フェレンツバロシュ、25年ぶりCL本大会に挑む
実力と格の違いを見せつけた。
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現地20日にUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージが開幕し、バルセロナはハンガリーのフェレンツバロシュに5-1で大勝した。
後半にジェラール・ピケが退場処分になったことを除けば、理想的な勝ち方だった。リオネル・メッシがPKで口火を切り、アンス・ファティ、フィリッペ・コウチーニョが続く。そして途中出場のペドリとウスマン・デンベレもゴールという形で起用に応えた。
1995/96シーズン以来、25年ぶりとなるCLに挑んだフェレンツバロシュも勇敢ではあった。しかし、アウェイでのバルサ戦に全精力を注げない条件が揃っていたのは残念としか言いようがない。
バルサも週末にレアル・マドリードとのエル・クラシコを控えているが、フェレンツバロシュも同様に24日にはウイペシュトとのダービーマッチが組まれている。
人生最高クラスの対戦カードだが敗戦濃厚なアウェイゲームと、人生がかかるほどライバル意識の強い相手とのローカルダービーのどちらを優先しなければならないかは明らかだ。実際、フェレンツバロシュを率いるセルゲイ・レブロフ監督は一部の主力メンバーをベンチスタートにしていた。
試合は大方の予想通りバルサがボールを支配して攻める展開になった。フェレンツバロシュは強烈な波状攻撃をGKディブス・デネシュを中心とした堅い守備で跳ね返し続けた。そして、ボールを持てば臆せずパスをつなぎ、しっかりと自分たちの攻撃の形を出そうとする姿勢を見せていた。
最初にゴールネットを揺らしたのはフェレンツバロシュだ。10分、バルサの浅いディフェンスラインを破ったFWトクマク・グエンが左サイド後方からのロングボールに飛び出し、ペナルティエリア内で相手CBクレマン・ラングレをかわしてシュートを放った。しかし、このゴールは惜しくもオフサイドの判定で認められない。
後半に退場者を出したが…
その後もバルサの攻撃を受ける時間が長かったフェレンツバロシュの守備陣は、一瞬の気の緩みが命取りになることを思い知らされた。26分、ペナルティエリア内でかわされたDFアドナン・コヴァチェヴィッチが、後ろに出した足で単独突破してきたメッシを引っ掛けてしまい、バルサにPKが与えられる。これを10番が自ら決めた。
集中して何とか耐えていたディフェンスは、失点によって力強さを保てなくなってしまった。前日記者会見で「メッシに対策は?」と問われたレブロフ監督は「残念ながら我々には多くの計画を立てるような時間はなかった」と語っていただけに、先にゴールを許してしまったことが最も大きなダメージとして残った。
37分にはシンプルなロングスルーパスに抜け出したメッシのシュートがクロスバーを叩く。完全にバルサの流れとなり、42分にはフレンキー・デ・ヨングのふわりとした浮き球のスルーパスにアンス・ファティが反応し、後ろからのボールをワンタッチでゴールに流しこむ離れ業で追加点を奪った。
アンス・ファティは後半開始直後にも輝きを放った。ペナルティエリア内で複数の相手選手に囲まれながら、メッシからの横パスを足もとでコントロールし、右足ヒールで左へ流す。この絶妙なパスの先にはコウチーニョが待っており、冷静にリードを3点に広げた。
バルサにとって唯一の誤算は、この後の68分に起きたピケの退場だ。1対1で競り合っていた相手FWトクマクがペナルティエリア内でシュートを打ちながら倒れる。このシーンでユニフォームを引っ張っていたと判定され、無情にもレッドカードが提示された。やや厳しめの判定にも見えたが、覆ることなくバルサは10人になってしまった。
バルサで輝く10代の逸材たち
しかし、数的有利になったフェレンツバロシュにもPK以外で反撃する力は残されていなかった。
82分には相手ディフェンスを3人引き連れながらペナルティエリアの右側の深くまで侵入したウスマン・デンベレの折り返しに、フリーになっていたペドリが合わせて4点目。完全復活を目指す背番号11のフランス代表FWは、89分にメッシのお膳立てを受けてゴールネットも揺らした。
最終スコアの5-1は、バルサとフェレンツバロシュの力の差をはっきりと示していたと言えるだろう。メッシとウスマン・デンベレが1得点1アシスト、アンス・ファティはCLにおいて18歳になる前に2得点以上を奪った史上初の選手となり、途中出場のペドリも17歳でCL初得点を記録した。
バルサを率いるロナルド・クーマン監督は試合後、アンス・ファティやペドリの活躍ぶりについて問われ「選手たちの進化には非常に満足している。彼らが何歳で、どのようなパフォーマンスを見せられるかよくわかっている。ペドリは全てのポジションでプレーできる非常に賢い選手だ。彼ら2人だけのおかげというわけではなく、私は勝ったことを非常に嬉しく思っている。彼らには彼ら自身のため、そしてクラブのために素晴らしい未来がある」と絶賛した。
各メディアで伝えられている記者会見の内容を読むと、「出番のなかったアントワーヌ・グリーズマンはエル・クラシコに出場するのか?」「アンス・ファティをエル・クラシコで起用するか?」と、週末に向けた質問が多くなっているのは、現地でフェレンツバロシュ戦とマドリー戦のどちらが重要だと認識されているかを如実に表している。
それでも若者たちにとってCLでの活躍と、それによって得られた自信は格別だ。ペドリは「僕が子どもの頃から持っていた夢の1つを実現した」とCLデビュー&ゴールの喜びを語った。
アンス・ファティも「チームメイトたちがゴールを簡単にしてくれる。デ・ヨングからのパスが素晴らしく、僕はただプッシュすればいいだけだった」と自らの得点シーンを振り返り、「僕はいつもエル・クラシコでプレーすることを夢見ていた。今、うまくいけばそのピッチに立つチャンスがある」と伝統の一戦に向けて自信を深めているようだった。
貴重な経験を糧に成長すれば…
一方、フェレンツバロシュにとって今回のバルサ戦は「いい経験になった」とレブロフ監督は語る。「最初の20分間は問題なかったが、(メッシのPKで)失点した後に動きが落ち始めてしまった。そして相手を自陣に引き入れすぎてしまった」と、強力な相手を前にナーバスになってしまった試合運びを悔いた。
非常によく整備された組織的なサッカーで、前後半の序盤は印象的な姿も見せられていた。4-1-4-1をベースに、ビルドアップになるとアンカーが両センターバックの間に落ちて3バックのような形を作り、両サイドバックに高い位置をとらせながら大胆にボールを動かす。
そして最終的にはスピードのあるトクマクを始めとした前線の選手たちを相手のディフェンスラインの背後に走らせ、一気にゴールを陥れるのが理想の攻撃パターンだ。CL予選1回戦から怒涛の勢いで勝ち上がる快進撃の中でも見せていた形を、バルサ相手にも堂々と披露した。
ところがバルサの対応は早く、後方のセンターバックとアンカーはフリーになるものの、インサイドハーフの2人がデ・ヨングとミラレム・ピャニッチに捕まってしまった。トクマクを走らせてアバウトなロングボールを蹴る場面も多く、何度かチャンスも作ったが散発的で確実性を欠いた。
カンプ・ノウでのバルサ戦に先発起用されたハンガリー代表MFシーゲル・デイビッドは、地元メディアに対し「高揚したし、刺激的で、名誉なことだ。驚かせたかったが、今日はそのチャンスがなかった。これまでのキャリアの中で最高レベルの対戦相手だった」と試合を振り返った。ただ、今回経験したCLのプレー強度やスピード、緊張感などは次戦以降に必ず生かされる。
初戦はさすがに力関係が明らかで、その通りの結果になった。バルサだけでなくユベントスやディナモ・キエフといった強豪との対戦も控えるフェレンツバロシュは、25年ぶりのCLでどんな成長を見せていくだろうか。彼らが奮闘してグループ内をかき回すことができれば、バルサやユベントスも悠長に構えてはいられない。
(文:舩木渉)
【了】