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ザルツブルクの速攻に大苦戦
「チャンピオンズリーグでプレーするのが一番好きだ。すごく楽しいし、これを続けていきたい」
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アトレティコ・マドリードに所属するFWジョアン・フェリックスは、現地27日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージ第2節のFCザルツブルク(レッドブル・ザルツブルク)戦を終えてこのように語った。
CLでは自身初の1試合2得点を達成。一時は1-2とリードされた苦しい展開の中で鮮烈なパフォーマンスを披露し、見事にアトレティコを救った。前節は王者バイエルン・ミュンヘンに敗れていたため、今大会初勝利である。
「チーム全体にとって素晴らしい試合だった。僕たちは非常にいいプレーができていて嬉しいよ。これを続けていけば結果も出るだろう」
ジョアン・フェリックスはそう語るが、実際のところ楽観視できるような試合内容ではなかった。
29分にボランチの位置から飛び出してきたマルコス・ジョレンテの強烈な左足ミドルシュートでアトレティコが先制に成功した。ところが40分、ペナルティエリア内でフリーになり、メルギム・ベリシャからのラストパスを受けたドミニク・ショボスライに同点弾を叩き込まれてしまう。
アトレティコにチャンスがないわけではなかった。14分にはエクトル・エレーラからのロングパスに、ゴール前でジョアン・フェリックスがバイシクルシュートで合わせるもクロスバー直撃。18分にルイス・スアレスがコーナーキックに合わせてシュートを放つもゴール左に外れた。
スアレスは37分にもGK強襲のシュートを見舞ったがゴールにはつながらず。マルコス・ジョレンテは33分にGKと1対1になるビッグチャンスを迎えたが、狙いすましたシュートはゴールの右に外れてしまった。
こうして相手が決定機を逃し続けている間に、ザルツブルクも攻め込んできていた。アトレティコ側の問題は守備にあった。直近のリーグ戦でベティスにもサイドの裏のスペースを度々攻略されたが、ザルツブルクにも度々両サイドバックの脆さを狙われた。
右のキーラン・トリッピアーと左のレナン・ロディはともに守備対応に課題がある選手で、簡単に裏を取られてしまう。逆にサイドをある程度捨てて中央に陣形を固めても、中盤でプレスがかからず、速攻でどんどん前線に人を送り込んでくるザルツブルクの選手をフリーにしてしまうことが何度もあった。
見事すぎた2得点
アトレティコが後半開始早々に奪われた勝ち越しゴールも、ザルツブルクが得意とする形からだった。
47分、ザルツブルクは自陣右サイドで細かくパスをつないで相手のプレスを引き寄せると、MFエノク・ムウェプがいきなり逆サイドに大きく展開する。そのパスの先には左サイドバックのアンドレアス・ウルマーが駆け上がっており、フリーでゴール前に折り返す。
そして、逆サイドからゴール前まで侵入してきていたベリシャが滑りながら押し込んだ。最終的にはアトレティコのDFフェリペのオウンゴールと記録されたものの、ザルツブルクが見事な攻撃で勝ち越しに成功したことには違いない。
相手の陣形全体を片方サイドに引き込んだうえで、ムウェプのパスから10秒以内にゴールネットを揺らす擬似的なカウンターが炸裂した。雄叫びをあげるジェシー・マーシュ監督のベンチ前での喜びようからも、狙っていた形がピタリとハマった1点だったことがうかがえた。
しかし、ザルツブルクの幸せな時間は長く続かなかった。52分、速攻の場面でルイス・スアレスに並走して横パスを受け取ったジョアン・フェリックスは、自ら一気にスピードを上げ、相手の密集の中でアンヘル・コレアとワンツーを仕掛けて抜け出しフィニッシュ。ほとんどパスやドリブルできるようなコースなどなかったにもかかわらず、目にも留まらぬ速さでザルツブルクのディフェンスラインを切り裂いた。
85分の逆転ゴールも見事だった。アトレティコの右コーナーキックの場面、一度は相手にクリアされてこぼれたボールを、左サイドから途中出場のトマ・レマルがワンタッチでゴール前に折り返す。
すると一歩退いて自分の前にごくわずかなスペースを作って待っていたジョアン・フェリックスが、ワンタッチ目でボールを浮かせるようにコントロールし、ツータッチ目でコンパクトに右足を振り抜いてゴールを撃ち抜いた。ザルツブルクのGKチタン・スタンコヴィッチは、至高の早業を目の当たりにして一歩も動けなかった。
ジョアン・フェリックスの魅力
「ジョアンは僕たちにとって非常に重要な選手だといつも言ってきた。今日、彼はそれを自ら示して見せた。最後のゴール(チームの3点目)を決めてくれて本当に嬉しいし幸せだ。彼は僕たちに今日のような夜をもっと与えてくれるはずさ」
マルコス・ジョレンテは、2得点でチームを勝利に導いたジョアン・フェリックスの活躍ぶりを絶賛した。ディエゴ・シメオネ監督も「ジョアンは高いレベルで多くの試合に出場してきたが、今日の彼は非常に規則的だった」と賛辞を送った。
やはりジョアン・フェリックスという選手の魅力が最大限に生かされるのは、前向きにボールを持って自分のリズムで仕掛けられる時だ。ザルツブルク戦で2トップを組んだスアレスは、常に相手のセンターバックと駆け引きしてくれるので、ディフェンスライン全体がそれに引っ張らられる。
そこで相手の中盤とディフェンスの間にスペースが少しでもできていれば、それはジョアン・フェリックスにとって最高のステージになる。身軽なターンで前を向き、顔を上げてドリブルを仕掛け、味方と小気味良いパス交換なども駆使して突破。最後はシャープなシュートで仕上げる。
狭いスペースを高速ワンツーで攻略した1点目、天性のゴール勘と巧みなポジショニングやコントロール技術が融合した2点目、さらに試合序盤にクロスバーを直撃した難易度の高いバイシクルシュート……。
フル出場で7本のシュートを記録した他にも「おおっ!」と声を出してしまうようなプレーの連続で、ザルツブルク戦におけるジョアン・フェリックスの90分間のパフォーマンスはおそらく加入以降最高のものだっただろう。
試合後に「君の最高のパフォーマンスか?」と問われ、「いいえ。全く違うね」と答えたのはジョアン・フェリックス本人である。結果を求められるプレッシャーは「新聞の内容がわからないので、楽しんで幸せになろうとしているだけ」だという。
果たして今回のザルツブルク戦がアトレティコでの“頂点”になってしまうのか。あるいはこれをきっかけに躍動感を増し、真のワールドクラスへの道を歩むことができるのか。本格ブレイクには今後の継続性こそが重要なポイントだ。
本人もまだ「最高」にたどり着いたとは全く思っていないし、周りからの期待は膨らむばかり。ジョアン・フェリックスのプレーには、規律と戦術に縛られて忘れがちな自由奔放さや洗練された美しさ、そして見る者を魅了するワクワクが詰まっているのだから。
(文:舩木渉)
【了】