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チアゴ投入が効果絶大。リバプールの勝因とチェルシーの失敗とは…

プレミアリーグ第2節、チェルシー対リバプールが現地時間20日に行われ、0-2でリバプ―ルが勝利を収めている。前半はほぼ互角の戦いが繰り広げられたが、前半終了間際に退場者を出したチェルシーのディフェンスが崩れた。バイエルン・ミュンヘンから加入したばかりのチアゴ・アルカンタラは後半開始とともにピッチに登場。ハーフタイムにおける両チームの動きが、試合の結果へとつながっている。(文:加藤健一)

text by 加藤健一 photo by Getty Images

プランを変えなかったチェルシー

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【写真:Getty Images】

 退場で1人少なくなったチームが、意外といいサッカーを見せて勝ってしまうことがある。それも、ごく稀にではなく、それなりの頻度で起こる。

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 しかし、チェルシーはうまく事を運ぶことができなかった。前半終了間際にアンドレアス・クリステンセンが退場となり、後半早々に2失点を喫して敗れている。

 ハーフタイムの対応が勝負を分けたと言っていいだろう。チェルシーは3トップの中央で起用されたカイ・ハフェルツを下げ、クリステンセンがいなくなったセンターバックにフィカヨ・トモリを入れた。中盤の構成を変えず、ウイングで先発したティモ・ヴェルナーとメイソン・マウントを最前線に残す4-3-2の形で後半に臨んでいる。

 チェルシーは開幕戦の4-4-2ではなく、4-3-3を採用した。ジョルジーニョ、エンゴロ・カンテ、マテオ・コバチッチを同時起用して中盤を厚くし、GKを交えて最終ラインから勇気を持ってボールを繋いだ。前半のボール支配率は46%とほぼ互角で、リバプールにもそう多くのチャンスを作らせていない。前半の戦いはフランク・ランパード監督の狙い通りだったと言っていい。

 開幕戦でセンターフォワードとして起用されたヴェルナーは左ウイングでプレーしている。ジョー・ゴメスとジョエル・マティプがフィジカルの問題で先発を外れたリバプールは、フィルジル・ファン・ダイクとファビーニョがセンターバックを務めた。ゴメスに比べるとスピードで劣るファビーニョの脇、高い位置を取るトレント・アレクサンダー=アーノルドの裏のスペースにヴェルナーは攻め残り、カウンターの起点になっていた。

ハーフタイムに動いたリバプール

 スペースさえ埋めてしまえば、1人少なくなったとしても大崩れすることは少ない。自陣にブロックを築き、少ない人数でカウンターを仕掛ける。攻守を分断させてしまった方が全体の数的不利の影響は出にくい。この試合で言えば、ヴェルナーを前線に残す4-4-1になるだろうか。

 しかし、チェルシーは後半もマンツーマン気味にリバプールに対峙した。当然、マンツーマンで対応すれば誰かは空く。力が劣る相手であれば個人能力でなんとかなる場合もあるが、相手はリバプール。後半のリバプールはボールを素早く動かし、チェルシーの2トップのプレスバックが遅れたところでサイドバックをつり出し、空いたハーフスペースを突いてゴールに迫った。2得点はサイドバックとセンターバックの間にロベルト・フィルミーノが入り込んだところから生まれている。

 ランパード監督が動いたのは56分。4-4-1にシステムを変えたとき、スコアはすでに0-2になっていた。

 プランを変えなかったチェルシーとは反対に、リバプールはハーフタイムに動いている。アンカーで先発したジョーダン・ヘンダーソンを下げ、チアゴ・アルカンタラを投入。バイエルン・ミュンヘンから加入したばかりのチアゴは早速デビューを飾った。

 ヘンダーソンは太ももに軽い張りがあったというが、プレーできる状態ではあったという。しかし、開幕直後で無理をする状況ではなく、交代を決断した。前半の戦いを継続するのであれば、ジェームズ・ミルナーを入れてジョルジニオ・ワイナルドゥムをアンカーに回すこともできたが、ユルゲン・クロップ監督は「前半とは違うゲームになる」と考え、チアゴを投入している。

 中盤の底に入ったチアゴはボールを両サイドに散らした。相手のサイドバックと3人の中盤を横にスライドしてスペースを作る狙いは明確だった。チアゴは45分間で75本のパスを成功させ、そのうち10本のロングボールを味方に通した。サイドバックをつり出すために、チアゴの投入は効果絶大だった。

 前半終了間際に発生した不測の事態に対し、プラン変更を最小限に抑えたチェルシーと、積極的に動いたリバプール。対照的だった両者の対応が、結果につながった。采配に正解はないが、演繹的に考えればそれに近い策は導くことができる。しかし、理想はその現実と相反するときが少なくない。試合前に描いていた理想を捨てきれなかったチェルシーと、ハーフタイムで対応したリバプールのチームとしての完成度の差が表れた試合だった。

チアゴが生み出す新たな形

 先日引退した元日本代表は、ボールを受けたときにまず、一番遠い選手を探すという。先日大怪我から復帰した元日本代表も同じことを言っていたことがある。チアゴのプレーはまさにそれで、遠くのフリーの選手を見つけ、逆サイドのサイドバックやウイングにポンポンとパスを通していた。

 しかし、攻撃の起点となる縦パスはあまりなかった。狭い局面を打開するようなピンポイントのパスは、ポジショニングを少しでも間違えばカウンターのピンチになる。味方との連係がまだないこの試合ではあえてリスクを冒す必要もなかった。これもチアゴの経験と技術があれば、時間の経過が解決してくれるだろう。

 加えて、ヴェルナーを倒してPKを献上するなど、守備の部分ではまだ改善の余地がある。フィジカルでどうにかできる選手ではなく、ポジショニングがチアゴの生命線だ。まだほとんど練習に参加していない状況でどうにかできるものではなかった。チアゴのパフォーマンスは手放しで賞賛できるほどのものではなかった。

 リバプールは開幕早々に2人のセンターバックを欠く状況となり、ファビーニョがセンターバックでプレーした。昨季もクラブワールドカップでヘンダーソンがコンバートされたが、デヤン・ロブレンが移籍した今季はファビーニョが最終ラインでプレーする機会が増えることになりそうだ。そこで、チアゴがアンカーに収まれば、攻撃の質が落ちることはない。この日のチアゴのパフォーマンスは、今季の新たな形を見出した試合となった。

(文:加藤健一)

【了】

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