不甲斐ないパフォーマンスが…
たった1人の男がピッチに立っただけで、全てが変わった。
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その男は言った。“Cristiano is back”と。そして「帰ってきた」ことこそが「最も重要だ」とも。まさに言葉通りの試合展開になった。
現地1日にセリエA第6節が行われ、ユベントスはスペツィアを4-1で下した。しかし、9連覇中の絶対王者は115年のクラブ史上初めてセリエAに昇格してきた相手に、苦しい戦いを強いられた。
アルバロ・モラタのゴールで14分に先制したユベントスだったが、32分にトンマーゾ・ポベガに同点ゴールを許してしまう。ミラン出身の若手MFに、あまりにもあっさりとフリーなスペースを与えてしまった。
試合運びそのものも不甲斐なかった。ユベントスの選手たちには覇気が感じられず、攻守ともにちぐはぐ。前半に放ったシュートはわずかに5本で、スペツィアの4本とほぼ変わらない水準だった。
ユベントスは前節終了時点で無敗ではあるものの、2勝3分とスタートダッシュに失敗。しかも、2勝したうちの1試合は、チーム内に新型コロナウイルス感染者が出て会場入りできなかったナポリ相手の不戦勝だった。
昇格組のスペツィアには勝たなければならない。もし勝ち点を落とすようなことがあれば、チーム状態が悪化するどころか、アンドレア・ピルロ監督の立場も怪しくなる。そんな状況で、窮地の指揮官は後半の早い時間帯に切り札を発動した。
新型コロナウイルス感染から復帰したばかりでベンチ入りしていたクリスティアーノ・ロナウドを、56分からピッチに立たせたのである。
背番号7の存在感は絶大だった。パウロ・ディバラとの交代でタッチラインをまたいだ瞬間からチームの雰囲気が一変し、パフォーマンスが著しく向上したのである。
そしてクリスティアーノ・ロナウドは、すぐに結果を出した。59分、モラタが相手の中盤とディフェンスラインの間にできたスペースで縦パスを受けて反転し、スルーパスを狙う。その先には2人のセンターバックの間で駆け引きしてフリーになったクリスティアーノ・ロナウドが動き出しており、GKまでかわしてユベントスに勝ち越しゴールをもたらした。
復帰即2得点。何よりも効果的な1人の選手
チーム全体が自信を取り戻したのか、それまでの窮屈そうなプレーは一切なくなり、のびのびとプレーするように。そこでピルロ監督はアドリアン・ラビオやアーロン・ラムジーも投入して、一気に畳みかける構えを見せる。
そして指揮官の起用に応えるかのように、フェデリコ・キエーザのロングパスに飛び出したラビオが、ペナルティエリア内で1人かわし、落ち着き払ったフィニッシュで追加点を奪う。交代出場から約5分後、67分のことだった。
76分には、キエーザが獲得したPKをクリスティアーノ・ロナウドが“パネンカ”でゴール中央に決めて4点目。自らの交代でチームに流れを引き寄せただけでなく、2得点で一気に試合を締めてしまった。
ピルロ監督は試合後のテレビインタビューの中で「守備面に関してはいい試合をしたと思う。だが、前半に決めきらなければいけないチャンスをたくさん作っていた」と攻撃面での不出来を悔やんだ。
そのうえで「後半は試合に勝ちたいという強い思いを持って入った。クリスティアーノ・ロナウドという存在も確かに1つとしてあったと思う」と語った。
ただ、ピルロ監督はエース投入以外にもスペツィアの出方に対抗すべく戦術変更を提示していたという。
「アルトゥールのところを断とうと、スペツィアは3人のMFを置いてきたので、それを越えた先のストライカーの後ろにある程度のスペースがあった。そこを他のMFたちが動くことで、アルトゥールは後ろで自由にプレーできた」
指揮官の求める戦術的な動きが複雑でわかりづらいために前半が低調で、クリスティアーノ・ロナウドというわかりやすい基準が入ったことでパフォーマンスが上向いたとすれば皮肉な話である。だが、実際にはどんな小手先の戦術変更よりも、1人の選手の登場が大きな効果を発揮したのだった。
とはいえ常識的に考えれば、新型コロナウイルス感染による離脱から復帰したばかりの選手をいきなり頼るわけにもいかない。ピルロ監督は「クリスティアーノは20日間も活動していない状態から戻ってきたばかりで、まだ(復帰プロセスの)初期の段階だ」と慎重に起用していく考えのようだ。
クリスティアーノ・ロナウドが命綱
しかし、選手本人は準備万端という様子である。「無症状だったし、気分も良かった。大好きなこと、サッカーを18日間か19日間もできなかったので、今日のような形で戻ってこられて嬉しい」とユベントスを勝利に導いた背番号7は語った。
体調不良はなく、トリノの自宅でトレーニングを積んでいたというから、復帰時にこれまでと変わらないパフォーマンスを発揮できたのも納得である。試合勘など彼には全く意味をなさない。
4日後にはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のフェレンツバロシュ戦が控え、さらにリーグ戦でも巻き返していかなければならない。クリスティアーノ・ロナウドは「セリエAは非常に競争力のあるリーグで、ミランはいま素晴らしい仕事をしている。ナポリやラツィオもそうだ。僕らはハードワークをして、成長していかなければならない」と気を引き締めていた。
昨季はインテルがユベントスに勝ち点1ポイント差まで肉薄し、今季はが無敗で首位。サッスオーロがアタランタをも超える攻撃力で2位につけるサプライズを演じ、ナポリやラツィオを上回るなど、セリエAでは例年以上の混沌とした競争が繰り広げられている。
個人に目を移すと、クリスティアーノ・ロナウド自身はスペツィア戦での2発も含めて今季のリーグ戦で5得点。だが、得点ランキングのトップには7得点を挙げているミランのFWズラタン・イブラヒモヴィッチが立っている。
同様に新型コロナウイルスに感染して打ち勝ったミランの“神様”は、ロンバルディア州の感染症対策キャンペーン動画の中で「ウイルスが俺に挑み、俺はそれを打ち負かした。だが、君たちはズラタンじゃない。ウイルスに挑戦などするな」と豪語した。
何事もなかったように活躍して絶大な存在感を放つズラタンにも負けてはいられない。“Cristiano is back”が「最も重要」であったことを半端ないパフォーマンスで誇示したクリスティアーノ・ロナウドのさらなる活躍こそが、ピルロ監督1年目のユベントスにとって離すことのできない命綱だ。
(文:舩木渉)
【了】