ヒーローになり損ねた男たち
【写真:Getty Images】
4-4-2のバルセロナに対し、ユベントスも4-4-2で守った。前線からマンツーマンではめにいったが、なかなかボールを奪うことができなかったのが誤算だったろうか。ユベントスは枠内シュートを放つことなく敗れている。
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ユベントスの枠内シュートは0本だが、ゴールネットは3回揺らしている。
先制された直後、フアン・クアドラードのスルーパスにアルバロ・モラタが抜け出した。GKとの1対1を詰めてゴールに押し込んだが、VARの検証によりオフサイドとなり、ゴールは認められなかった。
30分にはクアドラードのクロスをモラタがダイレクトでゴールに流し込んだが、これもオフサイド。55分にもクアドラードからの折り返しをモラタがゴール前で押し込んだが、三度オフサイド。いずれも肉眼では判断が難しい、数十センチ単位の判定だった。
不運なのはモラタだけではなかった。立ち上がりからチャンスを作ったバルセロナにもついてない男がいた。
CKの流れからミラレム・ピャニッチがペナルティエリア内でボールを拾い、フリーのアントワーヌ・グリーズマンに渡した。グリーズマンは左足でニアサイドを狙うが、シュートはポストに直撃。74分にはリオネル・メッシのスルーパスに反応して左足を振り抜いたが、シュートはファーサイドのゴールポストのわずか右を抜けていった。
必然だったデンベレのゴール
ついていない選手がいれば、ツキが回ってきた選手もいる。この試合のラッキーボーイはウスマン・デンベレだったが、先制ゴールは偶然というよりは必然だった。
14分、左サイドのハーフウェイ付近からメッシがダイレクトで逆サイドにロングパスを送る。デンベレはこれをトラップすると、カットインから最後は右足を振り抜いた。ユベントスの選手に当たったボールは枠を捉え、立ち上がりから好セーブを連発していたGKヴォイチェフ・シュチェスニーは反応できなかった。
ディフレクションによるラッキーなゴールと言ってしまえば簡単だが、デンベレにとってみれば得意な形だった。
両利きの選手はそこまで珍しくないが、どちらの足でも遜色なく蹴れるという選手がその大半だろう。しかし、たいていの場合はどちらか一方の足でドリブルすることが多い。
一方で、デンベレは両足でボールを運べ、両足でシュートを打つことができる。シュートシーンは右サイドから左足でカットインし、左足でシュートを打つと見せかけて、鋭い切り返しから右足を振り抜いた。
マッチアップしたダニーロからマークを受け取ったフェデリコ・キエーザは完全にフェイントに引っかかり、寄せることができなかった。シュートを打つ選手との間合いが空けば、シュートが身体に当たっても枠内に飛ぶ可能性は高くなる。ユベントスの守備陣はデンベレに対応できていなかった。
メッシと同じ役割
ドルトムント時代のデンベレに、ブンデスリーガのクラブは2人の選手をつけていた。両足を自在に操れるデンベレはプレーの選択肢も多い。ボールを持ったとき、縦への突破とカットインの両方に備える必要があると考えるとわかりやすい。
デンベレを複数の選手でチェックすれば、フリーな選手が生まれる。ブンデスリーガでは6得点13アシストと、アシストがゴールを上回っていた。
フェレンツヴァロシュ戦もそうだった。右サイドを突破してペドリのゴールをアシストしたシーンではペナルティエリア内にいた4人のDFが全員デンベレを見ていたため、ペドリが完全にフリーだった。
しかし、バルセロナでは少し事情が異なる。メッシが右サイドに寄れば左は空くし、左に寄れば右が空く。フェレンツヴァロシュ戦のゴールシーンは、メッシに人が集まったことでデンベレがフリーになっている。
ユベントス戦のデンベレのゴールシーンは、左のメッシから右のデンベレへ。ボールが逆サイドにあるとき、左サイドで先発したペドリは中央に絞ってボールに関わろうとするのに対し、デンベレはサイドに張っている。デンベレがあえて孤立することでユベントスのディフェンスを横に広げていた。
デンベレもメッシと同じように複数の選手を引き付けている。相手の寄せが甘ければシュートを打てるし、寄せてくればフリーの味方を活かすのはメッシと同じである。メッシのすべての役割を担うことはできないが、デンベレはその一部を負担することができる。
バルセロナ移籍後、デンベレは度重なる怪我でほとんど活躍できていないが、対策に取り組んでいる。メッシもかつては怪我に悩まされていたが、ここ数年は大きな怪我がめっきり減った。その大きな要因と言われているのが食事改善だが、デンベレも専属の料理人をつけているという。身体が資本のサッカー選手にとって、身体を作る食事はトレーニングと同様に重要なものであることは、メッシのその後の活躍が証明している。
今季、先発したのはヘタフェ戦とユベントス戦の2試合のみ。いずれもプレー時間は70分に満たないが、復活への道のりを着実に進んでいる。完全復活というにはまだ早いかもしれないが、ドルトムント時代の輝きを少しずつ取り戻していると言っていいだろう。
(文:加藤健一)
【了】