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地元ファンの評価は賛否が二分
冨安健洋が誕生日を迎えた5日、コリエレ・デッロ・スポルトのボローニャ版は中間ページで特集記事を組んだ。
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「おめでとう、サムライ」という見出しとともに、サムライ姿のコラージュ画像がページ一面に。その中で注目だったのは、複数拾われていた地元ファンの声だ。今季から本来のセンターバックとしてプレーしているが、その評価は半々だったのである。
プレーを見ている人からは「サイドバックの頃より、今の方がポジショニングに無理がないよ」「やっぱり全てのポジションでレベルが高いことを証明しているよね」と好意的な評価があった一方で、サイドバックとしての活躍を認めつつセンターバックとしてのプレーには懐疑的な目も寄せられていた。
「中央のポジションでやるにはフィジカルとメンタルが不足しているんじゃないかと思う」「ボローニャがチームとして失点を続けていることも偶然ではなんじゃないか」との厳しい意見も寄せられている。
「若いので必ず成長するはずだ」と、今後の伸び代の大きさに期待するという意見は誰しも言い添えられていた。だが問題は今。チームは今シーズンに入ってリーグ戦で無失点試合がなく、冨安が失点に絡んでしまったケースも度々あった。プロとしては避け得ないことなのだが、個人のパフォーマンスはチームの結果に引きずられてしまう面がある。失点をせず、勝ち点3に関わらないと厳しい見方をされてしまうのだ。
格上ナポリとの対峙
そんなムードの中で迎えた強豪ナポリの一戦は、0-1で敗戦という結果に終わった。またも失点を避けられなかったということになるが、相手は攻撃力の高いタレントを前線に揃えた格上である。ミランに2失点、サッスオーロに4失点を喫した冨安のいるDFラインは、良好なパフォーマンスの末に失点を低く抑えた。そのことはポジティブに評価されるべきだろう。
この日のボローニャは、最終ラインのセッティングを少し変えていた。左サイドバックに定着していた新戦力のアーロン・ヒッキーが故障したため、ステファノ・デンスビルが起用される。ただそれに伴い、シニシャ・ミハイロビッチ監督はDFライン全体についても動き方を変えた。今まではポゼッション時に、右サイドバックのロレンツォ・デ・シルベストリが残る3バックの形になっていたが、今度は逆に左のデンスビルが残る。それに伴い冨安はダニーロと左右を入れ替え、3バックに可変した時には右寄りの位置で組み立てを図った。
一方ボールをナポリが保持している時、CBの役目はドリース・メルテンスとヴィクター・オシムヘンを見ること。スピードのあるCFオシムヘンの加入でメルテンスは1列下でボールに触るようになったが、冨安はまずそこを潰す。引いて構えず、時には相手陣内まで上がって猛烈なプレスを掛けに行く。展開によってダニーロと役割を入れ替えた時には、裏を狙うオシムヘンの動きを読んでカバーリングに入った。
相棒のミス
冨安はこの守備を堅実に行っていたが、23分にボローニャは失点してしまう。左サイドでデンスビルがイルビング・ロサノにあっさりかわされ、クロスを上げられる。冨安はニアに走りこんだメルテンスを抑えに走ったのだが、その背後ではなぜかダニーロも一緒についてきてしまったのだ。その結果、エリア内ではあろうことかオシムヘンがフリーに。ナイジェリア代表の新鋭は、誰にも邪魔されることなくヘディングシュートを決めた。
試合後ミハイロビッチ監督は「あれはダニーロのミスだった」と語っている。ニアを切ってメルテンスへのパスコースを遮断しようとした冨安に、失態があったというわけではなかったようだ。ただCBコンビとして、またライン全体として、受け渡しなどの意思疎通を深化していく余地はあるのかもしれない。
しかしその後、このDFラインがゴール前で破綻をきたすようなことはなかった。そして冨安自身も、ミスらしいミスはほとんどせずに良い守備を展開した。オシムヘンが裏を狙ってくればそのコースを先回りし、メルテンスには距離を詰めてスペースを潰し、ゴール前にも侵入させない。こうして、シュートやラストパスを事前に抑制していた。
そしてゴール前に引いた時にも注意深く、ボールを跳ね返す。とりわけ秀逸だったが66分のプレーだ。ボローニャの右サイドが崩され、ロレンツォ・インシーニェが中央へと入ってくる。スペースを見つけてミドルシュートを放とうとした瞬間、冨安は猛ダッシュしてスライディングでコースをふさぎ、シュートブロックに成功した。
評価を確立するためには…
さらに冨安は終盤、攻撃においても重要な役割を果たす。ミハイロビッチ監督は戦術の修正を図り、攻撃的な選手を両サイドに置いた3-4-3で巻き返しを図ろうとする中で、冨安は3バックの左にセットされる。すると左サイドのエマヌエル・ビニャートの後ろのスペースをカバーしつつ、後方から正確な縦パスを供給してその彼を走らせた。その他のFWが動いてDFを剥がせば大胆にミドルパスを狙い、スペースが詰まっていれば的確にサイドチェンジ。ペースを掴んだボローニャは、終盤に得点機を何度も創出した。
最終的にはナポリに逃げ切られたが、ボローニャはドロー決着でもおかしくはない内容の試合運びをした。「良いパフォーマンスは出来た。試合を通してみればいつもより攻撃のチャンスは少なかったが、その代わり相手の攻撃機会も少なかった」とミハイロビッチ監督は守備陣も含めて好意的に評価していた。「肝心なのは今やっていることを自信を持って続けていくことだ」というコメントを残したが、その中でセンターバックとして奮闘する冨安も、今後への信頼を置かれているということなのだろう。
新ポジションで定位置を得てからは”まだ”7試合だ。その中では粗も所々目立ち「昨シーズンほどのインパクトは残せていない」という声もメディアからは聞こえたが、プレー内容そのものは試合を追う毎に良くなってきている。代表ウイーク後のサンプドリア戦以降はチームの勝ち点3奪取にも多く結びつけ、評価を確立させたいところだ。
(文:神尾光臣【イタリア】)
【了】