6年ぶりのプレミア開幕敗戦
今季も先行きは暗そうだ。
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マンチェスター・ユナイテッドは現地19日に行われたプレミアリーグ第2節で、クリスタル・パレスに1-3で屈した。
すでに先週から始まっていたプレミアリーグだが、ユナイテッドにとってはこの試合が今季最初の公式戦だった。開幕戦を落とすのは6年ぶり、ルイ・ファン・ハール監督が初采配だった2014/15シーズン以来の屈辱だった。
しかも、昨季に続いて本拠地オールド・トラフォードでクリスタル・パレスに連敗。今のユナイテッドのチーム状況を象徴するような敗戦になってしまった。
新加入のドニー・ファン・デ・ベークがデビュー戦でゴールを奪ったものの、偶然に近い形で、他にポジティブな要素は1つも見られない。相手に理想的な展開で勝ち点3を奪われた。
ロイ・ホジソン監督率いるクリスタル・パレスの戦略は明確だった。試合開始とともに勢いよく攻め込んで相手ゴールに襲いかかり、先制できればゴール前の守りを固め、カウンターで追加点を狙う。
まさにこの通りの試合運びで、昨季は38試合で31得点と深刻な攻撃力不足に悩んだチームが、3度もゴールネットを揺らしたのだった。
最初のゴールは開始7分で生まれた。クリスタル・パレスは左サイドバックのタイリーク・ミッチェルが浮き球のパスを左サイドの深い位置に落とすと、そこにジェフリー・シュラップが走り込む。
かつてレスターの一員としてプレミア制覇の経験もある左サイドのハードワーカーは、ユナイテッドのDFビクトル・リンデレフを振り切って折り返し、逆サイドから詰めたアンドロス・タウンゼントがシュートを突き刺した。
自陣からのシンプルな速攻で崩し切った貴重な先制点は、クリスタル・パレスの選手たちに自信を与え、ユナイテッドの選手たちには重荷を与えた。
昨季は冬に加入したブルーノ・フェルナンデスが全てを変え、ユナイテッドは後半戦に怒涛の追い上げを見せて3位フィニッシュを果たしていた。しかし、このポルトガル代表だけで何もかもが改善されるわけではない。
むしろ抱えていた不安要素が一時的に取り除かれただけであって、1人の力で全てを解決することはできないのだ。それがチームスポーツとしてのサッカーの難しさであり、まさにユナイテッドが直面している深刻な問題である。
相手の狙い通りの展開になり…
改めて浮き彫りになったのは、オーレ・グンナー・スールシャール監督が、自陣に引きこもって守備を固める相手を攻略するためのアイディアを持っていないことだった。
中央のスペースをことごとく消されたユナイテッドは、ボールを長い時間握っていても危険なエリアにパスを通せず。フィニッシュまで持ち込んでも、ペナルティエリア外からのミドルシュートばかりで、相手GKビセンテ・グアイタを脅かす場面はほとんどなかった。
一方、クリスタル・パレスは冷静だった。しっかりとユナイテッドの攻撃に耐えてボールを奪うと、すぐさま前線のジョルダン・アイェウかウィルフレード・ザハにパスを預け、最小人数でリスクをかけずカウンターに出ていく。あわよくば追加点という狙いはハッキリと見えた。
ところがユナイテッドは、この戦術に大苦戦を強いられる。パワーとスピードを兼ね備える相手の2トップへの対応に手間取り、狙い通りのカウンターから何度も決定機を作られた。不用意なパスミスも多く、それも相手に勢いを与える要因になった。
センターバックがボールを持っても、ザハとアイェウに中盤へのパスコースを塞がれ、思うように攻撃を組み立てられない。ボールを失えばカウンターを食らい、ピンチを迎える。前半から悪循環にハマっていた。
クリスタル・パレスは前半アディショナルタイムには2トップだけでカウンターを完結させる。ザハが持ち前の力強さを生かして粘り、左に走った相棒に展開。アイェウの至近距離からのシュートはGKダビド・デ・ヘアが鋭い反応で弾き出したものの、悪い印象を残す決定機だった。
後半開始からスールシャール監督は18歳の若手FWメイソン・グリーンウッドを送り出したが、それでもあまり流れは変わらない。ブルーノ・フェルナンデスも広範囲に動き回ってボールを引き出そうとするが、相手の守備ブロックの外に押し出される格好になって効果的な攻撃にはつながらない。
それでもクリスタル・パレスの重心は下がっていき、ユナイテッドがボールを握ってチャンスをうかがう時間が続いた。
しかし、またもカウンターが失点につながってしまう。69分にクリスタル・パレスがハーフウェーライン付近から攻撃に移ると、ペナルティエリア内まで侵入してアイェウがつま先でシュートを放つ。一度は流されたが、この場面でリンデレフにハンドがあったことをVAR(ビデオアシスタントレフェリー)に見抜かれ、クリスタル・パレスにPKが与えられた。
アイェウのPKはデ・ヘアが止めたものの、再びVARがGKの両足がキックの瞬間よりも前にゴールラインから離れていたことを見逃さず、蹴り直しに。キッカーが替わって、2度目はザハがしっかりと沈める。クリスタル・パレスのリードは2点に広がった。
再考すべきリンデレフとポグバの起用
81分に途中出場のファン・デ・ベークが一矢報いたものの、85分に3失点目を喫して万事休す。ユナイテッドは自分たちが見切りをつけて放り出したはずのザハに、2点を奪われる悲しい結末となった。
チームの始動が遅れ、プレシーズンマッチは一度しか行えず、選手それぞれの状態にもバラつきがあったのは否めない。それでもコンディション不良を敗戦の言い訳にはできないだろう。
クリスタル・パレスのように引いた相手を崩すアイディアを示せなかったスールシャール監督にも非はあるが、選手たちにも責任はある。
あえて1人だけ挙げるとすれば、3失点全てに絡んだリンデレフの起用は再考すべきだろう。開始7分の1失点目の場面ではシュラップに簡単に振り切られ、PKを与える直前にはタウンゼントに股を抜かれた。ハンドは偶然に近いとはいえアイェウへの対応が遅れたのも無視できない判断ミスと言える。
そして極めつけは3失点目の場面。あまりにも軽はずみな飛び込みで、あっさりとザハに反転を許してしまった。スピードやアジリティの不足を露呈したうえ、センターバックとしてこれほどの対人プレーの軽さは致命的。ビルドアップ能力の高さは大きな武器だが、今のユナイテッドにふさわしい選手かどうかは疑問が残る。
ダニエル・ジェームズも相変わらず不甲斐ないプレーに終始し、ポール・ポグバにも覇気がなかった。後者に関しては今月初旬の国際Aマッチウィーク中に新型コロナウィルスへの感染が判明し、コンディションが万全でないとしても、クリスタル・パレスでの存在感は希薄だった。前半にボールを触ったのは28回だけというデータも、彼の印象を裏づける。
ディフェンスラインからパスを引き出すための動きは乏しく、ボールを持てば球離れが悪く、攻守の切り替えの遅さもチームに悪影響を与えていた。相手へのプレスは軽く、かわされたらゆっくり戻るだけ。もっと味方のために走り、戦って、献身的な姿勢を見せる必要がある。それができないのなら、スタンドに座って試合を見ているべきだ。
敗戦濃厚になった終盤、中継のカメラがエド・ウッドワードCEOの表情をクローズアップしたのは、ユナイテッドの今季が厳しい戦いになることを暗示しているようだった。さらなる補強やチーム作りの方向性見直しも必要だろう。
元キャプテンも嘆くユナイテッドの惨状
英『スカイ・スポーツ』の解説者を務めるユナイテッドOBのガリー・ネヴィル氏は「しっかり走れて、1対1でも守れるセンターバックを手に入れるまで、ユナイテッドは絶対に優勝できない。このセンターバックの組み合わせでプレミアリーグを勝ち取ることは絶対にできないだろう。リンデレフかマグワイアのどちらかと組む、機動力があって支配的なセンターバックの獲得が必要だ」と苦言を呈す。そして本拠地の特性に触れながら、次のようにも述べる。
「オールド・トラフォードのピッチは大きく、特にサイドバックが前に出るのでれば、センターバックは1対1の状況に晒される。何年にもわたって、ユナイテッドのセンターバックコンビのどちらかには、ヤープ・スタムやリオ・ファーディナンド、ガリー・パリスターのような非常に速い選手がいた。彼らは光のような速さでカバーに入り、危険を排除した。リンデレフやマグワイアにそういった能力はない」
サー・アレックス・ファーガソン政権下での黄金期を知る元キャプテンは「補強がなければユナイテッドは他のクラブとの差を埋められない。チェルシーやリバプールは行動に移した。そして彼らはさらに強くなっているんだ」と、すっかり弱体化した古巣の現状を嘆いた。
昨季終盤は11人のスタメンをある程度固定できていたことも、巻き返しの要因だった。ファーストユニットはリーグ屈指だとしても、今のままではリバプールやマンチェスター・シティと互角に組み合うのは難しいだろう。おそらく実力で劣る下位クラブ相手にも苦戦を強いられる。
クリスタル・パレスに敗れたことで、ユナイテッドの将来は一層見通しが悪くなってしまった。
(文:舩木渉)
【了】