レアル・マドリードはベティスに辛勝
レアル・マドリードとの一戦を終えたベティスの選手たちは、怒り心頭である。
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センターバックのアイッサ・マンディは「僕には言えないことがある」「試合には時々、戦えないことがある」と言った。
GKジョエル・ロブレスは「審判は正しくなかった。疑わしい場合は、大きなチームに有利になる。僕は何年もやっているが、いつも同じだ」と、より直接的に判定への不満を口にした。
現地25日に行われたラ・リーガ第3節で、ベティスはマドリーに2-3で屈した。フェデリコ・バルベルデのゴールで14分に先制されたベティスだったが、35分にマンディ、37分にはウィリアム・カルバーリョと立て続けにゴールネットを揺らして逆転に成功。前半を1点リードで終えた。
後半開始直後にエメルソンがオンゴールを献上して同点に追いつかれたものの、流れはそれほど悪くなかった。
試合がさらに動いたのは64分のことが。ディフェンスラインの裏に抜け出したマドリーのFWルカ・ヨヴィッチを、ペナルティエリア手前でエメルソンが後ろから倒してしまう。そのプレーに対してVARの助言が入り、オン・フィールド・レビューの結果、リカルド・デ・ブルゴス・ベンゴエチェア主審はエメルソンにレッドカードを提示した。
10人になったベティスは劣勢に立たされるも、しばらくは耐えた。マドリーも人数の少ない相手を崩しきれず、攻めあぐねる。そんな中、再びVARのホセ・ルイス・ゴンサーレス・ゴンサーレスが介入し、デ・ブルゴス・ベンゴエチェア主審に判定の見直しを助言した。
79分にペナルティエリアで両チームの選手が競り合った際、ベティスのDFマルク・バルトラにハンドがあったのを見逃していたのではないか、というのがオン・フィールド・レビューの焦点だった。
結果、主審はマドリーにPKを与えた。これをセルヒオ・ラモスがしっかりと決め、マドリーが再び勝ち越し。10人のベティスに反撃の力は残されておらず、2-3のまま試合終了となった。
Video assistant Real Madrid
スペインでは「VAR」に2つの意味があると言われることがある。1つは本来の使われ方、「Video assistant referee(ビデオ・アシスタント・レフェリー)」だ。そして、2つ目は「Video assistant Real Madrid(ビデオ・アシスタント・レアル・マドリード)」である。
ロブレスが「疑わしい場合は、大きなチームに有利になる」と嘆いたように、VARがマドリーに有利に働くことが多いのを揶揄する言葉として「Video assistant Real Madrid」が使われる。今回の議論を巻き起こした判定は、まさに判定の「マドリー有利」がまかり通っているのではないかという疑念を強くするものだった。
バルトラのハンドに関して、すぐ隣にいた相方のマンディは「(試合終了直後なので)映像を見たわけではないが、現場ではそれほど明確ではなかった」と主張した。
一方、バルトラ本人は「僕はボールとマジョラルの間に体の半分を入れていた。彼は腕と足で僕のことを前方向に引っ張っていて、抜け出せなかった」と主張する。そして、次のように続けた。
「VARは疑わしいグレーな事象には介入しないと聞いていたので、あのプレーに介入してきたのは驚くべきことだ。僕に(引っ張られていた)自分の腕を切り落とすことはできない。自分の体を支えようとしただけなんだ。それに(別のプレーで試合が止まって)試合は仕切り直しになっていたから、マドリーの選手たちは(ハンドに対して)誰も抗議していなかったじゃないか」
ベティスを率いるマヌエル・ペジェグリーニ監督は判定への直接的な批判は避けたものの、「マドリー、VAR、レッドカード…全てを同時に相手にするのは難しい」と悔やんだ。前半は相手を上回る展開だっただけに、後半に起こったことは受け入れ難かっただろう。
彼は「我々はエメルソンのオウンゴール直前にカリム・ベンゼマがいたポジションも見なければいけないが、テレビとVARが決めたことだ」と、別の場面にも疑義を呈したが、とにかくこの試合は「VAR」の話題を避けられないシーンが多かった。
改正された競技規則とハンドの解釈
そもそも「明らかな間違い」に対して介入するのがVARなので、運用としては正しいものもあったが、「そこを見るんだ」と驚くような「細かさ」が矛盾や疑問を生んだとも言える。バルトラのハンドにしても、しばらくプレーが流れた後、マドリーのDFダニ・カルバハルとベティスのMFクリスティアン・テージョが衝突して倒れた際に主審とVARの交信が始まっていた。
最初はカルバハルかテージョのレッドカードに相当する危険なタックルが疑われたのかと思いきや、VARがマジョラルとバルトラの競り合いにおけるハンドを指摘していたのには、さすがに驚いた。
現行の競技規則では、ハンドの基準として「意図的」かそうでないかは考慮されず、あくまで手や腕の位置によって反則を取られるようになっている。一部の例外は認められているものの、ゴール前で手や腕にボールが当たってしまえば、ほとんどのケースで「ハンド」となってしまう。
さらに2020/21シーズンに向けた競技規則の改正で「どこからが腕で、どこからが肩か」の基準も明確化された。新ルールでは「脇の下の一番奥」よりも外側が「腕」、内側が「肩」とみなされるようになった。
もちろん「肩」にボールが当たってもハンドにはならないが、近年のルール変更によってハンドの反則はより厳格に取られるようになり、VARの導入でPKが与えられる事案も増えている。
以前のように「意図的かどうか」が考慮されるルールの方がシンプルでわかりやすかったとは思うが、「手や腕の位置」が基準になったことで、今回のバルトラの場合もハンドと判定されてもおかしくはない。
だが、マジョラルの「引っ張る」プレーによって動きが制限された不利な体勢で「体を支えようとした」腕にボールが当たってしまい、さらに流れの悪かったマドリーにPKが与えられたことが話を大きくなってしまった。
個人的な見解を述べるとすれば、あの場面でバルトラがハンドを宣告されるのはあまりに酷だ。マジョラルは右腕でバルトラの左肩を抑えていたし、倒れながらという体勢を変えられない状況で腕がボールに触れてしまった不可抗力な側面はあっただろう。むしろマジョラルのファウルでもおかしくはなかったとすら感じる。
ラ・リーガらしい話題だが…
VARがサッカー界に定着しつつある中で、判定や規則はどんどん厳格化(あるいは厳密化)されていき、余白がなくなってきている。やってはいけないことが増えているというより、「やれないこと」が増えてきている印象だ。
おそらく今季もVARや主審の判定に関する話題には事欠かないだろうし、マドリー関連でいえばなおさら。ずっと「またマドリーかよ」と言われ続けるに違いない。
今回の件に関してもジネディーヌ・ジダン監督は「主審がいて、彼はその場面をレビューした。(ハンドは)起こったのだと思う。彼が責任者で、私は審判に関して何か言うことはないし、関与しない」とはぐらかした。トニ・クロースが負傷し、マルティン・ウーデーゴーも振るわないなどネガティヴ要素が多い中でも勝ち点3を拾えたのだから、わざわざ勝利を疑わしくしたり、際どい場面を蒸し返すようなことは言う必要がない。
このように判定に関しては有利になった側と不利を被った側、両者に言い分があり、それぞれがポジショントークに終始するのは当たり前。だからこそ、我々視聴者は何が正しいのかを見極めるために、競技規則や審判、VARの運用についてしっかりと学び、知識を身につける必要がある。
開幕してすぐに判定に関して「あれは正しかった」「ありえない。おかしい」と互いに言い合いが起こり、メディアも含めて皮肉の効いた言い回しで議論がなされるのはラ・リーガらしいと、どこか安心してしまう。今回のベティス対マドリーに関してもしばらく「言い合い」は続くだろうが、きっと2週間もすれば忘れられ、また次の議題が起こっているはずだ。
しかし、たとえそうなったとしても、審判へのリスペクトや競技規則の理解を怠ってはいけない。そう肝に銘じるきっかけをくれた一戦だった。
(文:舩木渉)
【了】