相手を寄せ付けない完璧な勝利
試合を簡単に総括すると、ミランはまさに“パーフェクト”だった。
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いつも通りの4-2-3-1で挑んだステファノ・ピオーリ監督率いるチームは、力の劣るスパルタ・プラハを立ち上がりから押し込んだ。セリエA第5節ローマ戦から中2日という厳しい日程にも負けず、ピッチに立つイレブンたちははつらつとしたプレーでゲームをコントロールしていた。
先制弾は24分に生まれている。高い位置でブラヒム・ディアスがボールを奪うと、ズラタン・イブラヒモビッチにボールが渡る。背番号11は中央へボールを送ると、それを受けたB・ディアスがDFをかわしてシュートを流し込んだ。
その後も攻撃の勢いを緩めないミランは、35分にPKを獲得。これはイブラヒモビッチが外してしまったが、後半にラファエル・レオンとディオゴ・ダロのポルトガル人コンビが1点ずつを奪い、最終的に3-0と快勝を収めた。
計15本のシュートを放ち3得点を奪った攻撃陣の活躍はもちろん見事だが、守備陣も実に安定していた。スパルタ・プラハにはわずか5本しかシュートを許しておらず、被枠内シュートは0本。ミランがホームゲームで枠内シュートを与えなかったのは2017年9月、SPAL戦以来初のことだったという。
さらにミランは主力のテオ・エルナンデスやハカン・チャルハノール、アレクシス・サレマーカーズといった選手を完全に休ませることに成功。イブラヒモビッチも45分間のプレーに留まり、フランク・ケシエやアレッシオ・ロマニョーリらもフル出場ではなかった。そうした中でもダロやB・ディアス、ラデ・クルニッチらが奮闘し、勝ち点3を奪えたことの意味は非常に大きいと言えるだろう。
また、同時刻キックオフを迎えていたグループH組のもう一試合、リール対セルティックは2-2のドローに終わったため、ミランはグループ単独首位に。まだ4試合残しているとはいえ、早くも決勝トーナメント行きを一歩リードしている。
ミランが貫いた狙い
スパルタ・プラハに力の差を見せつけたミランはこの日、明確な狙いを持って試合に挑んでいた。
アウェイのスパルタ・プラハは勇気を持って前からプレッシャーをかけてきた。それに対しミランはへたに小細工せず、シンプルなロングフィードで相手ディフェンスライン裏、あるいはタッチライン際を使う。ボールを失うリスクはあったが、長いパスを出すことで相手選手を広げ、それにより生まれたスペースを利用するという形だった。
ミランは開始わずか2分で2つのオフサイドを取られた。いずれも相手ディフェンスラインの裏を狙ってのものだ。
一方で立ち上がりから多くのチャンスも作った。4分にはロングフィードからスペースを突いたイスマエル・ベナセルの折り返しをクルニッチがシュート。その2分後には長いボールで右サイドのサム・カスティジェホへ展開し、オーバーラップしたダビデ・カラブリアへパス。そこからのクロスをイブラヒモビッチが合わせ、ゴールを狙っている。
こうした形が脅威となるのは、やはりイブラヒモビッチの存在があるからと言えるだろう。どんなボールでも高確率で収めることができることはもちろん、抜群の存在感を光らせる同選手のランニングなどは必然的に相手の最終ラインを動かす。つまり深さも作れるし、下がって後ろのスペースを空け、味方に利用させることもできる。長いボールを蹴り込む攻めの狙いは非常にシンプルだが、イブラヒモビッチがいることにより、その破壊力は格段に増すのだ。
9分にはイブラヒモビッチが効果的なランニングで相手最終ラインを下げると、自身の下へ飛んできたロングパスを胸で落とす。背番号11が動いたことで生まれた最終ラインと中盤のギャップにB・ディアスが侵入し、最後はシュートで終わった。
そして35分には左サイドからのロングボールに対し相手より先に身体を入れファウルを誘発。PKを得た。先述した通りこれを得点に結びつけることはできなかったが、イブラヒモビッチの特徴を最大限生かしたサッカーに、スパルタ・プラハが大苦戦を強いられていたのは確かだ。
もちろん、イブラヒモビッチの動きに対し柔軟なプレーをみせたB・ディアスやクルニッチといった2列目の選手のプレーも見逃せない。元スウェーデン代表FWのアクションに彼らの動きというプラスαがなければ、当たり前だがここまで押し込むことはできなかった。
攻守万能なベナセルの存在感
後半、ピオーリ監督はイブラヒモビッチを下げレオンを投入。絶対的な主役をピッチから退かせたのだ。それでも、ミランの戦い方は大きく変わらなかった。そして結果的に、前半よりも多い2点を奪うことに成功したのだ。
イブラヒモビッチにも負けず躍動していたのは、イスマエル・ベナセルだった。恐らくこの日、この男がいなければミランがここまで差をつけて勝利することは難しかったと言えるだろう。
ベナセルは前半から左足で魅せていた。9分のチャンスシーンは同選手がイブラヒモビッチへロングボールを当てたことがキッカケとなって生まれており、35分のPK奪取に繋がるパスを出したのもアルジェリア人MFだった。
そして、後半に奪った2得点にもベナセルは絡んでいる。いずれもピッチ中央でボールを受け、美しい低弾道フィードでダロを生かしてゴールへの活路を切り拓いていた。まさに、ミランのレジェンドであるアンドレア・ピルロを彷彿とさせるようなキック精度であった。
ベナセルはパス以外にもドリブルでDFを一枚剥がして前進したり、守備面では読みの鋭さを生かしてボールを奪ったりと中盤底で幅広いタスクを遂行。ボランチコンビを組んだサンドロ・トナーリがまだフィットしきれていない中、攻守両面で獅子奮迅の活躍をみせた。
データサイト『Who Scored』によるスタッツをみてもパス67本、同成功率87%、キーパス両チームトップタイの2本、ドリブル成功数両チームトップとなる5回、インターセプト数両チームトップタイの3回と申し分ない数字。これまでの存在感ももちろん素晴らしかったが、スパルタ・プラハ戦ではひと際輝いたと言えるだろう。
エンポリ時代からベナセルは攻守において万能だったが、現在はそのすべてのスキルが着実に磨かれている印象を受ける。とくに、4-2-3-1システム移行後の活躍は、目を見張るものがある。
ミラン加入当初、4-3-3のアンカーを担っていたベナセルは、機動力のあるケシエとチャルハノールというインサイドハーフのカバーを一人で担うことが多く、プレーに余裕がなかった。それが原因か、かなりギリギリでの対応を強いられ、昨季はリーグ戦だけで14枚ものイエローカードを受けた。
しかし、ダブルボランチ移行後はケシエという相方にも支えられ、プレー一つひとつの精度が高まった。運動量豊富なケシエがボールホルダーにプレッシャーを与えれば的を絞りやすくなり、持ち味である読みの鋭さがより光る。無理な対応を強いられることも少なくなった影響か、今季ここまで公式戦でのイエローカードは0枚。攻撃面でもプレーに余裕が生まれている印象が強い。
ケシエの評価もぐんぐん上昇しているが、ベナセルも負けじと成長を続けている。期待されたトナーリが本領発揮出来ていない中、アルジェリア代表戦士のパフォーマンスは今後もミランを支え続けるだろう。
(文:小澤祐作)
【了】