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アーセナル、3発快勝の理由はどこに? 主役は新戦力ウィリアン、陰の立役者となった男とは

プレミアリーグ第1節、フラム対アーセナルが12日に行われ、0-3でアウェイチームが勝利している。ウィリアンが全得点に絡み、ガブリエウ・マガリャンイスは得点をマークするなど、この日のアーセナルは新戦力の活躍が目立った。では、それを支えた陰の立役者は誰なのか。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

序盤こそヒヤリとしたが…

アーセナル
【写真:Getty Images】

 アーセナルは昨季のプレミアリーグを8位でフィニッシュしている。同クラブが7位以下でシーズンを終えるのは実に25年ぶりであり、宿敵トッテナムより下の順位に終わるのがこれで4シーズン連続。まさに、屈辱を味わった。

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 しかし、クラブOBでもあるミケル・アルテタが指揮官に就任して以降は、どちらかと言うとポジティブな雰囲気が漂っていたのは事実。リーグ戦の結果は確かに残念だったが、その後はチェルシーとのゲームを制してFAカップの頂点に立ち、コミュニティシールドでは王者リバプールをPK戦の末下している。

 そして迎えた2020/21シーズンの開幕戦。アーセナルは昇格組フラムの敵地に乗り込んだが、FA杯やコミュニティシールドを制した勢いを継続させ、素晴らしいパフォーマンスを披露している。

 アルテタ監督はこの試合で3-4-3システムを採用した。新加入のウィリアンを右ウイングに配置し、中盤底にはグラニト・ジャカとモハメド・エルネニーを起用。3バックの一角には新戦力のガブリエウ・マガリャンイスが名を連ねた。

 立ち上がり、アーセナルはマガリャンイスとベルント・レノの曖昧な対応が引き金となっていきなりピンチを招いた。しかし、その後はうまく修正。フラムにボールこそ握られたが、5-4-1のブロックを形成して中央を固め、深い位置への侵入を許さなかった。

 次第にボールを保持する時間も増えたアーセナルは、サイドを中心に攻撃を展開。ビルドアップ時は3バックの一角に入ったキーラン・ティアニーが外へ開くことで瞬間的に4バックのような形を作り、パスの逃げ道をうまく確保。ウイングがタッチライン際にポジショニングした場合には内側のレーンをウイングバックの選手が突くなど、ボールも人もうまく動いてフラム守備陣を揺さぶっていた。

 そして、アーセナルは8分という早い時間に先制に成功。中盤からサイドのピエール=エメリク・オーバメヤンへ長いボールを使ってリズムを変え、最後はゴール前の混戦からアレクサンドル・ラカゼットがシュートを押し込んだ。

 序盤こそボールを支配されたが、そのまま相手の流れに飲み込まれることなく先制に成功。アーセナルにとっては申し分ない立ち上がりだったと言えるだろう。

フラムとの力の差は明らか

 一方のフラムは4-5-1の形を維持したまま攻めに出た。しかし、ボールこそ握ることはできたが、最後の局面でアイデアと打開力を欠き、なかなかGKレノを襲うことができない。そのままズルズルと時間だけが過ぎていった。

 データサイト『Sofa Score』による前半だけのスタッツをみても、フラムはボール支配率49%を記録している。しかし、シュート数はわずかに2本。ボールを“持たされた”ことで攻撃陣が停滞を余儀なくされていたのは明らかだ。

 そんなフラムを、アーセナルは後半立ち上がりに突き放した。49分、コーナーキックのチャンスを得ると、ウィリアンが蹴り込んだボールを最後はマガリャンイスがヘディングで押し込んだ。

 さらに57分、右サイドで攻撃を組み立てると、最後は左サイドでフリーとなっていたオーバメヤンへ展開。エースは得意の角度からファーサイドへシュートを蹴り込み、GKマレク・ロダークに触れられることなくゴールネットを揺らした。

 3点目が生まれる前、ゴールキックから丁寧に組み立てたアーセナルに対し、フラムも恐れず前からプレスをかけた。しかし、アウェイチームのイレブンはワンタッチをうまく駆使しプレッシャーを無力化。最後は右から左へ長いボールを使ってオーバメヤンに数的優位な状況を与えるという、コミュニティシールドのリバプール戦と似た展開に。アーセナルの良さが出た、完璧なゴールだったと言える。

 強気な姿勢で守備を行ったフラムだったが、見事に剥がされて3点目を失った。こうなると、その後もなかなか前からプレッシャーに行けなくなる。一矢報いたいところだったが、反対にアーセナルにボール保持の時間を多く作られた。

 状況を変えたいスコット・パーカー監督はエースのアレクサンダル・ミトロビッチを63分に投入。しかし、確かに前線に一つの収め所はできたものの、そこからの展開力という部分に関して前半から大きな違いはなかった。得点の可能性は、残念ながら感じられなかった。

 大きなミスなどもなく試合の時間を進めたアーセナルはそのまま3-0で勝利。被シュート数をわずか5本に抑え、反対に13本のシュートを浴びせるなど、攻守両面でフラムに力の差をみせつける結果となった。

サプライズだった活躍

アーセナル
【写真:Getty Images】

 チェルシーから今夏フリーで加入したウィリアンは、この日の全得点に絡むなど大活躍。さらにリールから加入したマガリャンイスは対人戦の強さをみせつけ、得点もマークするなどこちらも好パフォーマンスを披露。新戦力の輝きは、目を見張るものがあったと言えるだろう。

 しかし、この男の活躍もある意味で驚きだった。エジプト代表MFのモハメド・エルネニーだ。

 ベシクタシュへの期限付き移籍を終え戻ってきたエルネニーは、確かにコミュニティシールドなどで印象的な活躍をみせていた。ただ、開幕戦でのスタメン抜擢は正直なところ予想外であった。

 エルネニーは中盤底でジャカとコンビを組み、良い距離感を保ったままプレー。最終ラインからボールを引き出しては次々とパスを捌くなど、チームのビルドアップを大きくサポートしていた。

 16分の場面では、前方にわずかなスペースがあると判断するとドリブルで前進。相手DF二人を引き付け最後はサイドのウィリアンにパスを出し、フリーな状態を与えるなど、プレーも決して単調ではなかった。攻守の切り替えも素早く、セカンドボールを的確に回収するなど、フラムに隙を与えまいと中央にしっかりと蓋をしていた。

 データサイト『Who Scored』によると、この日のエルネニーは中盤と前線の7人の中で最多となる63本のパスを記録。その中で成功率95%を収めるなど、抜群の安定感を発揮した。さらに、インターセプト数5回はチームトップの成績。守備意識の高さというものも、データにしっかりと表れている。

 アーセナル公式サイトによると、試合後アルテタ監督は「私は彼と多くの会話をしてきた。彼はチャンスを得るにふさわしい毎日最高のスピリットで練習している。彼には学ぼうとする姿勢があるし、とても良いパフォーマンスをしている」とエルネニーに称賛の言葉を送っている。

 開幕戦で活躍したからエルネニーが「今後も重要な戦力に!」というのは時期尚早だ。彼は確かに冷静なパス捌きが冴えたが、崩しの面におけるクリエイティブなプレーはまだまだ少ない。フラムのような力の劣る相手には良いが、リバプールら強敵を前に違いを作り出せるかは未知数。そういった部分は、獲得が噂されるリヨンのウセム・アワールといった選手の方が格段に上手いだろう。

 ただ、ヨーロッパリーグ(EL)など様々なコンペティションを戦うという中、そして中盤のポジションに厚みが増すという部分を考えても、開幕戦でチームに復帰したエルネニーが活躍したことの意味は決して小さくない。アルテタ監督の今後の起用法にも注目してみていきたい。

(文:小澤祐作)

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なぜ、あえて今アーセナルなのか。
あるアーセナル狂の英国人が「今すぐにでも隣からモウリーニョを呼んで守備を整理しろ」と大真面目に叫ぶほど、クラブは低迷期を迎えているにもかかわらず、である。
そのヒントはそれこそ、今に凝縮されている。
感染症を抑えながら経済を回す。世界は今、そんな無理難題に挑んでいる。
同じくアーセナル、特にアルセーヌ・ベンゲル時代のアーセナルは、一部から「うぶすぎる」と揶揄されながら、内容と結果を執拗に追い求めてきた。
そういった意味ではベンゲルが作り上げたアーセナルと今の世界は大いにリンクする。
ベンゲルが落とし込んだ理想にしどろもどろする今のアーセナルは、大袈裟に言えば社会の鏡のような気がしてならない。
だからこそ今、皮肉でもなんでもなく、ベンゲルの亡霊に苛まれてみるのも悪くない。
そして、アーセナルの未来を託されたミケル・アルテタは、ベンゲルの亡霊より遥かに大きなアーセナル信仰に対峙しなければならない。
ジョゼップ・グアルディオラの薫陶を受けたアーセナルに所縁のあるバスク人は、それこそ世界的信仰を直視するのか、それとも無視するのか。

“新アーセナル様式”の今後を追う。

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【了】

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