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ホームで屈辱的敗戦
レアル・マドリードからすると早く忘れてしまいたい、そんな夜になったはずだ。
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現地時間21日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)・グループリーグB組第1節。スペイン王者はホームでシャフタール・ドネツクと対戦したが、まさかの2-3黒星を喫した。試合後ジネディーヌ・ジダン監督は「もちろん嫌な気分だ」とコメントを残している。
スタメンが発表された時点で、マドリーは少し怪しかった。ダニエル・カルバハルやアルバロ・オドリオソラ不在の右サイドバックにフェルラン・メンディを起用し、1トップはルカ・ヨビッチ。週末のエル・クラシコを睨んでか、トニ・クロースや最も得点が期待できるカリム・ベンゼマはベンチからのスタートで、軽症のセルヒオ・ラモスはベンチ外となっている。
このようにマドリーは、若干ではあるが主力を温存していた。しかし、シャフタールはそんなに甘いチームではなかった。
単調な攻めが立ち上がりからみられると、その一定のリズムのまま時間が経過。4-5-1ブロックで守るシャフタールを崩せずにいると、29分にテテ、33分にオウンゴール献上、42分にマノル・ソロモンに点を奪われるなど、一気に3失点を喫した。まさに悪夢の前半である。
ジダン監督は後半頭からベンゼマを投入。流れの変化を図った。すると54分にルカ・モドリッチが得点。その5分後にこちらも途中出場のヴィニシウス・ジュニオールにもゴールが生まれ、1点差に詰め寄ることができた。
しかし、前半の3失点はあまりに大きかった。最後は必死で守りに徹したシャフタールに、勝利の女神は微笑んだのである。
「相手の先制点でミスを犯してしまった。実際のところ、我々は前半に自信と行動力、そしてすべてを失ってしまったね」とジダン監督は試合を振り返った。確かにこの日のマドリーは45分間だけですべてを手放してしまったと言える。
主力を一部温存してホームで黒星。さらにシャフタールは新型コロナウイルスの影響で8人もの選手が招集外となっていた。マドリーの敗戦は恥ずべきものだと言わざるを得ない。
ヨビッチはさすがに厳しい
先述した通り、スタメンが発表された時点でマドリーは怪しかった。とくに不安だったのが、1トップに入ったヨビッチだ。フランクフルトから加入後、まったくと言っていいほどインパクトを残せていないセルビア人FWに「CL初戦と言う大事なゲームを任せていいのか」というのが本音だった。
案の定、ヨビッチは“期待を裏切らなかった”。4-5-1のブロックを築き、中盤と最終ラインの距離をコンパクトに保つシャフタールを前に存在感が消え、シュートはおろかボールにすら触れられない。前半に一度決定機が訪れたが、迫力のないヘディングはGKアナトリ・トルビンに難なくキャッチされた。
後半、マドリーはベンゼマを入れたことでヨビッチと2トップ気味にしたが、それでも後者は輝けなかった。結局、シュート数2本、タッチ数両チームのスタメン最低の16回という数字を残し、59分にV・ジュニオールとの交代でピッチを退いている。
もちろん、攻撃の課題がすべてヨビッチにあるわけではない。しかし、彼が抱える問題が大きいのも紛れもない事実だ。
ヨビッチの良さは柔軟に動き回って点に結びつけることである。輝きを放ったフランクフルト時代は、長身FWセバスティアン・アレとのコンビでセカンドストライカーの役割を担い、ゴールを量産していた。
しかし、マドリーでは1トップを任されているので、なかなか良さが出ない。どこか窮屈そうなのだ。実際、この日も下がってボールを受け、散らして終わりと、動き直しの回数がかなり少なかった。ペナルティーエリア内へ入るアクションも、怖さという意味ではまったく物足りない。
また、ヨビッチはCFとしては体躯に恵まれているが、純粋なポストプレーヤーというわけではない。幅広いエリアに顔を出してボールを引き取り、味方を活かそうとすればできるのかもしれないが、それならベンゼマの方が遥かに能力は高い。ヨビッチを1トップで使うメリットは、やはり決して多くない。
2トップにすればある程度は力を発揮できるかもしれない。しかし、エデン・アザールやV・ジュニオール、ロドリゴ・ゴエスにマルコ・アセンシオらのいるウイングを消してまで2トップシステムを採用するのは、チームとしてデメリットの方が大きいとみる。シャフタール戦でも輝けなかったヨビッチの立場は、想像以上に厳しいのかもしれない。
S・ラモス不在の影響
マドリーはこの日、守備にも大きな問題を抱えていた。前半だけで3失点しているが、あと2点ほど失ってもおかしくはなかったのである。
チームとしての狙いは、最終ラインから丁寧にボールを繋いでくるシャフタールに対しハイプレスを行い、高い位置で奪ってはショートカウンターに繋げるというもの。そのため、マドリーのディフェンス陣はかなりハイラインを敷いていた。
しかし、その狙いはことごとく不発に。シャフタールは選手一人ひとりのサポートが非常に速く、良いテンポでボールが繋がる。中盤には技術のあるアントニオ・シルバ・サントスやソロモンらがいるため、身体を寄せても巧みなコントロールから前を向かれ、押し込まれるという場面が目立った。
その中でマドリーの懸念点となっていたのは、やはりマルセロのいる左サイドだった。彼が高い位置を取るためその背後が空くというのはお決まりで、当然ながらシャフタールもそのエリアを使ってくる。
ただ単にボールを蹴り込まれるだけなら、エデル・ミリトンのカバーが間に合う。しかし、シャフタールはショートパスで中盤のプレスをかいくぐり、人数を集めたところでボールをサイドに展開した。こうすることでミリトンは下がりながらの対応を強いられ、中はラファエル・ヴァラン一人。こうした数的優位な状況を何度も作られている。
また、マドリーは主将で攻撃の中心となっていたマルロスを捕まえきることができなかった。このマルロスは配置こそトップ下となっているものの、流れの中では最終ラインの手前に位置することも多い。つまり、ある程度の自由が与えられているということだ。
13分の場面では、自陣深い位置からスルスルと上がっていくマルロスを誰も捕まえることができず、マルセロのカバーにミリトンが入ったことで生まれたヴァランとのギャップを突かれている。シャフタールのやりたいことを簡単にさせてしまったと言える。
高い位置からのプレスをかいくぐるほどのパステンポを誇るシャフタールは、マドリーにとって相性が悪かった。また、やはりS・ラモス不在の影響もあったと言えるだろう。もちろん、それだけでは片づけられないが…。いずれにしてもマドリーは、重要なエル・クラシコに向け不安だけを残した。
(文:小澤祐作)
【了】