CL王者バイエルンから先制点!
新シーズンの欧州サッカー界では、圧倒的な強さで昨季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)を制したバイエルン・ミュンヘンをどこが倒すのかが大きな見どころの1つだ。
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ブンデスリーガ開幕戦で対戦したシャルケは0-8で粉砕され、デイビッド・ワグナー監督が窮地に立たされる羽目に。絶対的王者の恐ろしさをまざまざと見せつけられたことだろう。
現地24日に行われたUEFAスーパーカップでは、セビージャがバイエルンに挑んだ。昨季UEFAヨーロッパリーグ(EL)で6度目の優勝を果たしたアンダルシアの雄にとって、スーパーカップは悲願のタイトルでもある。
なぜならCL王者に勝つことで、「真の欧州王者」として認められるからだ。
ハンガリーの首都ブダペストで決行された大一番は、延長戦までもつれる激闘となった。セビージャを率いるフレン・ロペテギ監督が「バイエルンを限界まで追い詰めた」と十分な手応えを語ったのにふさわしい120分間だった。
試合は開始から約10分で大きく動いた。右サイドバックのヘスス・ナバスが攻め上がり、切り返して左足でクロスを上げる。そのボールをゴール前のルーク・デ・ヨングが頭で落とすと、フィニッシュに飛び込んできたイヴァン・ラキティッチがダビド・アラバに倒された。
主審が笛を吹き、PKの判定に。これをルーカス・オカンポスが豪快に決め、セビージャがバイエルンから先制ゴールを奪った。
昨季のCL決勝トーナメントでバイエルンから先制したチームは1つもなかったことを考えれば、セビージャが先にゴールネットを揺らしたことだけでも快挙だ。試合を進めていくにあたって精神的にも優位に立てたかと思われた。
ただ、バイエルンは1つの失点で崩れるようなチームではなかった。セビージャは前線からマンツーマン気味の配置で激しくプレッシャーをかけ、ある程度はうまくいっていたが、徐々に慣れてくるとバイエルンの選手たちは難なくボールを前進させていく。
そして33分、右サイドを短いパスの交換で攻略すると、トーマス・ミュラーがペナルティエリア右角からゴール前に送った絶妙なアウトサイドキックが同点弾の起点になった。ロベルト・レヴァンドフスキが体をひねりながら背後にボールを落とし、中盤からゴール前まで進出してきていたレオン・ゴレツカが押し込んだ。
セビージャのDFたちはレヴァンドフスキの動きにつられて、後ろから攻め上がってくる選手までケアできていなかった。しかも、バイエルンは4人もの選手がペナルティエリア内に入っており、完全に崩されての失点だった。
延長戦までもつれた末に…
やはりCL覇者の力は半端ではない。VAR(ビデオアシスタントレフェリー)の介入によってオフサイドやファウルの判定になり、55分と63分にゴールが取り消されたが、立て続けに2度ゴールネットを揺らした。
後半は常にバイエルンが優勢で、次々にチャンスを作っていく。それでもセビージャはGKボノを中心に懸命に耐え、延長戦に持ち込んだ。ところが、延長前半の104分に再びドイツの絶対王者が勝利を大きく手繰り寄せるゴールを奪う。
ヨシュア・キミッヒが蹴った右コーナーキックは一度クリアされるが、こぼれ球に反応したアラバがアクロバティックなボレーシュートを放つ。これをGKボノがキャッチしきれず、再度こぼれたところを、直前に途中出場したばかりのハビ・マルティネスが頭で押し込んだ。
これが決勝点となり、セビージャはバイエルンに1-2で敗れた。山のようにチャンスを作られ、シュート数が6:25と大きく上回られても、本当にあと一歩のところまで迫った体感があったのではないだろうか。全員が死力を尽くし、両GKの活躍も目立った120分間の激闘だった。
試合終了の笛が鳴った瞬間、1人の選手がピッチに崩れ落ちて大粒の涙を流していた。後半途中から出場していたセビージャのFWユセフ・エン=ネシリである。
彼は今、スペインメディアから厳しい批判に晒されている。なぜなら延長戦にもつれ込むことなくバイエルンに勝てたはずのビッグチャンスを決めきれなかったからだ。
87分、アラバがコーナーキックのこぼれ球を処理しきれず、後ろに逸らしたを見逃さなかったヘスス・ナバスがボールを奪ってカウンターに移る。そして、一気にドリブルで駆け上がってきたキャプテンからのスルーパスを受けたエン=ネシリはGKと1対1の決定機を迎えた。しかし、狙いすまして放ったシュートはバイエルンの守護神マヌエル・ノイアーに反応され、ゴール左に弾き出されてしまった。
決めれば勝利のチャンスを外しても
エン=ネシリは延長前半が始まった直後の92分にも大きなチャンスを外してしまった。左サイドバックのセルヒオ・エスクデロからのスルーパスに抜け出すと、ゴール前で華麗に切り返して追いすがるアラバをかわす。
そして右足で慎重にゴールを狙ったが、今度はノイアーの右足に当てられてしまい、ボールは左のゴールポストに当たる。こぼれ球もいち早くリアクションをとったバイエルンの守護神に処理されてしまった。
サッカーに「たられば」はないが、この2つの決定機のどちらか1つでもゴールになっていれば、全く違う試合結果だっただろう。そのことを誰よりも理解しているからこそ、エン=ネシリは涙を流した。
ただ、この敗戦とチャンスを外したことでチームメイトたちは誰も23歳のモロッコ代表ストライカーを責めなかった。
同じく途中出場だったオリベル・トーレスは「今度エン=ネシリがゴールを決めた時には、今日の彼を受け入れたのと同じようにハグをするよ」と地元メディアに語った。
セビージャの中盤を支えたジョアン・ジョルダンも「エン=ネシリは素晴らしいチームメイトで、出場してきた時には僕たちにたくさんのものを与えてくれる。2つのチャンスがあったが、いずれもGKが非常にうまく処理した。僕たちはみんなで一緒に彼を励ます。今日は眠るのが難しいかもしれないけれど、日曜日には最高の形で試合を始めるために全員の力が必要だからね」とエールを送った。
監督も激怒の超強行日程だが…
ジョルダンの言う通り、「日曜日」にはすぐ試合が組まれており、気落ちしている場合ではない。すぐにでも気持ちを切り替えて、セビージャの面々は次なる戦いに備えなければならないのだ。金曜日にハンガリーからスペインに戻り、27日の日曜日にアウェイでのカディス戦が予定されている。
ロペテギ監督は「これから72時間以内にリーグ戦が行われるため、迅速にチームを再構築する必要がある。本来なら月曜日に試合をやるのが理にかなっているのだろうが、そのことを誰もわかっちゃいない。こんなこと世界中のどこでも起こりえないよ」と嘆く。
シーズン開幕から超ハードスケジュールだが、「我々はそれを受け入れる。我慢するしかないので準備する」と指揮官は気を引き締めた。チーム始動から12日間しかトレーニングしておらず、練習試合も16日のレバンテ戦と19日のアスレティック・ビルバオ戦の2試合しかこなしていない。
ビルバオとは45分を4本という変則的な対戦で、多くの選手が90分近くプレーしたとはいえ、コンディションにばらつきがあるのは否めない。それでも、かなり急ピッチで作ってきたチームで、バイエルンをギリギリまで追い詰められたことは少なからず自信になっているはずだ。
そしてロペテギ監督は「彼は悲しかっただろうが、まだ若いし、これからも成長し続けていくのは間違いない。サッカーで見返してくれるだろう」と、エン=ネシリに奮起を促した。
今季のセビージャはセルヒオ・レギロンやエベル・バネガといった主力級を失っているが、ラキティッチの加入などもあって充実した戦力を有する。プレシーズンマッチやバイエルン戦を見ている限りでも、昨季のベースは維持されていて、すでに完成度の高い充実ぶりがうかがえた。
オリベル・トーレスも「バイエルンはすごく高い山だとわかっていたけれど、征服したかった。僕たちも非常に高いレベルにあり、素晴らしいチームが限界まで押し上げられたのは良かったと思う。このチームの熱意とキャラクターは本当に素晴らしい」と、UEFAスーパーカップで自信をつかんだようだ。
直近のカディス戦も含め、今後は厳しい過密日程が待っている。総力戦の中でエン=ネシリをはじめとした若い選手の台頭も期待できるだろう。「バイエルンを限界まで追い詰めた」セビージャが、レアル・マドリードやバルセロナを脅かす存在になれば、ラ・リーガはもっと面白くなる。
(文:舩木渉)
【了】