苦しかった前半のビジャレアル
UEFAヨーロッパリーグは理想と現実の間で折り合いを見つけていかなければならない。ビジャレアルはジェラール・モレーノやダニエル・パレホを欠く中で、パコ・アルカセルやモイ・ゴメスといった中心選手も休ませる必要がある。
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「この大会に関しては、多くの選手に出場機会を与え、若い選手たちにも責任を負ってもらいたいと思っている」とウナイ・エメリ監督も考えている。この試合でも久保建英が先発、アレックス・バエナとジェレミ・ピノが後半からピッチに立った。
この試合のビジャレアルは4-1-4-1の布陣だったが、左サイドバックの選手が2人いた。アルフォンソ・ペドラザが左サイドバックに入り、ハウメ・コスタが左のインサイドハーフでプレーしている。
前半は苦しい時間帯が続いた。「前半は思ったよりもひどい試合だった」と指揮官が振り返ったように、ビルドアップも、敵陣での崩しも、トランジションもうまくいかなかった。
CKをカルロス・バッカが頭で合わせたがポストに弾かれ、FKをマヌ・トリゲロスが直接狙うがGKに阻まれた。久保やサムエル・チュクウェゼのドリブルも打開策にはならなかった。
エメリの修正と久保建英の適応
後半は左サイドの3人、久保、コスタ、ペドラザの立ち位置が明確になった。ボールを持ったとき、ペドラザはいつものように高い位置を取り、久保はモイ・ゴメスのように中央に侵入する。コスタは2人をサポートするようなポジションを取った。この試合でもスタートのときはこれができていたが、時間の経験とともに曖昧になっていた。
ハーフタイムでの戦術的な修正は、エメリ監督の得意技でもある。そして、後半のビジャレアルは生まれ変わったようにチャンスを生み出していく。そしてその中心には久保がいた。
53分、ライン間で受けた久保がバッカにパスをつけた。バッカからパスを受けたチュクウェゼがダイレクトで左足を振り抜き、GKが弾いたところを久保が詰めたがゴールに押し込めず。62分には左サイドを縦に切り込んで折り返したが、チュクウェゼのシュートはDFに阻まれた。
左サイドを“捨てた”久保は多くのチャンスを作った。データサイト『Whoscored.com』によれば、キーパス数はマヌ・トリゲロスと並んでチーム最多の4本をマークしている。
スィヴァススポル戦もそうだが、久保は左でも結果を残し始めている。右サイドやトップ下が得意ではあるが、左サイドという引き出しが増えれば、久保にとっても大きな武器になるに違いない。
久保の強みは適応力にあると思う。FC東京でもすぐに結果を出したわけではなく、マジョルカでも前半戦は途中出場が続いた。しかし、長谷川健太監督やビセンテ・モレーノ監督が求めるものを理解し、最終的には主力に成長した。ビジャレアルでも同様に、指揮官が口にする「適応」や「改善」といったプロセスを久保は着実に踏んでいる。
選手交代によるタスクチェンジ
74分の交代はパフォーマンスの問題というよりは、前後の試合も含めたプレータイムを考慮したものだろう。目先の勝利は大事だが、チームはこれ以上負傷者を出したくない。久保は3試合連続で先発していたので、ここでお役御免となった。
ビジャレアルが久保も含めた3枚替えを行った4分後、カラバフが先制に成功する。しかし、ビジャレアルの交代選手がチームを逆転勝利へと導いた。
久保に代わって左サイドに入ったピノがカットインから強烈なミドルシュートをニアサイドに突き刺した。さらにその4分後にはチュクウェゼが左サイドの混戦からゴール前にパスを出し、バッカに代わって入ったパコ・アルカセルがワンタッチでゴールに流し込んで逆転。後半アディショナルタイムに獲得したPKをパコ・アルカセルが決め、試合の大勢は決した。
ピノは今季トップチームデビューしたばかりの18歳で、これが記念すべき初ゴールとなった。久保が中央に流れてプレーしたのに対し、右利きのピノはサイドからの打開を図った。久保がしていたチャンスメイクの役割はコスタに代わってインサイドハーフに入ったモイ・ゴメスに受け継がれている。選手交代により目の前に選手のタスクが変わったことで、カラバフの選手たちは混乱したに違いない。
アルメニアとアゼルバイジャンの衝突により、カラバフ一帯は現在も戦闘が続いている。この日試合が行われたのはカラバフではなく、トルコのイスタンブール・バシャクシェヒルのホームスタジアムだった。どちらにとっても難しいゲームとなったが、若い選手が経験を積んだビジャレアルが難敵を退けた。
(文:加藤健一)
【了】