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Jリーグ 4年前

日本サッカー界には“学閥”という闇がある。県1部からJリーグに「否」を叫ぶ男とは?【いわきFCの章・前編】

今やJリーグクラブは全56クラブにまで膨れ上がった。Jクラブがない「土地」のほうが希少価値が高い時代になるとは、いわゆるオリジナル10の時代に誰が予想できただろうか。Jクラブが「ある土地」、もしくは「ない土地」から薫るフットボールの物語を、アンダーカテゴリーに魅入られた著者が描きだす『フットボール風土記』から、いわきFCの章より一部抜粋して発売に先駆けて前後編で公開する。今回は前編。(文:宇都宮徹壱)

text by 宇都宮徹壱 photo by Tetsuichi Utsunomiya

お上に対してモノを言う社長

いわきFC
【写真:宇都宮徹壱】

 いわきFCの代表取締役社長、大倉智は「モノ言う社長」である。ただし、モノ言う相手は現場ではない。「お上」である。

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 今回の天皇杯で、大会主催者であるJFAは《3回戦から準々決勝までの試合においては、対戦カードの下位カテゴリーチームが所属する都道府県の会場を優先して開催することとする》としていた。

 ところが、いわきFCが清水エスパルスと対戦する3回戦(7月12日)の会場では、福島のとうほう・みんなのスタジアムではなく、なし崩しで清水のIAIスタジアムに決まってしまった。理由は、とうスタの収容人数が1万5000人以上でないこと(6500人)、そして夜間照明がなかったことだ。

 この決定に対して、大倉はクラブの公式サイトを通じて異議申し立てをしている。いわく《平日のナイターゲームであることを考えても「1万5000人以上収容のスタジアムでの開催」を条件とすべきではないように思えます》。さらに《可動式のナイター設備を使用するなど、検討の余地はあったことが悔やまれます》とも。

 その上で《現行の運営要綱は残念ながら、天皇杯が定める「サッカー普及」という大義と矛盾する部分があるように思えます》と結論付けている。「勇気ある発言ですね」と当人に水を向けると、大倉は苦笑しながらこう語る。

「(福島で試合が)できると解釈していたら、何の説明もなく『決定事項』として周知されたんです。『おかしいでしょ?』と言っても、明確な答えがない。『まあ大倉、穏便にやってくれよ』みたいな感じですよ」

 周知のとおり、日本サッカー界には「学閥」というものがあり、さらには体育会的な上意下達が求められる空気がある。JFAやJリーグといった上位団体に対して、個人なりクラブなりが、心ならずも忖度を求められる場面もあるだろう。しかしいわきFCも、そして大倉自身も、そうした素振りは微塵も見せない。

大倉智という男とは?

 大倉は1969年生まれ。早稲田大学卒業後、日立製作所に入社して柏レイソルの選手となり、以後はジュビロ磐田、ブランメル仙台、さらに渡米してジャクソンビル・サイクロンズでプレーする。

 98年に引退後は、バルセロナのヨハン・クライフ国際大学でスポーツマネジメントを学ぶと、セレッソ大阪のチーム統括ディレクターを経て、04年に湘南ベルマーレへ。強化部長、GM、そして15年には代表取締役社長に就任した。

 元Jリーガーが46歳でJクラブの社長に就任するというのは、ある意味、華々しいキャリアである。だが大倉は、Jクラブの社長という地位にやりがいを感じる一方で、宿痾とも言える「やりきれなさ」にも苛まれていた。

「僕がベルマーレに来た頃、予算規模が7億円くらいで、お客さんが3000人くらいでした。それが15年には、予算が倍の15億円、お客さんも平均で1万2000人くらい入るようになった。とはいえ、昇格や降格に一喜一憂する中、売上の半分くらいを選手の人件費に回さざるを得なくて、なかなかアカデミーや施設に投資できない。スポーツビジネスとして、どうなんだろう。そう考えるようになりました」

 そんな時、アンダーアーマーの日本における総代理店、株式会社ドームの関係者から「ウチの安田が会いたいと言っている」という打診を受ける。それが大学時代の旧友、安田秀一との再会。安田は最初に就職した商社を退職後、起業してドームの取締役会長兼代表取締役CEOとなっていた。大倉と安田の、実に四半世紀ぶりの再会。いわきFCの奇跡の物語は、そこから始まった。

「日本人はある意味、スキルと技術に逃げている側面がある。世界に出て行くと必ずぶつかるのがフィジカルの問題。われわれは『日本のフィジカルスタンダードを変える』べく、この課題に取り組んでいきたい」

(文:宇都宮徹壱)

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『フットボール風土記』


定価:本体¥1700+税 宇都宮徹壱著

≪書籍概要≫
2017年サッカー本大賞受賞作『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ目指さないクラブ』から早3年……
今やJリーグクラブは全56クラブにまで膨れ上がった。Jクラブがない「土地」のほうが希少価値が高い時代になるとは、いわゆるオリジナル10の時代に誰が予想できただろうか。
一方で、Jクラブのある「土地」からあえてJを目指すクラブも、それこそ雨後の筍のように出現し続けている。
Jクラブが「ある土地」、もしくは「ない土地」から薫るフットボールの物語を、アンダーカテゴリーに魅入られた著者が「郷土のクラブ」を照射した。

詳細はこちらから

【了】

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