目次
⚫︎ベテランたちの身の振り方
⚫︎奇跡の優勝メンバーたちの今
⚫︎いまだ屈指のヴァーディーとシュマイケル
⚫︎新境地を開拓する2人
ベテランたちの身の振り方
先日、日本サッカー界を長年けん引してきた1人のレジェンドプレーヤーが現役引退を表明した。川崎フロンターレのMF中村憲剛である。
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40歳を迎えたフロンターレのバンディエラは、第一線でまだまだ活躍できる力を残している。しかし、自ら決めていた終わりのタイミングを引き延ばすことなく、すっきりとスパイクを脱ぐ決断を下した。
彼がブログに書いていた一節が印象的だった。
「まだできるのに引退という決断をなかなか納得がいかないだろう長男には、どんなこともどんなものもずっと同じであり続けることは不可能で、変化があるからこそ楽しく、終わりがあるからこそ素晴らしいと妻がそう話してくれました」
サッカー界に限らず、物事の移り変わりは激しく、そのスピードは現代社会において日に日に上がっていっている。中村憲剛の言う通り「どんなこともどんなものもずっと同じであり続けることは不可能」と感じることは、自分が年齢を重ねるごとに増えていっている印象だ。
だが、その変化に適応しつつ、優秀な若手がどんどん台頭する中でも激しい競争に身を置いて奮闘しているベテランたちはたくさんいる。プレミアリーグのレスター・シティを見ていると、改めて豊富な経験を持つ年長者たちの存在価値を意識せざるを得ない。
現役引退を決めた中村憲剛に対し、ライバルクラブの横浜F・マリノスを率いるアンジェ・ポステコグルー監督は「自分にとっても日本サッカー界にとっても、彼がもたらしてくれたものは大きい」と最大限の賛辞を送った。
おそらくイングランドでも敵将たちから同様の称賛を受けるであろう選手たちが、レスターにはたくさんいるのだ。
奇跡の優勝メンバーたちの今
いま、ブレンダン・ロジャース監督に率いられたレスターは群雄割拠のプレミアリーグで2位につけている。とはいえチーム状態は万全でなく、多くの負傷者を抱えていて、特にディフェンスラインには離脱者が多い。
そんな中で貴重な戦力としてチームを支えているのは、2015/16シーズンに奇跡的なプレミアリーグ優勝の立役者となったベテランたちだ。スペイン1部のウエスカで活躍する岡崎慎司をはじめ当時所属していたほとんどの選手は移籍していったが、現在も7人がレスターで戦い続けている。
現地2日に行われたプレミアリーグ第7節のリーズ・ユナイテッド戦には、GKカスパー・シュマイケル、FWジェイミー・ヴァーディー、DFクリスティアン・フクス、DFマーク・オルブライトンという5シーズン前のリーグ優勝を知るメンバー4人が先発出場。終盤にはキャプテンのDFウェズ・モーガンも途中出場して4-1の大勝に貢献した。
彼らはいずれも30歳を超えていて、サッカー選手としては下り坂と思われていてもおかしくはない。確かに身体的にはそうした側面もあるのかもしれないが、5人ともリーグ優勝当時とは全く違った姿を見せている。
監督や周りのチームメイトたち、サッカー界のトレンドなどが日々刻々と変化していく中で、それを受け入れ、プレースタイルにも反映させながら生き残ってきた。そして、より成熟して、ロジャース監督にも頼られる存在である所以をプレーで証明している。
例えばかつてのヴァーディーは粗さが目立ち、カウンター時に圧倒的なスピードで相手ディフェンスをぶっちぎってゴールネットを揺らす純然たるストライカーだった。しかし、今は全く違う。
リーグ戦でハーヴェイ・バーンズが開始2分に決めた先制点の場面で、相手センターバックのロビン・コッホがバックパスを選択するのを誰よりも早く読んでいたのはヴァーディーだった。パスが出る前からGKにプレッシャーをかけてボールをカットし、走りこんでくるバーンズには優しいアシストパスを供給。あとは無人のゴールに決めるだけという状況を作り出した。
いまだ屈指のヴァーディーとシュマイケル
21分の2点目の場面でも、ヴァーディーの貢献が光った。巧みなステッピングと駆け引きでコッホの前に入り、ニアサイドで潰れながらクロスにダイビングヘッドで合わせる。そしてGKが弾いたボールにユーリ・ティーレマンスが詰めてゴールネットを揺らした。
76分にはコッホの背後から静かに鋭く飛び出して自らも今季7得点目となるゴールを決め、ヴァーディーは85分にモーガンとの交代でピッチを退いた。昨季、33歳にして自身初のプレミアリーグ得点王に輝いたストライカーは、全盛期のスピードを失いつつある代わりに、味方を生かすプレーや相手との駆け引きを身につけ、そうした進化を自分の得点力向上にもつなげている。円熟味を増しながらいまだに進化の途中にあるのだ。
シュマイケルはいまだにプレミアリーグ屈指の守護神としてゴールマウスに君臨している。5シーズン前のリーグ優勝当時は、継続的な出場機会をもらって2年目だったが、昨季と一昨季はリーグ戦全試合に出場。毎年リーグ戦30試合以上でピッチに立ち、頑強さに衰えの気配はない。
若い頃は高い身体能力を生かしたショットストッパーとして評価されていたものの、近年はリーグ屈指のフィード力を持つGKとしても知られるようになった。最後方から相手の急所をえぐるようなロングフィードをバンバン通し、攻撃の起点にもなれる総合力の高いGKへと変貌して競争を生き抜いてきたのである。
オルブライトンやフクスは、新戦力たちの台頭もあって近年著しく出番を減らしていた。それでもピッチに立てば一定の仕事をこなすプロフェッショナリズムはさすがで、今季も貴重な戦力として重宝されている。
なぜ彼らが重要なのか。それは監督の要求に忠実に応え、複数ポジションを柔軟にこなすことができるからだ。
新境地を開拓する2人
かつて右サイドを縦に鋭く突破してクロスを上げる形が十八番だったオルブライトンは、今季になってサイドバック起用が増えている。それでも不満を漏らさず、ポジションに穴を空けることもない。
年齢を重ねてスピードにややかげりが見え始め、かつてのような突破力は鳴りを潜めるが、ハードワークは失われておらず、その強みを生かせる役割を得たようだ。右サイドバックで先発したリーズ戦では終盤にPKを誘発するクリティカルな斜めのパスを、ジェームズ・マディソンに通して勝利に貢献した。
一方、34歳になったフクスはセンターバックとして新境地を開拓しつつある。5バックで戦う試合も増えた今季、チャクラル・ソユンクやジョニー・エバンスらが離脱する中、万全の体調を維持して左センターバックを務めるようになった。
もともと左サイドバックだけあって、フィードの精度は抜群。さすがに空中戦や激しい競り合いでは後手を踏むこともあるが、地上戦の対人守備やビルドアップの起点としては信頼が置ける。ピッチ内外でのリーダーシップや、ムードメーカーとしての価値も高い。
モーガンはピッチ上ではさすがに能力的な限界があり、守備固めやパワープレー要員としてのスポット起用にとどまっている。とはいえ彼の役割はピッチ外の方が大きく、ロッカールーム内で発揮するキャプテンとしてのリーダーシップは、若手の多いチームにおいて不可欠なはず。さすがに彼の一言に逆らおうと思う跳ね返り者はなかなかいまい。
現代サッカーにおいて1つのクラブに5年も6年も在籍することは極めて難しい。どんどん選手は入れ替わり、監督も替わり、3年もすればまるっきり違うチームになっていることも珍しくない。そんな中で長期にわたって頼られるレスターのベテランたちは、まさにいぶし銀だ。
レスターがプレミアリーグで上位争いに絡めているのは、ジェームズ・マディソンやバーンズ、ウェスリー・フォファナなど今後が楽しみな若手選手たちが躍動していることだけが要因ではない。
「どんなこともどんなものもずっと同じであり続けることは不可能」という運命を受け入れつつ、それぞれのやり方で厳しい競争を生き抜いてきたベテランたちの支えがあってこそ、チーム全体が最大限の力を発揮できているのである。
(文:舩木渉)
【了】