得点を量産するウイングの三笘薫
首位を快走する川崎フロンターレはここまで44得点13失点、得失点差31という圧倒的な数字を残している。そのうちの8得点を叩き出しているのが大卒ルーキーの三笘薫だ。
【今シーズンのJリーグはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
ここまでスタメンは3試合、541分という限られた出場時間の中でチームトップの得点数、日本人選手でリーグ1位の得点数を挙げている。1試合に相当する90分で約1.3得点していることになるが、驚異的なのはシュート16本で8得点していること。つまりシュート決定率は5割だ。
この活躍のベースにあるのは得意のドリブルに加えてオフ・ザ・ボールで機を見極める観察眼、相手ディフェンスとの駆け引きのうまさ、冷静で正確なフィニッシュといった個人の要素も大きいが、チームの基本スタイルに適応して守備と攻撃の波にうまく乗れていることが挙げられる。
プレシーズンの沖縄で4日間ほど川崎の合宿を取材し、三笘薫にも話を聞いた。これまでも特別指定選手として川崎の練習を経験していた三笘は4-3-3という新しいフォーメーションの練習にも意欲的に取り組んでいた。
「自分のポジションはウイングなんですけど、そこで求められることは守備だったり立ち位置のところだったり、仕掛けることだったり、自分の特徴を出しやすい。そこを出していければ力になれると思っています。ただ、まだまだ課題が多いので、そこに取り組んで成長していければ貢献できると思っています」
そう語っていた三笘は左ウイングから点を取るポイントについても言及していた。
「スプリントが求められるので、そのタイミングだったり、意思疎通のところを練習からやっていかないといけないですし、クロスボールに入っていくところは本当に言われているので、そこは毎回入っていけるようにしないといけないなと思っています」
さらに細かいポイントを聞くと、三笘は同サイドからの崩しにおける「ニアゾーンを攻略すること」と逆サイドからの崩しの場面で「センターバックの外にスプリントして裏を取ること」の二つをあげた。最終的には「メンタルのところでの冷静さは大事」と言うが、そのためにもポジショニングで相手より優位になっていることが精神的な落ち着きにもつながることを当時から意識していたようだ。
8得点の内容
そうした三笘のビジョンを踏まえながら8得点の内容を簡単に整理したい。
1点目 第7節 湘南戦 アシスト:なし
カウンターから。ビルドアップのミスを逃さずにボールを奪うと背後を破り、一気にドリブル。切り返しから石原広教の股下を破りゴール左に決める。
2点目 第9節 大分戦 アシスト:脇坂泰斗
谷口彰悟からの縦パスをFWレアンドロ・ダミアンがポスト。そこに小林悠、脇坂が絡んでボランチとセンターバックが引きつけられたところを左の三笘がダイレクトの右足でGKの逆を突く。
3点目 第10節 札幌戦 アシスト:山根視来
カウンターから。右サイドの3人で組織的にボールを奪ったところから山根が持ち上がる。三笘は中央をカバーしていたMF荒野拓馬の裏に入り込んで、残るセンターバックの間でラストパスを受けて、2タッチ目でゴール左に流し込む。
4点目 第10節 札幌戦 アシスト:旗手怜央
GKチョン・ソンリョンのロングキックが右の旗手に渡ると、ドリブルで二人を突破してカバーリングを引き付ける。並走するダミアンがさらにディフェンスを引き付けると、ファーサイドに生じたスペースに走りこんだ三笘が折り返しをダイレクトで決めた。
5点目 第11節 C大阪戦 アシスト:小林悠
脇坂に代わって投入された直後で、家長が左サイド、三笘がインサイドにポジションをとっていた特殊なシチュエーションからのゴール。中央から小林が左に開くことでカバーにきた藤田を引き付け、その間にインサイドのスペースを突いた三笘に渡すと、戻りながらの対応になったヨニッチの股下を狙ってシュート。GKキム・ジョンヒョンの逆をつく形でゴール左に決まる。
6点目 第13節 清水戦 アシスト:なし
カウンターから。ダメ押しのチーム5点目となるゴール。相手ゴール前のセカンドボールからペナルティエリア内に仕掛けて、ヘナト・アウグストとのデュエルで相手がバランス崩すと、さらに進出してGKの足下を破る。
7点目 第14節 横浜FM戦 アシスト:脇坂泰斗
マリノスのDF畠中槙之輔とMF扇原貴宏が入れ替わっている状況で、中央でボールをキープする大島僚太に扇原がチェック。手前でフリーになった脇坂がパスを受けて、すかさず左裏にスルーパス。大外から走り込んだ三笘がペナルティエリア内でカバーにきたチアゴ・マルチンスを揺さぶり、右足で放ったシュートがゴール右隅に突き刺さった。
8点目 第14節 横浜FM戦 アシスト:旗手怜央
左サイドで三笘が車屋紳太郎と2対2を崩してから右サイドの旗手に展開。小林悠がニアで畠中と扇原を引き付けると、旗手がGKとディフェンスの間に流し込む。タイミングよくチアゴ・マルチンスの背後から裏に抜けた三笘が左足で合わせた。
川崎が得点を重ねるメカニズム
8つのゴールのうち3つは明確なカウンターで、良い守備から自分の得意なシュートの形に持ち込んだが、5点目となったセレッソ大阪戦のゴールは三笘が語っていた同サイドのニアゾーン(この場合はゴール左のエリア)を攻略した形だ。7点目のマリノス戦のゴールもそれに通じる。
それらに共通するのは周りの味方が作ったスペースを逃さずに使ってポジションで優位に立つと、そこを逃すことなく冷静に仕留めていること。逆に8点目はもう1つのポイントにあげていた”センターバックの外にスプリントして裏を取ること”をそのまま実現する形のゴールだった。
ウイングは中央のFWほどシュートチャンスは来ないが、いざチャンスがきた時にうまく周りが作ったスペースやカウンター局面を生かせれば、より良い状態で自分の得意な形や思い描いたシュートに持ち込みやすい。ただ、ここまで三笘がチームトップ8得点をあげているからと言って、決して川崎の中心として振る舞っているわけではない。
基本的に川崎は右ウイングの家長昭博を起点に脇坂と大島が中央でアクセントを作り、相手ディフェンスの逆を取っていくスタイルで、基本的に左の三笘は”ピン留め”と呼ばれる大外のポジショニングで相手のディフェンスを横に広げる役割を担っている。それにより相手が三笘を気にしてくれれば、それだけ川崎はインサイドに美味しいスペースを見出しやすくなる。
逆に相手のディフェンスが中央や右サイドに気を取られれば、絶好のタイミングで三笘が相手ディフェンスの背中を取る形でゴール前に入り込むというメカニズムがチームで共有されているようだ。ただ、シュート数にも見られるように、そうした回数が山のようにあるわけではない。ハイライトなどで見ると三笘が主役のように見えるが、実際はあくまで川崎の1つのピースとして役割を果たしながらチャンスに決めきっているということだ。
当然、ボールポゼッションから三笘が左サイドで仕掛けてチャンスメイクするシーンではフィニッシャーは別の選手になる。そうした役回りもしっかりと果たしながら、いかに好機を逃さずにゴールネットを揺らしていくか。ただ、繰り返しになるが三笘に気を取られすぎると、今度は別の選手が空いたところを狙ってくる。それが川崎フロンターレというチームの怖さだ。
(取材・文:河治良幸)
【了】