一番遠くを狙う久保建英の眼
40歳になってもJ1リーグで活躍する名パサーは、ボールを持ったときに一番遠くの味方を見るという。欧州で長く活躍した右サイドバックも同じことを言っていた。遠くを見ようとすれば、近くはぼやっと認識できるのだという。
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52分に久保はカルロス・バッカの2点目をアシストした。右のペナルティエリアの角付近でボールを受けた久保は細かいタッチで相手との間合いを図り、大外にいたバッカにクロスを通した。キックの技術もさることながら、ファーサイドが見えていたのが素晴らしい。バッカをマークするはずだった相手選手は一歩も動けず。まったく準備ができていなかった。
ボールを保持したいビジャレアルにとっては不利な環境だった。
振り続ける強い雨の影響で、キックオフが約1時間遅れた。グラウンドキーパーの懸命な作業によって中止という事態は避けられたが、両チームの選手たちは劣悪なピッチコンディションでのプレーを強いられた。
水を多く含んだピッチによって、グラウンダーのパスはすぐに止まってしまう。早い時間にセットプレーから先制していたこともあり、ビジャレアルはリスクをかけないプレーが続いた。
ビジャレアルの修正
イスラエルリーグを連覇したマッカビ・テルアビブは、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)予選でザルツブルクに敗れてELに回っている。
この試合の布陣は5-4-1。ボールサイドのサイドバックに対してウイングバック、2列目のサイドハーフにはセンターバックの1人が対応し、逆サイドのサイドハーフにはウイングバックがついている。最終ラインで数的有利を保ち、久保、ジェレミ・ピノ、アレックス・バエナの2列目に活躍するスペースを与えなかった。
前半の久保は右サイドだけでなく中央や左サイドへ広く顔を出してプレーしていた。データサイト『Whoscored.com』のよる前半のボールタッチ数は32回を記録。1得点2アシストをマークしたスィヴァススポル戦とほぼ同じペースでボールに絡んでいた一方で、フィニッシュにかかわる仕事はあまりできなかった。
1-0で前半を終えたビジャレアルはハーフタイムに修正を加えた。久保は前半のように広く動き回ることなく、右サイドに固定。守備に回ったときもバエナが下がる代わりに久保が攻め残るシーンが増えている。
そして、その修正が3点目を生んだ。右サイドのタッチライン際で久保がボールをキープすると、中央を駆け上がるバエナにパスを送る。バッカからリターンパスをもらったバエナが貴重な追加点を決めた。
先述した通り、ボールを持った久保には左センターバックがついている。相手のウイングバックと中盤が戻り遅れたスペースにバエナが走りこんでボールを受けた時点で勝負あり。相手の守り方を逆手に取った攻撃だった。
久保建英の孤立が活性化につながる
後半の久保のボールタッチ数は19回。前半の32回から減少しているが、チャンスを多く作ったのは後半だった。右サイドで幅を取り、右サイドバックのルベン・ペーニャがインナーラップするスペースを作っている。右サイドで久保が孤立することで相手のDFラインを横に引き伸ばしていた。
途中出場のニーニョが4点目のゴールを決めたが、これに久保は絡んでいない。ジェラール・モレノがボールを持ったとき、久保は右側で完全にフリーになっていた。絞ってボールを呼び込むこともできたが、ゴールから遠ざかったことで、相手の左ウイングバックは混乱し、ゴール前のニーニョに寄せることができなかった。
ボールに絡まなくても重要な役割を果たした。オフ・ザ・ボールの動きは、得点に絡んだ2点と同じくらい重要なプレーだった。
ビジャレアルはこれで3連勝。すべての試合に先発出場している久保は1得点3アシストと結果を残している。
「最高のチームを作りつつも、怪我のリスクを負わないようにしたい」と指揮官は試合前に語っていた。カラバフ戦でゴールを挙げたジェレミ・ピノに続き、この試合ではニーニョとバエナという若手にゴールが生まれた。ビジャレアルはELを通じてチームを底上げしながら結果を残している。
(文:加藤健一)
【了】