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長友佑都は歌も踊りもキレキレ。マルセイユに何をもたらすか、現地での期待が大きいその理由

日本代表DFの長友佑都が今夏、マルセイユに加入することが決まった。34歳で初のフランス挑戦となるが、欧州でのプレー経験豊富なことから、現地での期待感も高いようだ。デビュー戦も思ったより早く訪れることになりそうだが、果たして長友はマルセイユというクラブに何をもたらすのだろうか。(文:小川由紀子【フランス】)

text by 小川由紀子 photo by Getty Images

歴史的一戦に日本人選手2人が絡む

マルセイユ
【写真:Getty Images】

 9月13日に行われたリーグ・アン第3節のパリ・サンジェルマン(PSG)対マルセイユは、フロリアン・トーバンが31分に決めたゴールを守ってマルセイユが0-1で勝利した。

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 マルセイユがPSGを破ったのは2010/11シーズン以来。パルク・デ・プランスでは、2010年2月以来と、10年ぶりの白星だ。

 その記念すべき一戦、しかも勝者側に、日本代表の2人が絡んでいたというのもすごい。

 右サイドバックでフル出場した酒井宏樹は、マッチアップしたネイマールを存分に苦しめた。そして、8月31日に入団した長友佑都は、ベンチから仲間たちの奮闘を見守った。前日12日に34歳の誕生日を迎えた長友にとって、この勝利は格好のプレゼントになったことだろう。

 長友については、試合2日前の会見の席で、アンドレ・ビラス・ボアス監督が「PSG戦では先発出場はない」、と明言していた。

「約6ヶ月間、実戦から離れていた。トレーニングは順調だが、筋肉に少し張りがあった。メディカルチームが対処してくれたのでそちらは問題ないが、もう少し時間が必要だ」。

 しかしチームにはすっかり馴染んでいて、「アルバロ・ゴンサレスやダリオ・ベネデットとよく冗談を言って笑いあっているよ」と明かした指揮官。

“bizutage”と呼ばれる、新入り選手がみんなの前で一曲披露する恒例の儀式でも、長友はイスに上ってキレキレで歌って踊ってチームメイトたちから大喝采を浴びていた。さすがはコミュニケーションの達人だ。

「長友は年齢以上に…」

 現地では、「実際に長友のプレーを見てみたい」という意見が多い。

 欧州でのキャリアが長く、インテルやガラタサライでチャンピオンズリーグ(CL)にも出場していたから、長友がどのようなプレーヤーかはサッカーファンならだいたいが知っているが、いまのマルセイユのチームにどうフィットするか、何をもたらしてくれるのかに期待しているのだ。

 マルセイユの地元紙『ラ・マルセイエーズ』紙のミシェル・ガロシオ記者もその一人。

「ナガトモを獲得したニュースには驚いた。しかしチャンピオンズリーグに参戦するには、ジョルダン・アマビだけでは足りないのは明白。この大会での経験が豊富なベテランの獲得は、理にかなった良いチョイスだ」。

 長友とポジションを競うアマビは、アストン・ビラで2シーズンプレーした後、2017年夏にマルセイユに入団した。当時23歳と伸び盛りで、その年の10月にはフランスA代表に招集されるなど期待の星だった。

 しかし怪我がちでパフォーマンスにも波があり、「計算できない戦力」という印象とともにもうひとつ伸び悩んでいる。前任者のルディ・ガルシア監督は、彼をベンチに座らせて、本職は右サイドの酒井宏樹を左サイドで使うことも多々あった。

 新監督ビラス・ボアスとの相性も良かったのか、2019/20シーズンは持てる力を発揮して充実したシーズンを送り、今季も先発イレブンとして監督の構想に組み込まれている。

 しかしガロシオ記者は、アマビが1番手、長友が2番手であるという明確なヒエラルキーは否定する。PSG戦でも、コンディションさえ整っていれば長友の先発はありえたと、彼ら番記者たちは思っていたのだという。

「足が速く、スピーディーなサイド攻撃がアマビの持ち味。しかし彼は不器用さもあって、攻め上がった後のパス展開にも難がある。何より、2回に1回はミスするんじゃないかというくらい、エラーが多いという致命的な欠点がある。

 守備面も盤石とは言い難い。長友は、年齢以上にフィジカル能力も高いし、なにより、豊富な経験と“巧さ”がある。持ち味がまったく違う2人は、良い感じに補い合える関係になりそうだ」。

 CLのように、一戦ごとのスコアも重要になる試合では、時間帯も計算に入れつつどう守るか、どう攻めるか、といった術もより必要になる。そういった試合運びの面でも、長友の経験値が生きそうだ。

 それに、ベテラン選手の存在というのは、想像以上にチームに与える影響が大きい。毎日のトレーニングやフットボールに向き合う姿勢といった面でも良い効果を及ぼせるし、試合の中でも精神的な支柱になれる。

フランスデビューの日は近いか

長友佑都
【写真:Getty Images】

 つい先日、ロナルド・クーマンのアシスタントとして古巣に復帰することになった元スウェーデン代表のFWヘンリク・ラーションが、セルティックからバルセロナに移籍したのも、ちょうど長友と同じく34歳になろうかという時だった。

 若手を育てるべく、彼らの手本となれる存在を求めていた当時のフランク・ライカールト監督がラーションに白羽の矢を立てたのだが、そのシーズン、バルセロナは5年ぶりにリーグ王座を奪回。翌年はCLと合わせて2冠を達成した。

 0-1でアーセナルがリードしていた決勝戦、バルセロナを逆転勝利に導いた終盤の2得点をアシストしたのは、61分に投入されたラーション。まさにピッチの外でも中でも決定的な仕事ができる、ベテランの真骨頂といった感じだった。

 徹底した食事法で肉体改造するなど、プロ意識が高い長友も、インテル時代もチームメイトたちのフィジカル維持に好影響を与えていた。

 また、マルセイユは、勢いに乗るとガンガン行くが、慢心して信じられないような負け方をしたり、劣勢になると挽回する攻め気を出し切れなかったりと、メンタル面がもろに結果に出るチーム。本拠地ではプレッシャーに負けたり、勝ち試合を次の勝利に重ねていく継続性も弱い。長友はそう言った面でも旗振り隊長になってくれるだろう。

 そして長友のデビュー戦は、思ったより早くやってくるかもしれない。

 PSG戦の終盤、レーバン・クルザワとの乱闘でアマビが退場処分になり、3試合の出場停止処分となったからだ。

 17日のサンテティエンヌ戦は、長友が入団する前の第1節が延期になった試合なので出場資格がないが、長友を起用できないことを悔やんでいたビラス・ボアス監督の会見での様子をみると、20日の第4節リール戦でデビューし、続く26日の第5節メス戦と、いずれもヴェロドロームでのホーム戦で連投する可能性は十分にある。

(終盤退場になった他の4人の処分は、クルザワは6試合の出場停止、ネイマールとレアンドロ・パレデスは1試合の猶予つき3試合、ダリオ・ベネデットは1試合。唾吐き疑惑のアンヘル・ディ・マリアは来週の規律委員会に呼び出し、ネイマールへの人種差別発言疑惑のアルバロ・ゴンサレスについての処分は、調査の末、後日決定される)。

 ちなみにPSG戦でのアマビは、クルザワに応戦してレッドカードを食らった失態を除けば、攻守ともに存在感があった。長友が加わったことも良い刺激になっているだろうから、健全なポジション争いが生まれるのはチームにとってプラス要素だ。

 右サイドも、タイプの違う酒井とブナ・サールがお互いに認め合いながら切磋琢磨している。

 そんな、選手にとって燃える環境に置かれた日本代表の両サイドバック2人がマルセイユで共闘する日は、近いうちに訪れそうだ。

(文:小川由紀子【フランス】)

【了】

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