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希少な左利きのCB
2013年11月、日本代表はベルギーでオランダ代表と親善試合を行い、2-2で引き分けている。オランダが2点を先行したが、日本代表が追いついた。
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試合後、後半に上手く攻撃ができなかったことについて、ルイ・ファン・ハール監督は、「左側のCBが左利きでなかったから」と、話していた。
オランダは縦横にパスをつないでいくスタイルで知られている。彼らのサッカーを実現するためのノウハウも蓄積されていて、その1つが左側のCBは左利きであるべきだという考え方だ。ファン・ハールはそうしたオランダのロジックに忠実な監督で、バルセロナを率いていたときも左利きのCBとしてフランク・デ・ブールを獲得していた。
左利きは左足側にボールを置く。自然と視界は左方向へ広がる。左のCBは左方向へパスを送ることが多いので、左利きのほうが都合はいい。また、タッチラインに沿って縦に深いパスを送る場合、右足と左足では射程距離が違うということもある。
左SBに左利きが適しているのは洋の東西を問わないが、CBの利き足にまでこだわりを持っているのがオランダらしい。ファン・ハール監督は、CBが左利きでなかったことでビルドアップがスムーズではなかったと言いたいようだった。
ただ、左利きはもともと数が少ない。およそ10人に1人ぐらいの割合だそうだ。オランダは比較的左利きの多い国だが、それでも代表のレフトCBが必ず左利きというわけでもない。Jリーグも左利きのCBは少ない。名古屋グランパスの丸山祐市は数少ない左利きのCBである。
ロングパスを「置く」
名古屋は失点が少ない。平均失点では川崎フロンターレに次ぐ少なさだ。川崎の場合は攻撃時間が長く、敵陣でのハイプレスも強力なのが失点の少なさの要因だが、名古屋はそれなりに攻め込まれながらの守備なので、自陣での守備力が高いと考えられる。
昨季途中でマッシモ・フィッカデンティ監督が就任し、そのときは降格の心配もあったので守備に全フリするような戦法だった。しかし、今季は攻守のバランスのとれたチームになっている。とくに守備的な戦い方をしているわけではなく、守備のクオリティの高さが堅守につながっている。
全体に守備の意識は高く、米本拓司と稲垣祥のボランチコンビの守備力が高い。そしてCBは中谷進之介と丸山の鉄板コンビの安定感が素晴らしい。スピードのある中谷が右利きで右側、読みとフィードに優れた丸山が左利きで左側という相性のよさもある。
希少な左利きCBの丸山はロングパスの精度が秀逸だ。左足にボールを乗せるような柔らかいキックで、受け手の目の前にそっと置いてやるようなボールを蹴る。体を左へ開きながら、左サイドではなく縦へ鋭いパスを入れられるのは左利きならでは。右足でこれをやるのは難しい。
日本代表に値するクオリティ
184cmと身長もあるので空中戦に強く、シュートブロックの上手さでピンチを未然に防いでいる。ブロックに行ってファウルになることは少ない。足下ではなくシュートコースを塞ぎに行っているからだろう。実際、足下のボールにタックルするより、シュートコースへ行ったほうが速い。
丸山はボールの置き直しも少ない。止めているのに、もう1回触らないとロングボールを蹴らないCBもけっこういるが、それだと時間のロスになる。CBはMFやFWに比べるとプレッシャーが少なく時間もあるので、タッチが1回多いぐらいでは影響がないように思われるが、それは出し手側の話であって、受ける側はその余分なタッチで時間を制限されるのだ。
日本代表の歴代CBはことごとく右利きだ。左利きの数そのものが少ないので不思議ではない。CBの利き足にこだわりを持つオランダですら、常に左利きを用意できているわけではない。ただ、利き足へのこだわりはビルドアップへのこだわりでもある。
丸山も日本代表に招集されたことがあるが定着しなかった。左利きであればいいわけではないが、丸山のクオリティは招集に値している。あとは日本代表にオランダ並のビルドアップへの執着があるかどうかということなのだろう。
(文:西部謙司)
【了】