苦しい台所事情が生んだ安定感
ペップ・グアルディオラにとって、5年目は未知の領域だ。バルセロナでは4年、バイエルン・ミュンヘンでは3年で任期を終えている。グアルディオラは3年、4年を1つのサイクルと捉えており、そのサイクルで取れる限りのタイトル獲得にすべてを捧げてきた。
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昨シーズンのパフォーマンスを見る限り、マンチェスター・シティでも4年間で1つのサイクルを終えたようにも見えた。しかし、グアルディオラは今季の続投を決意。本人は今季限りで切れる予定の契約を延長することに意欲を示しているとも報じられている。
シティは8月にUEFAチャンピオンズリーグを戦った影響で1週間遅れて初戦を迎えた。相手は昨季ダブル(2勝)を許したウォルバーハンプトン。シティは多くの負傷者を抱えており、トップリーグ未経験の4人の若手をベンチに入れざるを得ない状況だった。
シティは4バックの前にロドリとフェルナンジーニョを並べた。昨季もビッグマッチなどで使うことが多かった布陣だが、今回はそうせざるを得ない状況だった。ベンチに入っているフィールドプレーヤーはアカデミーの選手を除くと、加入したばかりのフェラン・トーレスと、隔離期間を終えたばかりのリヤド・マフレズ、そしてセンターバックのニコラス・オタメンディだけ。先発で起用できる11人はおそらく誰が選んでも同じで、その中でベターな布陣を導いただけだった。
しかし、この急造の布陣は「災いを転じて福と為す」となった。この日のシティは攻守に安定感があり、相手陣内に押し込むことに成功した。2人の守備的MFは役割をうまく分担しており、ボールを失った際も素早く回収してカウンターを許さなかった。
お家芸のハーフスペース攻略
いい守備からいい攻撃は生まれる。5-3-2で守るウルブズは両ウイングバックが高い位置までプレスをかけず、3人の中盤がスライドして対応していた。1点目につながるPKを獲得したシーンは、右ウイングのフィル・フォーデンが起点となった。中盤のペドロ・ネトのスライドが間に合わず、ウイングバックのルベン・ヴィナーグレが対応。ヴィナーグレが空けたスペースにケビン・デブライネが走り込み、ロマン・サイスに倒されてPKを獲得した。
2点目も起点になったのはフォーデン。右センターバックのウィリー・ボリーがデブライネに対応したことでスペースが生まれた。そこに走り込んだラヒーム・スターリングに決定的なスルーパスが通っている。形は違うが、ハーフスペースを攻略するのはシティのお家芸でもある。5バックをつり出してハーフスペースにボールを入れるという共通認識はしっかりと共有されていたように見えた。
前半に2点をリードしたにもかかわらず、プレーに余裕が見えなかったのは、前回対戦の記憶があるからだろう。昨年末の対戦では2点を先行しながら、エデルソンの退場により1人少なくなったシティは後半に3点を失って敗れている。
ウルブズは50分に3-4-2-1に布陣を変更したところで流れを掴みかけている。右ウイングバックのアダマ・トラオレと右のシャドーに回ったネトのコンビでサイドを崩し、立て続けにチャンスを作った。しかし、ルベン・ネベスのミドルシュートはヒットせず、ダニエル・ポデンセはGKとの1対1でループシュートをゴールに収められず、ラウル・ヒメネスのシュートはポストのわずか左を通過。78分にセットプレーの流れから1点を返したが、同点に追いつくためには時間が足りなかった。
ペップ・シティは次なるフェーズへ
エリック・ガルシアは昨季終盤の怪我から復帰間近だが、バルセロナ移籍が近づいている。セルヒオ・アグエロの復帰はまだ遠く、ベルナルド・シウバ、オレクサンドル・ジンチェンコ、ジョアン・カンセロは4週間後のインターナショナルウィーク明けの復帰を目指している。新型コロナウイルスの陽性反応が出たエメリック・ラポルトは復帰間近だが、イルカイ・ギュンドアンは早くても10月3日のリーズ戦まで出場ができないという状況だ。
多くの故障者を抱えるこの状況で、ウルブズという難敵を相手に勝ち点3を取れたことの価値は大きい。3日後にはボーンマスとのリーグカップを戦うが、指揮官はアカデミーの選手たちを多く起用することを明言している。この試合で新天地デビューを飾ったフェラン・トーレスにもプレー時間が与えられることになるだろう。
悪いニュースばかりではない。この試合では新加入のナタン・アケがラポルトに代わって左センターバックで先発し、上々のデビューを飾った。20歳のフォーデンは2得点の起点になる活躍で、デブライネとともに攻撃を司っていた。彼らの活躍は序盤戦の浮沈を左右するだろう。
「まだプレミアリーグは111ポイントも残っている」
試合後にグアルディオラがそう語る通り、プレミアリーグのシーズンは長い。そして、故障者の復帰を待つことなく時計の針は進み続ける。未知の5年目は逆境の中でのスタートとなったが、これを切り抜けたときペップ・シティは次なるフェーズへと突入するのかもしれない。
(文:加藤健一)
【了】