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岡崎慎司はノーゴールでも信頼ガッチリ。全日本人FWのお手本、極上の駆け引きと献身を見逃すな

現地20日にラ・リーガ1部の第20節が行われ、ウエスカはカディスに0-2で敗れた。ホーム開幕戦となった重要な一戦で、ウエスカの日本代表FW岡崎慎司は2試合連続の先発出場を果たした。シュートシーンはなく、1部初ゴールもまだだが、彼のプレーには日本のすべてのFWが参考にすべき、トップレベルで信頼される理由が詰まっていた。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

ラ・リーガ1部初ゴールと初勝利はまだだが…

岡崎慎司
【写真:Getty Images】

 ウエスカと岡崎慎司にとっての今季初勝利は、またもおあずけとなった。

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 現地20日に行われたラ・リーガ1部の第2節で、ウエスカは同じ昇格組のカディスに0-2で敗れ、ホーム開幕戦を落としている。

 開始10分でアルバロ・ネグレドがカディスの今季初ゴールを決め、83分にホルヘ・ポンポが自身の1部初ゴールで追加点。いずれもロングカウンターからゴールネットを揺らされ、カディスに14年ぶりとなる1部リーグでの勝利をプレゼントしてしまった。

 ウエスカにとって昇格組対決を落としてしまったのは痛いが、自分たちのプレースタイルを1部リーグでも発揮できることを示せた収穫もあっただろう。決して自陣に引きこもって守備的に戦うのではなく、ボールを大事にしてしっかりパスをつなぐ戦い方は、いい意味で昇格組らしくない。

 その中で、岡崎慎司が2試合連続で先発起用された。ラ・リーガ1部での初ゴールはまだ決まらないものの、前線での存在感は抜群。ノーゴールでも信頼される理由が、プレーの随所に散りばめられていた。

 秀逸だったのは21分のプレーだ。カディスのディフェンスラインが揃わず、2人のセンターバックの間に段差ができたと見るや、岡崎は中央から左サイドに流れるようにスペースへ走り込んでいく。

 そこに同サイドの味方からロングパスが入ると、岡崎はペナルティエリア左角でゴールに背を向けながらボールを収め、反転して少し引きながらキープ。そして、攻め上がってきた味方に短いパスを通し、ゴール前へのクロスにつなげた。

 相手ディフェンスにクリアされてしまいシュートには至らなかったが、岡崎のサイドに流れるオフ・ザ・ボールの動きと、キープの判断が味方の動く時間を生み出した。たった数秒ではある。

 それでも前線の日本代表FWが時間を作ることでチーム全体を押し上げることができ、クロスが上がる瞬間にはペナルティエリア内に2人、ペナルティエリアのすぐ外のこぼれ球を狙える位置に2人と、多くの選手がゴール前に顔を出せていた。

 同じようなシーンは何度もあった。65分には右サイドで似たような動き出しとキープを見せた。両チームともシュートが少ない試合展開だったとはいえ、クロスやラストパスといったフィニッシュの1つ前のプレーの多くに岡崎が関与していた。

チームのためにが真骨頂

 常に相手の選手と選手の間のスペースに立ってディフェンスラインと駆け引きし、少しでも隙間を作るとそこに侵入を試みる。26分15秒前後のプレーで見せたように、時には少しポジションを下げて、MFとDFの2本のラインの間にできるスペースでパスを引き出して前を向く。

 一方で、DFと体をぶつけながらゴールを背にしてボールを受けることは苦手なため、屈強な相手センターバックの土俵で真っ向勝負になるような状況はなるべく避けている。もしDFを背負った状態でパスが出てきたら、1タッチや2タッチでシンプルに味方につなぐ。自分の立ち位置と周辺の状況把握、そして的確なプレーを選ぶ迅速な判断が光った。

 こうした守る側が嫌がることをやり続けられる能力は、一朝一夕で身につけたものではない。長年かけて培ってきた感覚や経験があってこその判断の連続で、相手DFにとっては厄介なストライカーなはずだ。

 味方のためにスペースや時間を作り出す技術は、岡崎の真骨頂をも言えるもの。カディス戦ではシュートを1本も打てなかったが、それでも存在感を発揮できるのはさすがだった。

 そして、守備面での貢献も見逃せない。岡崎はボールがウエスカのコントロール下を離れた瞬間、誰よりも早く「攻」から「守」へと切り替えて動き出す。猛スプリントで相手のボールホルダーにプレッシャーをかけ、一度かわされても、二度、三度と追い回す。これを90分間と前後半アディショナルタイムを通じてやり続けることができる。

 味方にとって、前線のFWがこれほど献身的に守備に走ってくれることは心強いはずだ。やはりゴール前での仕事が第一になるストライカーは、守備になるとほとんど走らず、ボールにプレッシャーもかけず、前に残っていることも多い。

 もし順位表の上半分に入るようなクラブであれば、ストライカーは何よりもゴールの数で評価されるだろうし、ゴール前でいかに結果を残せるかにフォーカスしたプレーをするだろう。しかし、ウエスカのような1部残留が目標のクラブでは、組織の一部としてチームスピリットを発揮できることも重要な貢献手段になりうる。

何気ない駆け引きから読み取れるもの

岡崎慎司
【写真:Getty Images】

 まだノーゴールでも、34歳になっても、献身性こそ岡崎がラ・リーガ1部のクラブでレギュラーポジションを獲得できている理由でもあるだろう。世界トップクラスのリーグで彼が試合に出続けていることの価値はとてつもなく大きい。

 そして、昇格組でもボールを丁寧につなぐ志向の強いウエスカは、岡崎にとって理想的な職場とも言える。もし1部残留のために自陣に引きこもって守備を固め、攻撃はカウンター狙い一辺倒というチームだったら、持ち味は半分も活かせないはずだ。苦手とするDFを背負ってのプレーも増えるだろう。

 ラ・リーガ1部での初ゴールは近い。80分の絶妙な動き出しを見れば、希望を感じずにはいられなかった。この基礎的な要素と高度な技術が融合した岡崎のプレーは、すべての日本人ストライカーにとってお手本になる。

 相手センターバック2人の間にポジションを取っていた岡崎は、味方選手が自陣中央から前向きにボールを運び始めた瞬間にアクションを起こした。右センターバックの背後に回るよう、引きながら円を描くようにステップを踏み、DFの視野の外に出た。

 そしてカディスの右センターバックが自分のことを見失ったとみるや、一気にギアを上げて背後から飛び出してボールを呼び込む。ただ、タイミングが合わずオフサイドになると気づくと、そこで再び動きを変えて、一瞬止まるようにしてスルーパスを促した。

 最終的にはオフサイドの判定になったものの、右サイドでフリーになってパスを受け、自らドリブルでペナルティエリア内に切り込んでいく姿勢も見せた。DFとの駆け引きと絶妙なステップワーク、動きの豊富なバリエーション、一瞬でプレーのキャンセルと変更ができる判断の速度や精度など、ストライカーに必要なものがたくさん詰まった極上のワンプレーだ。チームメイトとのタイミングが合いさえすれば、もっとシュートチャンスは増え、ゴールも決まるだろう。

 泥臭さと巧の技術を兼ね備えた円熟のストライカーが、ミチェル監督からの信頼を確立しているのは間違いない。ラ・リーガ1部で1トップのレギュラーとして起用されていることが、何よりの証だ。岡崎ならウエスカでもっと輝けると、信じて疑わない。

(文:舩木渉)

【了】

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