インテル戦の勢いが残った前半
現地時間17日に行われたセリエA第4節、インテルとのミラノダービーはまさに激戦だった。ミランは終盤、かなり守備の時間を作られたが、チーム一丸となってリードを守り、4年ぶりの勝利を手にしている。
【今シーズンの欧州サッカーはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
その一戦で精神力と体力をフルに発揮した選手たちは、1週間も経たないうちに、今度は戦いの場をスコットランドに移した。苦戦の末出場を決めたヨーロッパリーグ(EL)・グループリーグ初戦でセルティックと対戦するためである。
ステファノ・ピオーリ監督はこれまで通り4-5-1のシステムを採用してきたが、先発メンバーはインテル戦から5人変更。右サイドバックには今夏加入したディオゴ・ダロ、2列目には右からサム・カスティジェホ、ラデ・クルニッチ、ブラヒム・ディアスが並び、ボランチにはサンドロ・トナーリが名を連ねた。
立ち上がり、ミランはいきなりピンチを招いた。今夏獲得を狙っていたクリストフェル・アイェルにドリブルで運ばれカスティジェホが剥がされると、ペナルティーエリア内への侵入を許す。そして最後は、シュートまで持っていかれた。開始わずか5分のことである。
しかし、先制したのはミランだった。14分、右サイドのカスティジェホが鋭いクロスを送ると、ズラタン・イブラヒモビッチの背後から飛び込んできたクルニッチがヘディング。これがゴール左隅に突き刺さった。
リードを奪われたセルティックはその後、この日が古巣対戦となったディエゴ・ラクサールを中心にサイド攻撃を仕掛ける。しかし、ミラン守備陣がしっかりと蓋。得意のセットプレーもことごとく撥ね返された。
こうしてペースを渡さなかったミランは、前半終了間際の42分に追加点。イブラヒモビッチのスルーパスに抜け出したテオ・エルナンデスがブラヒム・ディアスへパスを送ると、ボールを受けた同選手はDF二人を振り切り、最後は右足でゴールネットを揺らしている。
ミランは開始10分間で3本のシュートを許していたが、その後放たれたシュートはわずかに1本だった。その間に自分たちは2点を奪取。おおむね満足いく前半を送ることができていたと言えるだろう。しかし…。
後半は劣勢に
「よくやったが、後半は精度が落ちてピンチを迎えてしまった」。
試合後のピオリ監督の言葉通り、後半は一方的な展開となった。セルティックは2点差を追いつこうとリスクを冒して攻めに転じ、ミランを自陣深い位置へ押し込んだ。アウェイチームは、相手のフィニッシュ精度の低さに助けられる場面が多々あった。
おおむねポジティブな内容で前半を終えていたミランだが、不安がなかったわけではない。ダブルボランチの一角として出場したサンドロ・トナーリのパフォーマンスに満足した人は、恐らくいなかったのではないだろうか。
この日のトナーリは守備でも軽く剥がされてしまい、攻撃面でもパスミスや危険なロストがみられるなど不安定さを露呈。最も気になったのはポジショニングで、機動力のあるイスマエル・ベナセルらとは違い、中央に留まってしまうことが多かった。味方選手からすると決してパスを送りやすい状態とは言えず、むしろ積極的なアクションをみせたフランク・ケシエの方がよくボールに絡んでいた。
後半に入っても、トナーリのパフォーマンスレベルが上がったとは言い難かった。『Who Scored』の採点でもスタメンの中で最低の評価を得ている。ケシエやベナセルもいきなりフィットできたわけではなかったが、トナーリも同様に馴染むのに時間がかかるかもしれない。
このようにトナーリが存在感を示せなかった中、ゲームメイクを行っていたのはイブラヒモビッチだった。下がってボールを引き受け、その空いたスペースをクルニッチやB・ディアスが使う。ハカン・チャルハノール不在のセルティック戦はこの形だった。
しかし、66分にそのイブラヒモビッチがベンチへ下がる。さらに中盤で躍動していたケシエも同時に交代となった。結果論にはなってしまうが、この交代を機にミランの怖さはまったく出なくなった。
そして76分にセットプレーから失点。嫌な空気が漂っていた。このまま同点に持ち込まれてもおかしくはなかった。事実、ミランは後半開始からアディショナルタイムまで、1本もシュートを放つことができなかったのである。
チームを救った楽しみな逸材
そんなチームを救ったのは、途中出場のイェンス・ペッター・ハウゲだった。後半AT、アレクシス・サレマーカーズのパスを見事にコントロールすると、最後はGKとの1対1を冷静に制している。これで3-1としたミランが、EL初戦を勝利で飾った。
苦しい状況を救ったハウゲは、ここ最近までほぼ無名の存在であった。まだ若いということもあるが、前所属のボデ/グリムト自体が欧州カップ戦に頻繁に出るようなクラブではない。当然ながら、スポットライトを浴びる機会はそう多くはなかった。
しかし、ボデ/グリムトは昨季リーグ戦2位と躍進し、EL予選への出場を果たす。そこでミランと対戦し、ハウゲはハイパフォーマンスを披露。そこからミランの動きは早く、ノルウェーの若き逸材は晴れてミランの一員となった。
ハウゲはウイングをメインにプレーする選手で、身長184cmと体躯にも恵まれており守備にも献身的。最大の武器は幼いころフットサルで磨いたドリブルである。事実、今季はノルウェーリーグ2位となるドリブル成功数を記録していた。
「フットサルを楽しんだ。そこでボールを多く持ってドリブルスキルを磨いたんだ。これが選手としての自分。僕はドリブルをしてファンを楽しませたい」とはハウゲの言葉。大柄かつ高確率でボールを運べる選手というのは、近年のミランにはいなかったタイプだ。
また、ハウゲは「ウイングでも中盤でもトレクァルティスタ(トップ下)としても、色々なポジションでプレーできる。ボールを持って危険な攻撃を繰り出し、ロッソネリのファンを楽しませることが好きだ。僕は競争を恐れていない。チーム内での競争は成長と向上のための大きなモチベーションになる」とも話す。B・ディアスも同じだが、2列目のほとんどでプレーする意欲のある選手は、ミランにとってかなり貴重だ。
先述した通りハウゲの発掘はサプライズだった。それだけに、ノルウェーの若きアタッカーがELという舞台で結果を残した意味は、果てしなく大きい。まだ若く、今後も期待を持ちながらプレーを観ることができだろう。
そして何より、チームとして普段の控え選手がおおむね結果を残せたのは収穫だ。とくに後半の内容は厳しかったが、こうしたゲームを乗り切る強さ、そして総合力の高さが今のミランには備わっている。これまでであれば、こうした試合も落としかねなかった。ミランは着実に進化している。
(文:小澤祐作)
【了】