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際立つ存在感。スタッツも躍動ぶりを証明
いよいよ巨大なポテンシャルを開花させるか。
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ベンフィカからアトレティコ・マドリードへ加入して1年目の昨季、ジョアン・フェリックスは1億2600万ユーロ(約153億円)にのぼった移籍金に見合うだけの活躍を見せたとは言えなかった。
リーグ戦では27試合に出場して6得点1アシスト。なかなか結果が出ず、一時は7位まで順位を落とすなどチームも低迷する中、終盤戦にかけて徐々にベンチに座る時間も増えていった。ピッチに立っても表情は冴えず、チャンスを逃しては天を仰ぐことも珍しくなかった。
ところが今季は見違えるような躍動感を見せている。アトレティコにとってラ・リーガ開幕戦となった先月27日のグラナダ戦では1得点1アシストを記録し、6-1の大勝に大きく貢献。中2日だったためスタメンを7人入れ替えた同30日のウエスカ戦にも先発起用され、フル出場した。
岡崎慎司も所属するウエスカとの一戦はスコアレスドローで、前半は両チームともに枠内シュートなしという堅い展開だった。それでもジョアン・フェリックスは90分間で全選手中最多の6本のシュートを放ち、パス成功数47本はアトレティコ内最多だった。
さらにデュエル勝利数10回、ドリブル成功数4回も出場していた全選手中最多と、攻撃面で際立ったデータを記録している。パス成功率92%(47/51)、デュエル勝率63%(10/16)、ドリブル成功率67%(4/6)も非常に高い数字だ。
一体なぜ、これほどまで高いパフォーマンスを発揮できるようになったのだろうか。大きな要因の1つはスタートポジションの変化にある。
中継でのスタメン発表CGに4-4-2の2トップの一角として表記されるのは、昨季と同じである。ただ、それはあくまで便宜上そうなっているだけであって、相方との関係性は昨季と違っている。
加入1年目のジョアン・フェリックスは、あくまで2トップの一角としてディフェンスラインにより近い場所でのプレーを求められた。駆け引きしてDFとMFのライン間にできるスペースでボールを受けても、すぐにセンターバックやセントラルMFに体を当てられて潰されてしまうような状態になっていた。
一体何が変わったのか
また、ディエゴ・シメオネ監督がポゼッションスタイルの導入を試みた時期もあり、ゆっくりとボールを動かしながら攻めていくと、ボールが相手ゴール前に届く頃には屈強なDFたちに周りを取り囲まれている。2トップの相方である基準点型のアルバロ・モラタとの相性も良くなかった。
しかし、今季は表記上の4-4-2こそ変わらないものの、ジョアン・フェリックスは4-2-3-1のトップ下に近いような立ち位置からプレーに関わり始めるようになった。ボールを受ける位置が低くなり、必然的に前を向いてプレーできる回数も増えている。
時にはセンターサークル付近まで下がってきて味方からパスを引き出し、前を向いてドリブルで運び、サイドへ展開したり、FWにスルーパスを通したり、自らフィニッシュに持ち込んだりとプレーのバリエーションも豊富になっている。
やはりジョアン・フェリックスは純然たるストライカーではなく、前向きにボールを持ってこそ輝くセカンドトップかトップ下のようなタイプの選手なのである。ボールを触りながら自分のリズムを刻み、危険なスペースを見つけて必殺のラストパスを通すことでこそ持ち味がフルに生かされる。
ウエスカ戦の49分には華麗な突破からハイライトプレーを演出した。ジョアン・フェリックスはペナルティエリア手前でゴールに背を向けてボールを受けると、すぐ2人に囲まれてしまう。しかし、この場面を背番号7のポルトガル代表は大胆なひらめきと繊細なテクニックで切り抜けた。
左手で相手をブロックしながら一度右足でボールを引き、反転すると見せかけて、すぐ同じ右足でボールを押し出すことで、寄せてきていたペドロ・モスケラの股をいとも簡単に抜いて見せた。
そして体ごと入れ替わってモスケラを抜き去り、ディフェンスの密集へとドリブルで突っ込んでいく。結局、3人に寄せられてボールは足もとから失ってしまったが、DFの視界の外から走りこんできたマルコス・ジョレンテがフリーで強烈なミドルシュートを放った。
58分にはセンターサークル左でボールを受けて前を向くと、ディフェンスラインの裏に走り出したルイス・スアレスの動きを見逃さずにスルーパスを通した。結果的に角度が厳しくスアレスはシュートをゴールネットにねじ込むことはできなかったが、視野の広さと長い距離でも正確さが失われないジョアン・フェリックスのパス技術の高さが示されたプレーだった。
スアレスとの連係に課題も…
シメオネ監督は「昨季の多くのドローと同じでないことがわかった。均衡を破るゴールを決められなかったためドローになったが、多くのチャンスを作ることができていた」とウエスカとの一戦を振り返った。
この「多くのチャンス」にジョアン・フェリックスが絡んでいたのは間違いなく、昨季以上のパフォーマンスが見られる確信があったからこそ、2試合連続での先発起用に至ったはずだ。
もちろんまだ課題はある。ジエゴ・コスタにしろ、新加入のルイス・スアレスにしろ、相方との連係構築は不可欠だ。グラナダ戦は交代のタイミングで入れ替わったため、ウエスカ戦で初めて一緒のピッチに立ったスアレスとは特に互いの距離感やタイミングを図りかねているシーンが散見された。前半で2人がパスを交換したのはたった一度だけだった。
アトレティコでの200勝目を目前に控えるシメオネ監督は、ウエスカ戦に向けて「ジエゴ・コスタとスアレスは同時に先発起用、あるいは一緒にプレーすることも、別々にプレーすることも可能」との見解を示していた。一方でウエスカ戦後には「誰もがプレーし、重要な存在になれる機会を作れるようにローテーションをしていく」とも述べており、前線には様々な組み合わせが考えられる。
その中で、ジョアン・フェリックスは今季のアトレティコのカギを握る最重要人物になっていくはずだろう。
1得点1アシストを記録したグラナダ戦後に「僕は昨季と同じだけど、物事が僕にとって非常にうまくいっている。これを続けていかなければならない。クオリティの高い選手が多ければ多いのはチームにとってもいいことだ」と語った自信たっぷりな姿は、見る側からすれば変貌ぶりに驚くばかりだ。
スアレスとの競争も大歓迎……覚醒の予感が漂うアトレティコの背番号7のプレーにぜひ注目してもらいたい。
(文:舩木渉)
【了】