目次
生き生きとするツィエク
チェルシーは9分、ショートコーナーから先制を許した。連続無失点は5試合で止まったが、公式戦4連勝中のチェルシーは慌てなかった。アブラハムとベン・チルウェルのゴールで前半のうちに逆転すると、試合終盤にはチアゴ・シウバとティモ・ヴェルナーにゴールが生まれた。
【今シーズンのチェルシーはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
この試合で2つのゴールをアシストしたハキム・ツィエクはとても楽しそうにプレーしていた。後半アディショナルタイム、右サイドからカットインしたツィエクは、オリビエ・ジルーとのパス交換から浮き球のパスを送る。タミー・アブラハムには通らなかったが、ツィエクは舌を出していたずらな笑みを浮かべた。
ツィエクはアヤックスで4シーズンを過ごし、3季連続でチームの年間最優秀選手に選ばれた。リーグ戦で16得点17アシストをマークした18/19シーズンは、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)ではレアル・マドリード戦で2試合連続ゴールを決めるなど、強豪撃破に大きく貢献。アヤックスの準決勝進出の立役者となっている。
推定4000万ユーロ(約48億円)の移籍金で加入したチェルシーでは、10月17日にデビューしたばかり。プレシーズンマッチで膝を負傷して開幕から出遅れたが、徐々にプレータイムを伸ばしていき、直近4試合はすべて先発で起用されている。
GKを惑わせる左足
昨シーズン、ツィエクはCLのグループステージでチェルシーと対戦している。4-4で引き分けたこの試合で、ツィエクはコーナーフラッグ付近のFKからゴールネットを揺らしている。記録はケパ・アリサバラガのオウンゴールになったが、ボールはゴールに向かって鋭く曲がるツィエクのキックは枠を捉えていた。
昨日の敵は今日の友。チェルシーを脅かしたツィエクの左足は、1年後にチェルシーを救う大きな武器になった。
1週間前のバーンリー戦では1得点1アシストをマーク。DFの股を抜く低い弾道のシュートで先制点を奪い、ヴェルナーにパスを通して3点目をアシストした。そしてこの試合は2アシストを記録している。
31分、右サイドからツィエクが蹴ったFKは誰も触れずGKが弾いた。そしてその約3分後、ショートコーナーの流れから、先ほどと同じように右サイドから蹴ったツィエクのクロスに、同じようにファーサイドにいたチルウェルが詰めてゴールに押し込んだ。
31分のFKはGKとDFラインの間に落とすボールで、2点目はGKが飛び出せない弾道でファーサイドのチルウェルに届けた。1年前にケパと同じように、シェフィールドのアーロン・ラムズデールを困難に陥れていた。
巧妙なセットプレー
3点目のシーンも似たような形だった。コーナーフラッグ付近で得たFKで、ツィエクはまたしてもGKに向かうコースに蹴った。ニアサイドに走りこんだチアゴ・シウバは、手を伸ばすGKの目の前でボールを頭で逸らしてゴールネットを揺らした。
そして、このシーンではクルト・ズマの動きも興味深かった。チアゴ・シウバをマークするエンダ・スティーブンスに対してズマが身体を当てると、チアゴ・シウバはその脇を抜けてニアに走りこむ。スティーブンスはズマに走路を防がれてしまい、チアゴ・シウバをフリーにしてしまった。
バスケットボールではこの動きをスクリーンと呼んでいる。サッカーではロシアワールドカップでイングランド代表が活用し、本大会で挙げた11得点のうち、セットプレーからの8得点を挙げた。サッカーとバスケットボールではファウルに対するルールが違うので、そっくりそのまま真似することはできないが、イングランド代表もチェルシーもうまく活用していた。
引かれた相手を崩すのは難しいが、この試合のようにセットプレーから得点できれば勝ち点を取りこぼすことも減るだろう。ツィエクの左足という武器は、セットプレーの戦略が合わさることで必殺技に格上げされた。鬼に金棒のようなものである。
(文:加藤健一)
【了】