ダービーで4年ぶりの勝利
ミランがセリエAにおけるインテル戦で最後に勝利を収めたのは、2016年1月のこと。サポーターは4年間も、リーグ戦でライバルチームを倒す姿を見ることができなかったのである。
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しかし、通算226回目となった「ミラノダービー」で、ついにミランは勝利を掴んだ。スコアは1-2。ミランはこれで開幕から無傷の4連勝となっている。
前半から動きのあるゲームだった。ミランは高い位置からのマンツーマンディフェンスを行い、インテルのビルドアップを阻止してはカウンターへ移行。手数をかけないスピーディーな攻めで、ホームチームを苦しめている。
その中で主役に躍り出たのはズラタン・イブラヒモビッチだった。同選手は12分、ペナルティーエリア内でファウルを誘発しPKを見事に沈めると、その4分後に左サイドからのクロスをダイレクトでプッシュ。新型コロナウイルス感染から復帰したばかりとは思えぬ、圧巻のパフォーマンスを披露した。
インテルに押し込まれながらもうまく陣地を回復し、得点へと結びつける。ミランの狙いは前半開始早々からインテルの心臓を貫いていたと言えるだろう。
29分にロメル・ルカクに1点を返され、後半は疲労の影響も出たことでインテルにボールを保持される時間も増えた。実際、決定的なシーンも何度か作られている。しかし、ミラン守備陣は最後まで高い集中力を維持。前半2点リードしながらも逆転を許した昨季の反省を活かし、逃げ切った。
「イブラヒモビッチがいれば、インテルもさほど怖くなくなる」。
インテル戦を前に、守護神ジャンルイジ・ドンナルンマはそう話していた。同選手の言葉は正しかったのかもしれない。今季のミランは一味違う。
低調な主将を支えたベテランCBの輝き
開幕4連勝を果たしたミランだが、目を見張るのは守備の強度だ。ボローニャ戦、クロトーネ戦、スペツィア戦とクリーンシートを記録しており、このインテル戦も最少失点に抑えている。
ただ、負傷明けだった主将アレッシオ・ロマニョーリはベストコンディションとは言い難い内容に終始した。左サイドバックのテオ・エルナンデスは奮闘していたが、随所で軽い対応がみられている。ルカクとラウタロ・マルティネスを中心としたインテル攻撃陣に、あと一歩のところまで迫られる場面も決して少なくはなかった。
それでもインテル攻撃陣に対し1点に抑えることができたのは、シモン・ケアーの存在が大きかったと言えるのではないか。先述した通りロマニョーリはやや怪しかったが、このデンマーク人センターバックは抜群の安定感を発揮している。
立ち上がりこそL・マルティネスに剥がされることが多かったが、その後はベテランらしくしっかりと修正。身長191cm・体重82kgという恵まれた体躯を活かした対人守備の強さはもちろんのこと、読みの鋭さと的確なポジショニングセンスも発揮してゴール前に蓋をしていた。
ピンチの場面一つひとつを切り取っても、危険なシュートコースにケアーが入っていることが多い。数的不利な状況でも落ち着いており、常に最適なプレーを選択。ビルドアップ面での貢献度も抜群に高かった。
とくに秀逸だったのは68分の場面。中へ切り込んできたルカクがキックフェイントでマークを剥がそうとしたが、ケアーはそれを読み簡単に飛び込まず。最後までベルギー人FWに身体をぶつけ、ボールをカットしている。
2ゴールをあげたイブラヒモビッチ、そして最終ラインに安定感をもたらしたケアー。ベテラン選手の活躍がなければ、ミランが4年ぶりのダービー戦勝利を収めることは、なかったのかもしれない。
日本代表戦でも躍動していたが…
守備面に関して言えば、もう一人忘れてはならない人物がいる。それが、ダブルボランチの一角として先発したフランク・ケシエだ。
13日にオランダ・ユトレヒトで行われた国際親善試合・日本代表戦でもハイパフォーマンスを披露していたケシエは、その代表戦による疲労をまったく感じさせなかった。とにかく攻守両面でよく走り、よくボールに絡む。一体どこにそんな体力があるのかと、疑いたくなるような働きぶりであった。
ケシエは守備時、アルトゥーロ・ビダルにマークをついてビルドアップの阻止を図っている。その背後を突くルカクやL・マルティネスにパスが入ると、スプリント力を活かして懸命にプレスバック。CBが相手2トップを遅らせている間にサンドし、マイボールへ展開。これがインテルにとってかなり厄介だった。
そして、体躯で勝るルカクに対してもフィジカルコンタクトで負けず。ペナルティーエリア内に侵入される前に、中盤でよくボールを刈り取っていた。ルカクに苦戦していたロマニョーリからしても、ケシエの存在は大きな助けになったことだろう。
ビダル、そしてルカクと非常に厄介な二人を相手にしっかりと戦ったケシエ。データサイト『Who Scored』によるスタッツを見ても、タックル成功数3回(チーム内2位)、インターセプト数3回(チーム内1位)、パス成功率90%(チーム内1位)と申し分ない。まさにマン・オブ・ザ・マッチ級の活躍であった。
ミランとは反対にインテルは…
開幕4試合で1失点の堅守を誇るミランに対し、インテルは早くも今季3度目の複数失点を喫した。守備面に問題があることは明らかだ。
アレッサンドロ・バストーニとミラン・シュクリニアルの両者が新型コロナ陽性のため欠場となっており、この日はダニーロ・ダンブロージオ、ステファン・デ・フライ、新加入アレクサンダル・コラロフの3人で最終ラインを形成した。その中でデ・フライはまずまずのパフォーマンスを見せていたが、問題はその両脇。ダンブロージオとコラロフの出来である。
今季ローマから加入したコラロフは、12分のシーンでイブラヒモビッチに付いて行けず、最後は背番号11のわずかなキックフェイントに対し過度に飛び込んでしまい、PKを与えてしまった。その他の場面でもイブラヒモビッチらに対しては後手に回り続けるなど、自身の受け持つエリアに蓋をすることができなかった。
左ウイングバックのイバン・ペリシッチが高い位置を取っているので、インテルの左サイドはとくにカウンター時に大きなスペースができる。コラロフは当然そこを止められず、チームとしてもカバーしきれない。ここは穴となっていた。
一方で反対サイドのアシュラフ・ハキミへのパスやルカクの得点に繋がった攻め上がりなど、攻撃面では良い部分も出ていた。やはりこのあたりは、コラロフの持つ良さと言えるだろう。ただ、CBとして守備力は全然物足りない。メンバー的に厳しかったとはいえ、やはりウイングバック起用がベストである。
そしてダンブロージオだが、攻撃面でも守備面でも良いところは少なかった。対峙したラファエル・レオンに対しスピードで負け16分に2失点目を招き、とくに後半は軽率なパスミスも多かったなど、一定のペースのまま90分間を過ごしてしまった。
レオンとのマッチアップはミスだったと言わざるを得ない。インテルのWBはかなり高い位置を取るので、ダンブロージオは1対1の場面を強いられることが多かった。そうなると、スピードのあるレオンが一枚上回る確率は当然高くなる。なかなか厳しかった。
通算226回目の「ミラノダービー」は、守備の質が勝敗の行方を分けたと言えるのかもしれない。
(文:小澤祐作)
【了】