フットボールチャンネル

カディスがすごい。ラ・リーガに大異変…! 昇格組が暫定2位、アウェイ4連勝の要因とは?

ラ・リーガ第8節が現地30日に行われ、乾貴士と武藤嘉紀が所属するエイバルはカディスに0-2で敗れた。昇格組のカディスはこの試合でアウェイゲーム4連勝とし、暫定ながら2位に浮上している。レアル・マドリードやアスレティック・ビルバオも打ち破ったアウェイでの強さの秘密とは?(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

昇格組がアウェイで4連勝!?

サルビ・サンチェス
【写真:Getty Images】

 いくら保守的だ、アンチフットボールだと非難されようと、最終的には勝った者が強い。それがプロの世界だ。

【今シーズンのリーガはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


 ラ・リーガ1部で現在暫定ながら2位に浮上したのは、昇格組のカディスである。15年ぶりに1部リーグの舞台へ戻ってきた彼らは極端なまでに守備的なサッカーで勝ち点を積み重ね、ついにトップ2の座まで到達した。

 しかも、現地30日に行われたラ・リーガ第8節でエイバルを2-0で下し、アウェイゲーム4連勝。新型コロナウイルス感染拡大の影響で無観客試合が続き、ホームサポーターの圧力を受けないなどの要素はあれど、どんなチームにとっても難しくなる敵地において昇格組が4連勝というのは驚くべきことだ。

 アルバロ・セルベラ監督は非常にわかりやすいサッカーを我々に披露してくれる。基本的には4-4-2のブロックを自陣深くに敷いて辛抱強く相手の攻撃に耐え、いい位置でボールを奪えれば直線一気のカウンターで相手ゴールを攻め落とす。

 この形でウエスカ、アスレティック・ビルバオ、そして昨季王者のレアル・マドリードまでも葬った。しかも、全て対戦相手のホームスタジアムで、である。

 波に乗ったら止まらない。今節はエイバルからも最も得意とする形で2つのゴールを奪った。

 まず36分、ピッチ中央付近でエイバルのセントラルMFパパクリ・ディオプからボールを奪うと、左サイドに展開。勢いよく駆け上がってきた左サイドバックのアルフォンソ・エスピーノが粘ってクロスを上げ、中央でフリーになっていたFWアルバロ・ネグレドが頭で合わせた。

 スペインでも屈指のヘディング技術を持つベテランストライカーに、あれだけ時間を与えて跳ばせれば簡単にゴールネットを揺らせる。ただ、それ以上にカウンターの際に4人、5人と次々に飛び出してくるカディスを抑えるのは難しい。

 それがよくわかったのは39分の2点目の場面だった。1点目よりもやや自陣側で再びディオプからボールを奪うと、ネグレドを経由して右サイドを爆走してきたサルビ・サンチェスへ。最後はこの俊足ウィンガーがGKマルコ・ドミトロヴィッチの股を抜いてゴール。流れるようなカウンターで仕留めた。

カディスの生き残り戦略

アルバロ・セルベラ
【写真:Getty Images】

 セルベラ監督は勝利の後、「試合の入りは難しかった」と述べたうえでこう続けた。

「サッカーはボールと楽しむもので、選手たちが(今のスタイルを)楽しめていないのは間違いないと思う。他に勝つ方法もあるのかもしれないが、我々はプロだ。どういう試合になるかもわかっていた。

今日の相手(エイバル)は我々と同じようなチームで、ミスを犯さない。だが、我々よりもゴールから遠い位置で守り、その高さをキープしようとするから、そこにチャンスがあると知っていた。チャンスは少なかったが、我々は非常に正確で、(カウンターから)ゴールを奪った。ゴールが決まれば、守るのはより簡単になる」

 自陣深くに引くカディスに対し、エイバルは80%近いボール支配率で攻め続けた。しかし、ボールを握って攻撃を展開していくのはエイバルがもともと得意としている形とは言えない。彼らも普段は守りに徹する時間が長くなる傾向のチームだからこそ、前がかりになったディフェンスラインの背後に大きなスキができていた。

 2部時代と同様に1部でも「生き残り」を最優先にした戦略で、カディスは前に進む。セルベラ監督の提示する明確な哲学のもとで、「楽しい」サッカーよりも勝つことに喜びを見出しているようだ。

「選手たちを説得する最善の方法は、彼らに伝えたことがうまくいったうえで勝つことだ。現時点ではそうなっている。(中略)このカテゴリでは、楽しむのではなくプロである必要があると私は思っている。楽しむのは、その後だ。選手たちは私のいうことをやらなければならないし、今のところうまくいっている」

重鎮ネグレドが語る充実感

アルバロ・ネグレド
【写真:Getty Images】

 ゴールが決まるまでの過程の美しさではなく、ゴールが決まった後の結果を愚直に求める。勝って喜べなければ、楽しいサッカーも始まらない。「我々はボールを持つことが好きではない。そもそもボールを持てるかどうかは多くのことに依存するもので、我々はそれが得意ではないから」と言い切る指揮官の考え方は、プロの監督として見事なまでに爽やかだ。

 実際、アウェイで勝利した4試合におけるカディスの平均ボール支配率は28%と極めて低い。もちろんシュートチャンスの数も少ないが、確実にカウンターを決めて勝ってきた。エイバル戦はシュート6本のうち枠内に飛んだのは4本、ビルバオ戦に至ってはわずか3本のシュートで勝ち点3をもぎとったのである。

 UAEから母国スペインに戻って5シーズンぶりにラ・リーガを戦っているネグレドは「本当の話、アウェイの方がホームにいるより遥かにいいよ。チームは非常に真剣になり、皆が犠牲を払って戦う姿を見ることができるんだ」と、4連勝中のアウェイゲームにおける絶好調を認識している。

「あれだけうまく守ることができれば、僕たちは自分がしなければならない仕事に安心して取り組める。そして、僕らがゴールを決めたら、頭を切り替えて、それ(ディフェンス)はより簡単になる(ことを思い出した)。僕たちのチームが持っている意識は、常にいい結果をもたらしている」

 マンチェスター・シティやセビージャなど強豪でもプレー経験のあるベテランが「勝利」によって極端に守備的なカウンタースタイルにやりがいを見出しているとすれば、周りもついていくしかないだろう。前線を引っ張るこのストライカーの影響力は、チームを大きく後押ししているのではないだろうか。

相変らず得点力不足のエイバルは…

乾貴士
【写真:Getty Images】

 一方で、セルベラ監督が「我々にとっても多くの点で参考になるクラブ」と語っていたエイバルにも触れておかねばなるまい。

 ホセ・ルイス・メンディリバル監督が率いる5年連続で1部残留を果たしたチームが近年ずっと悩まされているのは、得点力不足だ。昨季チーム内得点王だったファビアン・オレジャナはバジャドリーへ移籍し、絶対的なストライカーがいない今季はさらに深刻な状況に陥っている。

 チャンスの数を増やすべく崩しの局面で乾貴士と新加入のブライアン・ヒルの共存を図っているが、これもなかなか難しい。フィジカル面に課題を抱えるブライアンはサイドで起用せざるをえず、チームで最も多くのシュートを放つなど好調の乾を左サイドから中央に移したが、2試合連続でうまくいかなかった。

 前節セビージャ戦では前半途中にブライアンと乾の位置を入れ替え、カディス戦ではヘディングで決定的なシュートを放つ場面もあった乾を前半のみでベンチに下げてしまった。メンディリバル監督の苦悩はこうした采配からもうかがい知ることができる。

 線は細い(細すぎる)が抜群の打開力で左サイドを斬り裂けるブライアンは、中央になると相手ディフェンスを背負えず、1対1でも簡単に倒され、危険な位置でボールを失うことが多い。乾はフィジカル面の安定感や守備時のインテリジェンスでブライアンを上回るものの、中央でのプレーになると同様に相手ディフェンスを背負うのが苦手で、仕掛けの威力も半減してしまう。

 流れの中で2人が左サイドに集まって近い距離でパス交換をしている際は、呼吸が合っている様子を感じられ、絶妙な連係からチャンスにもつながっていた。もういっそのこと乾とブライアンを左サイドに並べておけば……とも思うが、全体のバランスを考えるとそうもいかないのがサッカーの難しさである。現状では技巧派の2人を同時起用するのではなく、わかりやすく長身ストライカーを2人配置するカディス戦後半のような4-4-2の方がうまく機能している印象だった。

 守って耐えてカウンターに「バランス」を見出したカディスと、攻守どっちつかずで決め手を欠いた現実と勝利を追い求めるうえでの理想の間で「バランス」を探し回るエイバル。おそらくシーズンの目標も似ている小規模な地方クラブ同士のマッチアップは、対照的な両者の現状を浮き彫りにする結末となった。

(文:舩木渉)

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!