クロップ監督も大興奮の90分間
「何て試合だ! とんでもない相手だった! 両チームのパフォーマンスがこんなに素晴らしいとは! 最高のフットボール! これこそスペクタクルだ! 大好きだよ!」
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リバプールを率いるユルゲン・クロップ監督は、現地12日に行われたプレミアリーグ開幕戦のリーズ・ユナイテッド戦を終えて、『スカイ・スポーツ』のカメラの前に立って興奮気味にまくし立てた。
スコアは4-3だった。何とか勝利したリバプールにしても、3失点を喫している。この数字を見れば決して褒められた内容ではないのではないか? という疑問も浮かぶだろう。
クロップ監督も「もちろん7つもゴールが生まれているのだから、誰かが大きなミスを犯している。こんなに多くのゴールを見られるのも珍しいからね。改善の余地があるのも間違いない」と認める。
だが、いつもと違う非常に短いプレシーズンでの調整を強いられたうえ、多くの選手は数日前まで各国代表での活動のためチームを離れていた。そうした特殊な状況下で「再び全員が一緒に歩むには時間が必要」であり、「このゲームに関して私はとてもポジティブだ」と語るクロップ監督の考えはよく理解できる。
序盤から超ハイスピードな展開で、両チームともキャラクターを存分に発揮し、多くのゴールが生まれた。試合を裁く審判チームも、開幕戦からあれほど高速で高強度な90分間には難儀したはずだ。
もう少しクロップ監督の言葉を借りれば、「非常によく組織されて、情熱に溢れるリーズのようなチームを相手にする試合は大好きだ」と……おそらく見た者の大半は言いたくなるに違いない。それだけエキサイティングな開幕戦だった。
17年ぶりにプレミアリーグの舞台に戻ってきたリーズを率いるのは、マルセロ・ビエルサ監督だ。経験豊富な65歳の奇才は、2部チャンピオンシップを勝ち抜くために磨き上げてきた戦術をリバプール相手にも堂々と繰り出した。
守備ではオールコートマンツーマンに近い形でリバプールの選手1人ひとりに厳しいマークをつけ、追いかけ回す。もちろんビルドアップの起点になるセンターバックにも激しくプレッシャーをかけ、攻め上がる両サイドバックには両ウィングがぴったりくっついて離れない。
プレッシャーを受けたボール保持側は「時間」を奪われ、できるだけ少ないタッチで判断を早くしてパスを動かそうとする。そうなると必然的にボールの動きが多くなり、パスコースも限定されるので展開が早くなるのだ。
狙いは明確。効率よくゴールに迫る
一方、リーズは攻撃も効率的で洗練されていた。最も大きな狙いは、リバプールの選手たちを自陣ゴール方向へ走らせることだっただろう。ボールを失った瞬間のカウンタープレスを食らう回数を減らし、できるだけ早く相手のディフェンスラインの背後に展開して後手の対応を強いるのが王者攻略の近道と見ていたのではなかろうか。
アンカーに入ったカルヴィン・フィリップスの正確無比なロングフィードを起点に、エウデル・コスタとジャック・ハリソンの両ウィング、1トップのパトリック・バンフォード、インサイドハーフのマテウシュ・クリヒとパブロ・エルナンデスが一気に走り出す。多くの選手がゴール前まで詰めてくる攻撃には迫力があった。
17年ぶりのプレミア開幕戦を迎えたリーズは、開始4分で失点してしまう。新加入のセンターバック、ロビン・コッホがペナルティエリア内でハンドを犯し、それで与えたPKをモハメド・サラーに決められた。
しかし、12分に狙い通りの形で同点に追いつくことに成功する。フィリップスが左サイドにロングフィードを送ると、パスを受けたハリソンがカットインしながら2人をかわして右足シュート。GKアリソンが守るゴールを破った。
その後、20分にはコーナーキックにフィルジル・ファン・ダイクが頭で合わせて、リバプールが再び勝ち越す。その約10分後、今度はスチュアート・ダラスの裏を狙った浮き球パスを、ファン・ダイクが処理しきれず。ミスを狙って諦めず追いかけていたバンフォードが、こぼれたボールをかっさらい、アリソンの足元を抜くシュートで2度目の同点ゴールを決めた。
ただ、これだけやられていてはリバプールも黙ってはいない。直後の33分、アンドリュー・ロバートソンのフリーキックがゴール前で弾かれると、こぼれ球をサラーが強烈にミートしてゴールネットに突き刺して3点目。失点してもすぐに勝ち越し、3度目のリードを奪った。
前半の35分までに3-2。つまり5つものゴールが生まれていて、ボールはピッチの縦幅いっぱいを行ったり来たり。テンポが落ちて“だれる”ような瞬間は一切ない。がっぷり四つで組み、殴り合っているようだった。
3度追いついたが…
後半に入ってもリーズのエネルギッシュさは失われず、前半よりもむしろ積極的にボールを握って相手ゴールに向かっていく。昇格組のチームが前年度王者と戦っている試合には全く見えなかった。むしろビッグクラブ同士の激闘かと思ってしまうほどだ。
そして66分にリーズ渾身の一発が決まる。左サイドでリバプールのスローインにプレッシャーをかけてボールを奪うと、ダラスからフィリップス、途中出場のロドリゴ、クリヒをテンポよく経由して右サイドに展開する。
味方のつないできたボールを受けたエウデル・コスタは、コントロールしながらゴール前を確認すると、左足で鋭いラストパスを送る。その先には、パスを出してからスペースを見つけて自ら侵入してきていたクリヒがいた。プレミアリーグデビューとなった30歳のポーランド代表MFは、難しいパスを右足で巧みに収め、そのまま右足を振り抜いてシュートをゴールに突き刺した。
最終的には88分にリバプールの勝ち越しPK弾を許し、アンフィールドでの勝ち点奪取はならなかった。とはいえ、前シーズンのチャンピオンに昇格組が開幕戦からこれほど肉薄したことが、過去に何度あっただろうか。しかも互角の戦いぶりで、自陣に引きこもることなく堂々と渡り合ったのである。クロップ監督が興奮するのも頷ける熱戦だった。
リバプールのOBで『スカイ・スポーツ』の解説者を務めるジェイミー・キャラガーも「7-7だってありえただろう」と王者を追い詰めたリーズの戦いぶりを称賛した。シュート6本、枠内シュート3本で3ゴールを奪った効率の良さも、リーズのキャラクターが強調される試合になった要因だろう。
4シーズンぶりにプレミアリーグでゴールを記録したバンフォードは、「近づいたのに負けてしまったことには腹が立っている」としつつも、「僕たちは自分たちのキャラクターを存分に発揮し、ベスト・オブ・ザ・ベストとも競えることを示せたと思う。それを自分たちに対しても示せたのは大きい」と自信をつけたようだ。
それは必死に戦った成果でもある。「正直に言うと、最初の20分は本当に大変だった。そこまではあっという間に過ぎ去っていった感じ」とバンフォードは笑顔を浮かべながら振り返った。
完璧主義のビエルサが語ったこと
選手たちが手応えを感じる一方で、“完璧主義者”なビエルサ監督は「敗北は避けられたはずだ」と試合後の記者会見でうなだれた。
「3ゴールを奪えたのはいいことだ。効率的ではあったが、もっと危険な場面を作るべきだったし、チャンスの数は足りなかった。そして4失点したことは無視できない。これらの失点の多くは回避できたはずだ。
サッカーは予測不可能だが、起こるとわかっている状況はある。それが起こると知っているから確実に止められるとは言えないが、避けられたと感じるゴールを決められた時、失望はより大きくなるものだ。私が敗北で幸せを感じることは決してない」
リーズの当面の課題は、今回のリバプール戦のような強度を維持し続けられるかと、大黒柱ベン・ホワイトが抜けた最終ラインの崩壊を阻止できるかということになる。チャンピオンシップ時代からほとんどメンバーの変わっていないチームではあるが、それゆえにプレミアリーグで生き残るために足りていないと思われる箇所もいくつか存在するのも間違いない。
それでもビエルサ監督が2年かけて作り上げてきた超攻撃的なフットボールは魅力的で、夢に溢れている。リバプール相手に堂々と立ち回り、ボールが前進すればどんどんサポートの選手が現れ、勇猛果敢にゴールを狙い続けた。守っては1人ひとりが与えられた役割を忠実にこなし、味方のカバーリングはもはや機械的とも言えるほどにスムーズだった。
ビエルサ監督は言う。「自信とは、恐ることがないということだ。チームメイト同士がナーバスにならないように助け合う。もしあなたがミスをしても、チームメイトがあなたをバックアップするためにそこにいれば、そのことがあなたにさらなる自信を与え、あなたを解放するんだ」と。
今季のリーズは、まさにそんなチームだ。スペクタクルでエキサイティングなアタッキング・フットボールを貫く、異色の昇格組は台風の目となるか。ビエルサ・イズムが浸透したリーズのこれからの戦いが楽しみで仕方ない。
(文:舩木渉)
【了】