チェルシーにとって悪夢の前半
大型補強をしたがための生みの苦しみなのか。2億2000万ポンド(約290億円)の移籍金を費やした補強は今のところ結果に結びついていない。
【今シーズンのチェルシーはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
開幕戦には勝利したものの、ブライトン&ホーブ・アルビオンにボールを握られた。王者リバプールとは前半こそ互角に近い戦いを繰り広げたが、退場者が出たのをきっかけに成す術なく完敗。そして、昇格組のウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン(WBA)と対戦したこの日は、28分までに3失点を喫する失態を犯した。
「失点につながったのは明らかなミス」と試合後にフランク・ランパード監督は振り返っている。
相手のロングパスをマルコス・アロンソが頭で跳ね返したところを拾われて先制点を奪われた。2点目はチアゴ・シウバがなんでもないバックパスの処理を誤ったところから生まれた。コーナーキックの場面でリース・ジェームズがラインを上げていれば3点目はなかっただろう。
原因はひとつではない。表面的には個人のミスが失点につながったが、チームとして狙われていたこともまた事実だった。
1点目のシーンでは、右ウイングバックのダーネル・ファーロングを狙ったサイドチェンジのパスが少し短くなった。これをマルコス・アロンソが頭でつなごうとしたのだが、マテウス・ペレイラはしっかりとマテオ・コバチッチへのパスコースにポジションを取り直していた。
2点目のシーンではサイドに振られたこともあり、ボランチのジェーク・リバモアがマテオ・コバチッチとの間合いを詰めていた。1トップのカラム・ロビンソンがエンゴロ・カンテのパスコースを切りつつチアゴ・シウバにアプローチ。チアゴ・シウバは慌ててパスコースを探したが、トラップがおろそかになってしまった。
WBAの狙いと固執するチェルシー
チェルシーのビルドアップに対して、WBAは5-2-3の陣形を作った。ボールを回すチェルシーに対してWBAは無理に追うわけでも奪おうとするわけでもなく、中央でのパスカットを狙っていた。
チェルシーの両センターバックはフリーでボールを持つことができたが、中盤へのパスコースは塞がれている。サイドバックがボールを持っても、相手のウイングバックとシャドーが行く手を阻んでいた。
ゴールにこそならなかったが、コバチッチやカンテがボールを失うシーンは前半に何度かあった。中央でボールを奪って前線の3人で素早くゴールを狙うという共通認識はWBAに共有されていた。
対策をされたのであれば、それを回避する策を獲ればいいのだが、チェルシーは自分たちの戦いに固執する傾向がある。リバプール戦では1人少なくなったにもかかわらず、手応えを掴んだハイプレスを後半も継続させた結果、立て続けに失点を喫した。6-0で大勝した直近のリーグカップのように上から殴れることもあるが、一度苦戦するとそのまま深い沼へと引きずり込まれてしまう。
チェルシーはハーフタイムに2人を代え、4-2-3-1から4-3-3へ移行している。リース・ジェームズとカラム・ハドソン=オドイの右サイドから打開を図った。しかし、WBAにとってはサイドでいくら起点を作られようが、5-4-1で中央をふさいでいるので問題は起きなかった。
しかし、チェルシーも黙って食い下がることはなかった。55分にメイソン・マウントのミドルシュートで1点を返すと、70分にハドソン=オドイのゴールで1点差としている。
不可解なランパードの采配
しかし、ランパードは反撃に水を差した。1点差に詰め寄った直後にチアゴ・シウバを下げてオリビエ・ジルーを投入。4-3-3から3-1-4-2という前掛かりな布陣に変更して逆転を狙った。
チェルシーの2点の起点になったのはリース・ジェームズだった。右サイドバックからのサイドチェンジで相手のブロックを揺さぶり、左サイドで生まれた一瞬の隙を突いている。
結果論だが、ランパードの采配は不可解だった。3バックの右に移ったリース・ジェームズは攻撃に加わることができず。ワイドに開くことを求められたティモ・ヴェルナーとハドソン=オドイは明らかにミスキャストだった。
チェルシーは最終的に同点に追いついたが、タミー・アブラハムのゴールの前ところでハンドを取られてもおかしくないプレーがあった。チェルシーにとっては負けていてもおかしくないゲームだったが、なんとか勝ち点1を持ち帰っている。
ベン・チルウェルのフィットネスが戻れば、マルコス・アロンソのようなミスは起きないだろうか。セネガル代表のエドゥアール・メンディを獲得したことでGKの問題は解決されるだろうか。しかし、問題の原因は個人ではないところにあるように思う。
ボールを保持しようとするが、前に運ぶための方法が拙い。ボールを失うと取り返すことができず、ゴール前に侵入されてしまう。前線はコンビネーションでどうにかなっているが、守備はそうはいかない。3試合で6失点という事実は、決して個人のミスだけの問題ではなく、チームとして問題を抱えていると言わざるを得ない。
(文:加藤健一)
【了】