フラム戦は完璧だったが…
プレミアリーグ第1節、フラム戦でみせたパフォーマンスは、グーナーに大きな希望を与えた。相手が昇格組で力の劣るチームだったとはいえ、攻守両面で圧倒し、3-0と快勝を収めたからだ。
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また、その試合ではウィリアンとガブリエウ・マガリャンイスという二人の新戦力が大いに躍動。レンタルから戻ってきたモハメド・エルネニーもサプライズ的な活躍をみせるなど、選手個々の状態も非常に良さそうな印象を受けた。
しかし、プレミアリーグ第2節のウェストハム戦。アーセナルにとってのホーム一発目となったこの試合は、前節のフラム戦とは異なり、かなりの苦戦を強いられることになった。
3-4-3で挑んだアーセナルは立ち上がり、戦前の予想通りボールを保持する時間を長く作っている。ビルドアップ時は4バックとなり、ウイングバックが内側に絞ってウイングが外に張る。この形に、前節のフラム戦から大きな変化はなかった。
しかし、フラムとウェストハムが大きく違ったのは守備時のアクションだ。昇格組の前者は勇気を出して前から来たが、後者は5-4-1のブロックを形成。縦の各レーンを的確に埋め、アーセナルのビルドアップを消しにかかった。
とくに、パスの出どころとなるグラニト・ジャカに対するアプローチは素早く、同選手はボールを捌けても横、あるいは後ろという場面が立ち上がりから目立っている。こうなると、当然ボールも人も前進できない。ウェストハムを崩し切るのは、かなり難しかった。
それでも、25分に先制弾を奪った。内側に絞っていたブカヨ・サカがうまくパスを引き出し、縦に展開。最後はクロスをアレクサンドル・ラカゼットが仕留める、見事な崩しであった。
アーセナルにとっては、これがこの試合のファーストシュート。少ないチャンスをモノにしたこの1点の重みは、特別なものがあったと言えるだろう。ただ、ここに至るまで25分もの時間を費やしたあたりに、その苦戦ぶりが表れているとも言えた。
終盤の得点で何とか勝利
1点リードのまま前半を終えたかったアーセナルだが、終了間際に一瞬の隙を突かれて左サイドを突破されると、最後はミカエル・アントニオに同点弾を献上。スコアを振り出しに戻され、ハーフタイムを迎えることになった。
そして後半、アーセナルは前半よりもさらに厳しい戦いを強いられることになる。
立ち上がりこそ敵陣深い位置まで侵入できていたホームチームだが、段々と攻撃のリズムが単調になり、ペースはウェストハムへ。そこからなかなか流れに逆らえない時間が続いた。
ウェストハムはボールを奪うとすぐに縦へ展開。アントニオ、トマシュ・ソーチェク、デクラン・ライスと体躯に恵まれた選手が多く揃う同チームは、サイドからシンプルなクロスを送り込んで逆転を狙った。
52分にはアルトゥール・マスアクのクロスにアントニオが飛び込むと、65分にも左サイドのクロスにソーチェクが合わせてチャンスを作っている。GKベルント・レノのセーブがなければ、というシーンだった。デイビッド・モイーズ監督率いるチームの攻めは非常にシンプルだったが、アーセナルにとってはこれがかなり厄介だったと言える。
押し込まれたアーセナルは、必然的に攻撃の開始位置が低くなってしまった。前線の選手も疲労の影響か動きが止まり、ボールがなかなか前に進まない。中盤でパスの出しどころを探っている間に、ライスやソーチェクのプレッシャーに遭ってボールを失うシーンも何度かあった。
それでも耐えたアーセナルは、終盤に勝ち越し。サカのパスに抜け出したダニ・セバージョスの折り返しを最後は途中出場のエディ・エンケティアが流し込んだ。
試合はこのまま2-1で終了。アーセナルが連勝スタート、一方のウェストハムは連敗スタートとなった。
ティアニーの重要性
データサイト『Who Scored』によると、この日のアーセナルは支配率62%を記録。しかし、シュート数はわずか7本で、枠内シュートに関してはたったの2本。一方で被シュート数は14本となっているなど、内容はとてもじゃないが褒められたものではなかった。
とくにこの日は、ビルドアップで苦労した印象が強かった。前から果敢にプレスに来るのではなく、5-4-1のブロックを形成するウェストハムを剥がすのは容易ではなく、“持たされている”時間が長かったのが事実。ハーフスペースを突いたサカのアクションは見事だったが、その他にポジティブな部分はなかなか見出せなかった。
また、キーラン・ティアニーの不在もかなり響いたと言えるだろう。ウェストハム戦ではセアド・コラシナツが3バックの一角に入ったが、やはり「質」には大きな違いが存在した。
先述した通り、アーセナルの左センターバックはビルドアップ時、サイドに大きく開いてボールの逃げ道を作る。WBは内側に絞り、WGは外に開く。ここにジャカもうまく絡むことで、瞬間的な数的優位を作り出してボールを前進させることができる。フラム戦も、このような形から相手を押し込んだ。
ここで重要となるのは、やはり外に開いた3CB左の選手。ボールの逃げ道になるだけでなく、攻撃の起点にもなるからだ。普段ならティアニーが務めているが、彼はボールの扱いに長けているし、何よりキック精度が高い。味方の動きに対してしっかりとパスを当てられる準備の良さと視野の広さ、強弱もハッキリしている。
コラシナツもパスが下手というわけではない。しかし、ティアニーの役割に重ねてしまうとどうしても質は落ちる。ピエール=エメリク・オーバメヤンへの縦パスがズレたり、横パスもズレたりと…。やはりコラシナツは、強靭なフィジカルを活かすゴリゴリな突破力が魅力的な選手だ。
しかし、3バックの一角に入るとどうしてもそうした特徴は発揮しづらくなる。無暗に飛び出しても守備時のリスクが大きいし、サイドに開いているオーバメヤンのエリアを消してしまうデメリットもある。コラシナツを使うなら、やはりWBが最適。ティアニーと同じ型にはハマらない。
ティアニー不在時のオプションの変化は、今後のアーセナルの課題になるかもしれない。それほど、ウェストハム戦ではスコットランド代表DFの重要性の大きさというものが表れていた。
しかし、今は結果こそが重要。そういった意味で、苦戦を強いられながら手に入れたウェストハム戦の勝ち点3は、勝ち点3以上の価値があると言えるだろう。課題は確かにみつかったが、チームとしては良い雰囲気のまま、次節のリバプール戦に挑めるはずだ。
(文:小澤祐作)
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【了】