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メッシに異常事態!?
一見何も問題がないように思えても、どこかでモヤモヤが晴れないことはないだろうか。
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UEFAチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージ第3節が現地4日に行われ、バルセロナはディナモ・キエフを2-1で下した。一応はこれで開幕から3連勝となったわけだが、どうも納得感が薄い。
例年であればCLの3連勝に「バルサだし、そりゃそうだよね」となっていただろうが、今季はどうも「よく3連勝できたなあ」と感じてしまう。
ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長の突然の辞任劇を筆頭に、ピッチ外でのゴタゴタが続いていることも要因ではあるだろう。直近のリーグ戦で数的有利を得ながらアラベスに大苦戦してドローに終わったことも、頭の片隅に残ってはいる。
だが、おそらく今季のバルサに感じるモヤモヤの最大の原因はリオネル・メッシの不振に間違いない。彼のパフォーマンスが史上最低レベルに落ちている中で、CLのグループステージ3連勝という結果を得られたのがにわかに信じがたいのだ。
今季、メッシはディナモ・キエフ戦も含めて4つのゴールを記録している。内訳はリーグ戦で1つ、CLで3つ。ただ、4つ全てがPKによるものであることにも触れておかなければならない。ただでさえゴール数が例年に比べて激減しているうえ、流れの中からの得点が1つもないのである。
異常事態ではないだろうか。昨季は公式戦31得点、その前は51得点、もう1年前は45得点、4シーズン遡っても54得点。とにかく毎シーズン、信じられないようなペースでゴールを積み重ね、リーグ戦で試合数よりも多くゴールネットを揺らす、年間30得点なんて当たり前のような選手がメッシなのに……。
アシスト数は例年と変わらない水準で推移している。今季は特に短かった、ほんの数週間のオフ期間をとっただけで急激に肉体やプレーが衰えるとは考えにくい。だとすれば、やはり精神的な側面、モチベーションなどがメッシのパフォーマンスに大きな影響を及ぼしていると考えるのが自然だろう。
この夏、バルセロナの現体制に対する不満が我慢の限界に達したメッシは、自ら退団を申し出た。結果的には思いとどまって長年過ごしたクラブに残り、ファンの猛反発を受けた首脳陣が予定よりも早くクラブを去ることで決着している。
「勝ちに不思議の勝ちあり」
ただ、一度自らのバルセロナでのサイクルが終わったと感じたメッシは、相変わらず疑念や不振感を胸に抱きながら戦っているのかもしれない。青と赤の縦縞のユニフォームをまとってピッチに立っても、どこかふわふわ浮いているようなプレーを続けている。
これまでより一歩引いた立ち位置を取り、自分から決定的なアクションを起こすことが明らかに減った。例えば、ペナルティエリア手前でメッシがボールを持ったら、相手ディフェンスは簡単に寄せようなどと考えられもしなかっただろう。
安易に懐へ飛び込もうものなら、ひらりとかわされてゴール前に侵入されてしまう。だが、少しでも距離を詰めるのをためらえば、容赦のない左足の一振りによってゴールネットを揺らされる。低い弾道でGKの手をかすめてゴールに突き刺さるメッシらしい無慈悲なシュートは、今季全く見られていない。
もちろんルイス・スアレスやイヴァン・ラキティッチ、アルトゥーロ・ビダルといった頼りになるベテランが退団した影響も結果にある程度反映されているだろう。現にリーグ戦では6試合をこなして2勝2分2敗と不甲斐ない戦いぶりで、暫定ながら12位に沈んでいる。試合数の違いはあるが、首位のレアル・ソシエダには2倍以上の勝ち点差をつけられている状況だ。
それでもメッシが健在であれば、苦境を何としても乗り越えてしまうだけの影響力があるはずと考えてしまう。必死にもがいでもすがるものがない今だからこそ、CLでは「よく3連勝できたなあ」と、結果とパフォーマンスの乖離に違和感を覚えるのかもしれない。
とはいえ勝ちは勝ち。肥前国平戸藩の第9代藩主・松浦静山の言葉で、元プロ野球監督の野村克也さんが有名にした「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という格言もあるくらいである。
だが、今後はメッシが不振を極めても「勝ち」を「不思議の勝ち」だと言われなくなるであろう重要人物が、ディナモ・キエフ戦で戦列復帰を果たした。オフに膝の手術を受けて離脱していた、GKのマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンである。
この経験豊富なドイツ代表守護神にとって、試合勘の不足などは一切関係ないようだ。復帰初戦でいきなり勝利を手繰り寄せる決定的なセーブを連発し、ひと押しで崩れてしまいそうなバルセロナを最後方から力強く支えた。
復帰戦でも圧巻だった守護神
圧巻だったのは35分のピンチの場面だ。(バルセロナ側から見て)左サイドからクロスが上がり、ディナモ・キエフのMFヴィタリー・ブヤルスキーにフリーでヘディングシュートを放たれる。クロス対応から瞬時にシュート対応に切り替えたテア・シュテーゲンは、体が右に流れながらも左に腕と足だけを残して懸命に伸ばし、危険のないゴール上にボールを弾き出した。
かなり無理な体勢でも一瞬の判断で脳から指先まで信号を伝え、次のアクションまで考慮した安全な場所にボールを処理する。超高度なセービングだった。
後半開始直後には体を大きく開いて飛び出し、ヴィクトル・ツィガンコフのチャンスを阻止。53分には相手FWと1対1になった場面で、ヴラディスラフ・スプリヤガのシュートコースを完璧に切り、シュートは右足1本で弾いた。
最終的には1失点してしまったが、もしテア・シュテーゲンでなければさらに失点が増えていてもおかしくない展開だった。アラベスとの一戦で信じられないようなミスを犯したネトが信頼を失っていただけに、正守護神の帰還は何よりの朗報だろう。
試合後、テア・シュテーゲンは「僕にとってこの試合に勝つことは非常に重要だった。再びピッチに立って、自分が一番好きなことであるサッカーをしたかったから」と復帰戦を振り返った。
「僕のシュートストップは重要ではない。大事なのはチームが勝つこと。僕たちはグループ首位なので、満足している」とドイツ人守護神は語るが、「相手には十分なチャンスがあった。バルセロナには改善しなければいけないところがある。それについて話し合わなければならない」とチームが問題を抱えていることも認めている。
相変わらずセンターバックの人材不足はどうにもならないが、テア・シュテーゲンの復帰によって、守備陣の安定感はいくらか増すだろう。勝ちを積み重ねていくためにも「相手に十分なチャンス」を与えず、失点しないでおくことは重要なのは当たり前だ。
守備のキーマンの復帰でチームの調子が上向けば、メッシのモチベーションも少しは上がるだろうか。最も大きな「改善しなければいけないところ」は、絶対的エースが100%の力をピッチ上で発揮させるための環境づくりだ。自分のプレーに100%集中して本来の力を取り戻せば、決めたゴールがPKだけなんてことにはならないはずなのだから。
(文:舩木渉)
【了】