィツェルの不在を感じさせなかった。
この試合では18歳のヘイニエルや20歳のマテウ・モレイも途中出場している。若手の起用に躊躇がないルシアン・ファブレ監督はチームに厳しい規律を敷く一方で、積極的なミスに関しては寛容な姿勢を見せる。21日のヘルタ・ベルリン戦でヌリ・シャヒンが持つブンデスリーガ最年少出場記録を更新した16歳のユスファ・ムココに対しては、「彼はまだ若いので、これから見ていくことになるよ」と過度な期待へ警鐘を鳴らすことも忘れない。
ゲーゲンプレスという武器
ドルトムントと若手の躍動で思い起こすのは、ユルゲン・クロップ監督の下でリーグ優勝を果たした2010/11シーズンだろう。マルセル・シュメルツァー、マッツ・フンメルス、シャヒン、香川真司、マリオ・ゲッツェら20歳前後の選手が躍動したシーズンの平均年齢は24.2歳。この日のスターティングラインナップの平均年齢はそれに迫る24.7歳だった。
この試合のドルトムントはボールを握りながら、ダイレクトプレーで相手のプレッシングの網をかいくぐった。ボールを失っても素早いトランジションでプレスを開始してボールを取り戻す。縦に速く攻めるスタイルもクロップ時代のゲーゲンプレッシングさながらだった。
当時のゲーゲンプレッシングは一世を風靡した。しかし、最終シーズンとなった14/15シーズンは前半戦に最下位に落ちるほど不調にあえいでしまう。ロベルト・レバンドフスキやゲッツェがバイエルンへと引き抜かれ、マルコ・ロイスやイルカイ・ギュンドアンは怪我に苦しんだ。
復帰した香川やシャヒンも本調子ではなく、レバンドフスキの代役として期待されたアドリアン・ラモスとチーロ・インモービレも不調。さらに、ゲーゲンプレスの対策が進んでいたことが不調に拍車をかけていた。
クロップ時代を上回る柔軟さ
一方で、就任3年目を迎えたルシアン・ファブレ監督のサッカーは柔軟さが印象的だ。今季はプレシーズンで4バックを試しながら、序盤戦は3バックをメインに戦った。10月24日のレヴィア・ダービー(シャルケ戦)以降は4バックを導入。今月の代表ウィーク明け初戦となったヘルタ戦では3バック、そしてこのクラブ・ブルージュ戦では4バックと、2つのシステムを使い分けている。
1試合の中で見ても柔軟さがわかる。即時奪回でボールを握った前半のボール保持率は60%を記録したが、後半は42%。60分までに3点をリードしたドルトムントはブロックを敷いて守る時間を増やし、相手の攻撃をかわしていった。
状況と相手の出方に応じて戦い方を変えられる柔軟性は、クロップ時代を上回ると言っていい。ミヒャエル・ツォルクSDは「システムというものは、ピッチに立つ者たちにマッチしたものでなくてはならないものだ」と話し、「このチームは両方に対応できる」と自信をのぞかせている。
バイエルン・ミュンヘンとのデア・クラシカー(ナショナルダービー)には敗れたものの、ブンデスリーガではここまでバイエルンと勝ち点差1の2位につけている。大一番での勝負弱さが指摘されるものの、バイエルンの連覇を止める本命に変わりはない。
クロップの下でブンデスリーガを制覇したシーズンからちょうど10年。ファブレ政権は3年目となったが、クロップがブンデスリーガを制覇したのも就任3年目のシーズンだった。魅力的なサッカーを見せるファブレ監督は、タイトル獲得というミッションを達成できるだろうか。
(文:加藤健一)
【了】