あまりに残酷だった幕切れ
90分間奮闘したブライトンイレブンのことを考えると心が痛むような、そんな試合だった。運命とは時に非常に残酷で、それがサッカーの面白さの一つであることに間違いはないが、今回のゲームはあまりに“残酷”すぎた…。
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前節ニューカッスルに3-0と快勝を収めたブライトンは、プレミアリーグ第3節でホームにマンチェスター・ユナイテッドを迎えている。戦前の予想では耐えるホームチーム、攻めるアウェイチームという構図になると思われたが、いざキックオフの笛が鳴ると、試合展開はまったく逆のものとなった。
立ち上がりこそユナイテッドペースだったが、その後すぐにブライトンが流れを引き寄せた。最終ラインから的確かつ強気なビルドアップを行い、ボールも人もうまく前進。攻守の切り替えで集中力を欠いていたユナイテッドに対し、自分たちの持ち味を存分に示していた。
そして、40分に先制点を奪取。タリク・ランプティがブルーノ・フェルナンデスに倒されたことで得たPKをニール・モペイが冷静に沈めた。
ブライトンはその後、セットプレーから失点、そして後半立ち上がりの54分にマーカス・ラッシュフォードに見事なゴールを決められるなど、逆転を許してしまった。しかし、それでもピッチに立つ選手は気落ちすることなく、強気な姿勢を維持してユナイテッドを大いに苦しめる。チャンスも再三にわたり作り、GKダビド・デ・ヘアを脅かした。
そして、後半AT。ブライトンは右サイドで起点を作ると、最後はクロスにソロモン・マーチが反応。頭で押し込み、土壇場で同点に追いついた。
結局、2-2のまま試合終了の笛が吹かれた。しかし、タイムアップ直前のコーナーキックでブライトン側にハンドがあったことがVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)で確認され、なんとクリス・カバナー主審はゲームを再開。そして、これで得たPKをB・フェルナンデスが成功させた。
スコアは2-3。そして、今度は“正真正銘”の試合終了を迎えた。ブライトンは今季2敗目、対するユナイテッドは運よく今季初勝利を手にすることになった。
上積みがみられない攻撃
ここまでざっくりと試合内容を振り返ってきたが、ブライトンイレブンの戦いぶりは「見事」の一言だった。スコアこそ2-3となったが、ピッチ上のパフォーマンスは十分勝利に値するものであったと言えるだろう。試合後、アダム・ララーナがカバナー主審に対しかなり文句を言っていたが、それも無理はない。
一方で心配なのはアウェイのユナイテッドだ。前節1-3で落としたクリスタル・パレス戦もかなり酷かったが、ブライトン戦もお世辞にも褒められた内容ではなかった。「フィニッシュの精度が高ければ相手が勝ち点3を取っていた」とは試合後のオーレ・グンナー・スールシャール監督の言葉だが、まさにその通りと言える。
前節とは違い、今節は3点を奪うことができた。結果だけを見れば、これは非常にポジティブな要素と言えるのかもしれない。ラッシュフォードが2点目を奪ったカウンターのシーンを筆頭に、いくつか良い形を作れていたのも事実だ。
しかし、後ろに引いたC・パレスを崩せなかった前節のように、この日もボールを持った状態で相手を攻略できる可能性は限りなく低かった。データサイト『Who Scored』をみてもシュート数はわずか7本に終わっており、ゴールネットを揺らした3本以外、枠に飛んだシュートは1本もなかった。
B・フェルナンデスが加入した昨季冬以降の勢いは目を見張るものがあったが、今のユナイテッドにそこからの上積みがみられない。結局、前4人の個の力に任せてしまうという単純な攻めに終始しているのだ。
ユナイテッドの問題は、B・フェルナンデスにボールが入るまでほとんど前線に動きがないこと。ボールを保持しているもののメリハリがなく、いつまでもスローテンポが続いている。C・パレス戦も同じだったが、これにより相手に「守りやすい」状況を作らせてしまっている。
B・フェルナンデスはよくボールを受けようと下がって、タッチライン際ギリギリまで開いた選手にパスを送っている。しかし、サイドにいるパスの受け手と他の選手との距離感がかなり広いため、ボールを受けた選手のサポートにそもそも周りが間に合ない。そうしている間に、相手に数的優位な状況を作られて捕まるといったシーンが何度もあった。今やB・フェルナンデスに対するマークも厳しくなってきている中で、他の選手がそれをカバーできないのは致命的だ。
こうした中では機動力に長けるドニー・ファン・デ・ベークの能力は活きたはずだ。前節のC・パレス戦で縦にボールが入った瞬間、オランダ人MFは一気にギアを上げてパスの受け手をサポートするという効果的な動きをみせていたが、まさにそうしたアクションがこの日のユナイテッドには必要だった。
しかし、スールシャール監督がファン・デ・ベークを送り出したのは後半AT。リードを守りたかったという意図はあったかもしれないが、実に勿体ない。結果、ポグバもアントニー・マルシャルも試合にまったく入りきれず、B・フェルナンデスにかかる負担がただただ大きいという、まったく収穫なしのまま終わってしまった。
ワン=ビサカのポジショニング問題
また、ユナイテッドはこの日、ブライトンに計18本ものシュートを浴びており、5回もポストに救われた。先ほどスールシャール監督のコメントを紹介したが、相手に決定力さえあれば確実に負けていた。守備陣もまた、パフォーマンスを反省しなければならない。
攻守の切り替えが遅いうえに、局面局面での1対1も弱い。簡単に剥がされては、深い位置まで押し込まれる、という繰り返しだった。
ただ、ユナイテッドの守備面でこの日、最も気になったのはアーロン・ワン=ビサカのポジショニングだった。
試合後、元イングランド代表のジョー・コール氏は『BT Sport』を通じて「私はここにいて、ワン=ビサカに叫んでいた。『背後を見ろ! 背後を見ろ!』と」と話しているが、確かにこの日のワン=ビサカは対峙するマーチをフリーにし過ぎた。実際、ユナイテッド戦におけるマーチは両チーム合わせて最多となる5本のシュートを放っている。
ワン=ビサカは、前節3失点に絡んだヴィクトル・リンデロフのカバーにかなり意識を向けていた。意図したものであるか定かではないが、確かにブライトンの前線、モペイやアーロン・コノリー、レアンドロ・トロサールらは、リンデロフの近くでそれぞれが良い距離感を保ちながらポジショニングしていた。そこで数的優位を作られまいと、ワン=ビサカが内側に絞って対応するというのは自然な形だ。
しかし、メイソン・グリーンウッドも下がりきれないため、必然的に右サイドがガラガラとなった。さらに問題だったのは試合終盤だ。逃げ切りを狙ったスールシャール監督はエリック・バイリーを投入して後ろの人数を増やし、守備時は5バックを敷いた。当然、中央には3枚のDFがいる。それでも、左サイドにボールがある際のワン=ビサカは内側に絞り過ぎた。
試合後スールシャール監督が「相手のクロスを止めないといけない。もっとうまくボックス内でブロックしなければならない」と話しているため、ワン=ビサカの謎めいたポジショニングは指示したものではないと思えるが、だとすれば周りの人間が早急に改善を施すのが必須だった。
1対1の対応は抜群に上手いが、ボールウォッチャーになりがちでマークやポジショニングが曖昧になるというのはワン=ビサカの悪癖だ。そういった意味で考えると、ブライトン戦は彼のウィークポイントがかなり露呈してしまったと言える。
奇跡的に勝利したユナイテッドだったが、課題は山積みだ。暗いトンネルは、しばらく続くかもしれない。
(文:小澤祐作)
【了】