まさかの5人退場。PSGは8人に
歴史的な一夜となった。
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現地13日に行われたリーグ・アン第3節で、アウェイに乗り込んだマルセイユがパリ・サンジェルマン(PSG)に1-0の勝利を収めた。
マルセイユがPSGに土をつけたのは、2011年11月27日以来、約9年ぶりの快挙だった。激しいライバル関係で知られる両者だが、近年はPSGに大きく負け越していた。それだけにフロリアン・トヴァンのゴールを守りきっての勝ち点3獲得は、クラブの歴史に新たな1ページとして刻まれるはずだ。
そして、「歴史的」だったのはマルセイユの勝利だけではない。この試合の真の見どころは後半アディショナルタイムの終わり際にあった。
序盤からピリついたムードが続いてはいた。7分にネイマールへのタックルによってマルセイユの酒井宏樹にイエローカードが提示されてから、他の選手にもどんどん警告が積み上がっていく。
マルセイユはディミトリ・パイェ、パプ・ゲイェ、アルヴァロ・ゴンザレス、マクシム・ロペス、ダリオ・ベネデット、ケビン・ストロートマンが警告を受けた。PSGもネイマールに始まり、アレッサンドロ・フロレンツィ、フアン・ベルナト、レアンドロ・パレデス、アンヘル・ディ・マリアにイエローカードが提示された。
90分までに12回も、主審は黄色いカードを天に掲げたことになる。これだけでも一般的な試合であれば異常なくらいだ。
だが、今回のPSG対マルセイユでは最終的に両軍合わせて5人が退場となった。試合終了の笛が吹かれた時、PSGは8人しかピッチに立っていなかった。いったい何が起こったのだろうか。
事の発端は試合終了目前の96分にあった。ゴールキックの競り合いで、マルセイユのFWベネデットがマッチアップしていたパレデスを突き飛ばすと、後者が激昂して突き飛ばし返す。これで両軍の選手たちがピッチ中央に集まっての乱闘状態となってしまった。
その時、何が起こっていたのか
その中で、パレデスがまずアルヴァロ・ゴンザレスを突き飛ばすと、さらにヒートアップ。今度は関係ないところでPSGのレヴァン・クルザワとマルセイユのジョルダン・アマヴィがつかみ合いのような格好になり、クルザワの蹴りも入った。
マルセイユから酒井やストロートマン、PSGからプレスネル・キンペンベらが仲裁に入るも、なかなかクルザワとアマヴィの怒りは収まらない。その間にも別の場所で他の選手たちが言い合いをしている。パレデスはヴァレール・ジェルマンに食ってかかっていた。
冷静だった選手たちの助けもあって徐々に収まると、ジェローム・ブリサール主審が、まず蹴り合いをしたアマヴィとクルザワにレッドカードを突きつける。さらにきっかけを作ったパレデスとベネデットには、それぞれイエローカードが提示された。
パレデスとベネデットはすでに一度警告を受けていたため、2枚目のイエローカードということになり退場処分に。両軍2人ずつ退場、残り時間は9人ずつでの戦いになると思われた。ところが、事態はこれで終わらない。
ブリサール主審が右耳に手を当ててVAR(ビデオアシスタントレフェリー)から何やら報告を受け、オン・フィールド・レビューに移る。すると混乱の中でパレデスとアルヴァロ・ゴンザレスが掴みかからんばかりの言い合いをしている最中、ネイマールがしれっとアルヴァロの後頭部を小突いていたことが判明したのである。映像はごまかせない。
ピッチに戻った主審は、ネイマールに駆け寄ってレッドカードを提示。これでPSGは3人が退場性分になり、8人になってしまった。一度に5人が退場した試合など、なかなかお目にかかれない。
その後、PSGのフリーキックで試合は再開したが、マルセイユのGKスティーブ・マンダンダがキャッチしたところでブリサール主審が終了の笛を吹いた。トラブルが起きた時点で後半アディショナルタイムがほとんど残されていなかったのと、これ以上続けては危険と判断したのだろう。
試合後、マルセイユを率いるアンドレ・ヴィラス・ボアス監督は「重要で歴史的な勝利だ」と語る一方で、複数の退場者を出した終盤の乱闘騒ぎには「人種差別がなかったことを願う」と述べて苦言を呈した。
「もし人種差別が起こっていれば重大な過失だが、私はそれがあったとは思わない。ただ、その前にディ・マリアが唾を吐いたシーンがあった。こういったことはフットボールの世界では避けなければならないことだ。今日の歴史的なパフォーマンスの汚点にならないことを願っている」
マルセイユDFには人種差別疑惑も…
一方、PSGのトーマス・トゥヘル監督も「私は全く怒っていない」としつつ、「最後の3分間のリアクションは気に入らない。ああいうのには同意しかねる。やりすぎだ。あの反応に苦しむことになるだろう」と不満を示した。
ヴィラス・ボアス監督が言ったように、前半にはディ・マリアがアルヴァロ・ゴンザレスの目の前を通りかかる際に、唾を吐いたような場面があった。これに対しマルセイユのセンターバックは猛抗議で主審にビデオでの確認を求めたが受け入れられず、PSGのアルゼンチン代表FWはお咎めなしに終わっている。
逆にアルヴァロ・ゴンザレスにはネイマールに対する人種差別発言疑惑も持ち上がっている。2人は前半からずっとやり合っていて、時に口論にもなっていた。
ネイマールは試合後、ツイッターに「あいつの顔面を殴らなかったのが唯一の心残りだ」と投稿し、連投したツイートでアルヴァロ・ゴンザレスの人種差別発言を告発した。
「VARが俺の“攻撃”を見つけるのは簡単だが、俺のことを『このサルのクソ野郎!』と呼んだ人種差別主義者の映像を見たい。一体どうなる…? 俺は退場になったが、あいつらはどうなんだ?」
これに対し、当のアルヴァロ・ゴンザレスはツイッターで「人種差別の余地はない」と反論。「クリーンな戦いであり、同僚や友人たちとの毎日の取り組みがあった」と続けた。
マルセイユにとって歴史的な1勝であり、選手たちの勝利を目指す一致団結したパフォーマンスは見事だった。GKマンダンダは決定機をスーパーセーブ連発でことごとく阻止し、酒井も対面したネイマールやディ・マリアを封殺。トヴァンも長期離脱から復活を印象づける一発で、チームに勝利をもたらした。
前半から激しいプレーの応酬で警告がかさみ、フラストレーションも溜まっていたとはいえ、まさか5人も退場して人種差別や唾吐きの疑惑も浮上するほど遺恨の残る試合になると、誰が想像しただろうか。もしネイマールの告発が事実だと証明されれば、アルヴァロ・ゴンザレスには長期の出場停止処分が課される可能性もある。
一方、PSGは開幕から2連敗で、次節はネイマール抜きで戦わなければならない。チーム内に新型コロナウイルス陽性者が多数出て、キリアン・ムバッペやマウロ・イカルディ、マルキーニョスなど、まだ復帰できていない選手もいる。2試合連続無得点という状況で、攻守の軸になる主力の多くを欠いて戦わなければならないのだ。
勝った方も負けた方も後味は悪い。両チームとも、自分たちの愚かな過ちによって、大きな代償を払うことになりそうだ。
(文:舩木渉)
【了】