前半から押し込まれる展開に
90分間の中で、アーセナルのイレブンは何回失点を覚悟しただろうか。リーズ・ユナイテッドの決定力不足、ゴールポスト、そしてGKベルント・レノ。この3つの要素が揃っていなければ、結果は悲惨なものとなっていただろう。
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プレミアリーグ第9節、アウェイでリーズと対戦したアーセナルは0-0で試合を終えることになった。これでリーグ戦は直近5試合でわずか1勝。暗いトンネルから抜け出せずにいる。
代表ウィーク明け後最初の試合となったリーズ戦は、立ち上がりこそ互角の戦いを繰り広げていた。お互いに攻守の切り替えが素早く、敵陣と自陣の行ったり来たりを繰り返す。非常に見応えのある展開だった。
しかし、アーセナルは時間が進むとともに強度の高いリーズのマンツーマンディフェンスに手を焼き始めた。そして全体の位置が自陣に固定されると、相手にサイドを中心とした攻撃を浴びる。早くもペースを握られたのだ。
深い位置に押し込まれたアーセナルの攻めは当然カウンターが基本となるが、早い段階で芽を潰された。ドリブルで一枚を剥がし、リーズ全体のマークにズレが生じた際には自ずとチャンスの可能性は高まったが、それをゴールという結果に繋げるには至らず。攻守ともに不完全燃焼感は否めなかった。
30分あたりからペースは完全にリーズに傾いていた。アーセナルは守備時にサイドハーフのウィリアンやニコラ・ペペを下げ人数をかけた守備ブロックを形成していたが、ボールの奪いどころは明確ではなく、強度も不十分。簡単にサイドを破られては、危険なクロスを幾度となく放り込まれた。
高い位置から人を捕まえに行っても、リーズのテンポの良いパスを前に剥がされる。40分にはハーフウェーライン付近からボールホルダーへアタックに行ったが、外されてサイドへの展開を許す。最終的にマテウシュ・クリフにシュートを浴びることになった。
守備がハマらず、押し込まれ、最終ラインと中盤のギャップへボールを放り込まれる。このようなシーンが前半から何度か見られていた。中央を締めたことでなんとか失点は免れたが、サイドの守備はほぼ壊滅状態。リーズのプレー精度があともう少し高ければ、前半のうちにやられていただろう。
勝利を捨てざるを得ないペペの愚行
そんな苦しい前半を経て迎えた後半。ミケル・アルテタ監督は守備に追われていたウィリアンを下げリース・ネルソンを投入するなど、状況の変化を狙った。しかし、たった一人の愚行により、アーセナルは前半よりも苦しい展開を強いられるのである。
問題を起こしたのは、この日が第5節マンチェスター・シティ戦以来のスタメン出場だったペペだ。同選手は前半からしつこくマンマークに付いてきたエズジャン・アリオスキに腹を立て頭突き。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)レビューの結果、文句なしの一発退場となった。51分のことである。
先述した通り、アーセナルは前半からリーズに押し込まれていた。その中でペペの見せ場自体も少なく、ボールを受けてもアリオスキのタイトな守備に苦戦。そのフラストレーションが爆発し、ペペはこのような行為に及んだ。恐らくアリオスキからの暴言のようなものもなかったため、単純な感情コントロールの甘さ。チームのことを考えない、愚かな行為と言わざるを得ない。
アルテタ監督は試合後に「受け入れられない。このレベルでそんなことをしてはいけない」とペペの退場についてコメント。また、同指揮官は「引き分けは好きではない。ただ、状況によってはポイントを取らなければならない」とも話している。
アルテタ監督の言葉通り、ペペの退場により数的不利となったアーセナルの現実的な目標は「勝ち点1の奪取」ということになった。事実、10人となってからの試合展開は一方的。69分の場面でアルテタ監督がリーズのカウンターを遅らせたことに対し拍手を送ったことからも、より守備に意識を向かせていることは明らかだった。
アーセナルは自陣深い位置で守備を固め、猛攻に出てくるリーズに挑んだ。その中でよく耐えていたが、何度か際どいシュートも放たれた。ただ、レノの好セーブがあったり、ゴールポストに幾度となく救われたりと、最悪の結果だけは免れていた。
前掛かりなリーズに対し、途中出場のブカヨ・サカが起点となってカウンターからチャンスを生むシーンが終盤にかけて何度かあったが、生かせず。10人のアーセナルはギリギリで勝ち点1を獲得するに留まった。
アーセナルにとっては間違いなく貴重な勝ち点1だ。しかし、攻撃の形はほとんど見られず、守備も結果的に無失点とはいえかなり際どい内容。そして、久しぶりの先発出場を台無しにしたペペといい、色々な意味で今季ワーストゲームなのではないだろうか。
良さが消えたオーバメヤンの1トップ
さて、アーセナルはこのリーズ戦をドローで終えたことで、リーグ戦直近5試合でわずか1勝という成績。さらに、同5試合で奪った得点はわずか「1点」と、深刻な得点力不足に陥っている。
このリーズ戦に限って言えば、エースであるピエール=エメリク・オーバメヤンの良さがすべて消えてしまっていた。彼が存在感を失えば、やはりチームとしての得点への可能性というものが薄れてしまう。改めて明らかとなった。
アーセナルにおけるオーバメヤンは左ウイングでのプレーが基本となっており、スピードを維持したまま中へ切り込み、クロスやシュートで決定的な仕事を果たす。とくに、右サイドで作って左サイドへ展開し、数的優位な状況を作ってオーバメヤンが仕掛けるという攻撃は他のクラブにとって大きな脅威となっていた。
しかし、リーズ戦でオーバメヤンは1トップとして起用された。当然、スピードのあるオーバメヤンはレスターでいうジェイミー・ヴァーディーのような役割が似合うが、アルテタ監督のこだわりはあくまでポゼッション。そうなると、オーバメヤンも走力ではなく足下での勝負を求められることになる。
ただ、アレクサンドル・ラカゼットのような潰れ役は担えない。ましてや相手は対人守備に強く自信のあるリーズだ。前線でボールが収まらないため中盤の押し上げにも期待できず、人数をかけようにも早い段階で芽を摘まれる。スピードを生かして背後へ抜け出し、多彩な仕掛けで違いを作り出せるオーバメヤンの良さは、先述した通り影を潜めた。
終盤にカウンターからチャンスを作り出したが、やはりオーバメヤンがアクションを起こしたのは左サイドだった。人数の多い中央、とくにリーズのツーセンターバックは数的優位な状態を保つので、オーバメヤンの仕掛けは活きにくい。ただ、サイドであれば1対1の状況を作りやすい。どちらがエースにとって、そしてチームにとって良い条件かは、言うまでもないだろう。
結果論にはなってしまうが、やはりこうした試合ならば1トップはラカゼットの方が良かったのかもしれない。ポゼッションをするにしても、カウンターを繰り出すにしても、マンツーマンディフェンスに対し潰れ役は重要となったはずだ。
アーセナルはヨーロッパリーグ(EL)を戦った後、次節はウォルバーハンプトンと対戦する。また力のあるクラブとの一戦となるが、勝利を奪い、浮上のキッカケを掴むことができるだろうか。
(文:小澤祐作)
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【了】