補強ゼロでも…27戦負けなしで無双
まさに「圧巻」の戦いぶりだった。2019/20シーズンのリバプールは、開幕2連勝で首位に立ってから、その座を一度も譲ることなく悲願のプレミアリーグ初制覇を成し遂げた。トップリーグとしては30年ぶりの戴冠だ。
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ユルゲン・クロップ監督に率いられたレッズは、リーグ開幕戦でノリッジに4-1で快勝。これを皮切りに27節まで無敗、しかもその間に引き分けたのはマンチェスター・ユナイテッド戦の一度だけで、2位以下に大差をつけていた。
最終的にはプレミアリーグ第31節のクリスタル・パレス戦に勝利した後、2位のマンチェスター・シティがチェルシーに敗れて優勝が決定。7試合を残してのリーグ優勝は史上最速で、7月のリーグ戦は全て消化試合になってしまった。
終盤戦に勝ち星を2つ落としたことで2017/18シーズンにシティが記録に1ポイント及ばず「100ポイント」の大台は逃したものの、勝ち点99は史上2番目。年間32勝は史上最多タイの記録だ。クロップ監督が5年間かけて仕込んできた戦術によってシティの3連覇を阻止し、驚異的な強さで早々に「白旗」を揚げさせたのである。
しかも、補強は実質ゼロという状況でシーズン開幕を迎えていた。シモン・ミニョレが退団したため、控えGKとしてウェストハムからアドリアンを獲得。実戦起用が可能なフィールドプレーヤーの即戦力は誰1人いなかった。
だが、結果的に組織戦術の成熟が進み、リバプールはどんな状況からでもゴールを奪える恐ろしいチームへと進化していく。
これまでのリバプールといえば、ボールを失った瞬間に猛然とプレッシャーをかける、いわゆる「ゲーゲンプレッシング」が武器だった。そこからのカウンター攻撃で、サディオ・マネやモハメド・サラーらも輝きを放っていた。
ただ、他クラブとの力関係を見れば、リバプールの方がボールを持つ時間の長い試合が多くなるのは自然なこと。そこでクロップ監督はボール保持時の攻撃力を引き上げるためのアップデートを試みた。
優勝の立役者は…
鍵になったのは両サイドバックだ。右のトレント・アレクサンダー=アーノルドと左のアンドリュー・ロバートソンの存在が、リバプールの攻撃にさらなる厚みをもたらした。
彼らは最終ラインで組み立てに関わりながら、高い位置を取って相手を押し込んでいく。敵陣内にボールがある時には、ほとんどウィングのようなポジショニングと高精度クロスでチャンスメイクも担う。プレミアリーグでロバートソンは12アシスト、アレクサンダー=アーノルドは自身が持っていたDFの最多アシスト記録を塗り替える13アシストをマークした。つまり2人で「25」ものゴールを演出しているのである。
強力3トップも相変わらずの破壊力で前線をけん引した。3年連続の得点王こそ逃したものの、モハメド・サラーはプレミアリーグで19得点10アシスト。サディオ・マネも18得点7アシストと、抜群のスピードとテクニックで常に相手にとって脅威であり続けた。
ゴール数こそ9得点と控えめだったが、ロベルト・フィルミーノの貢献も見逃せない。単なる1トップ、ストライカーの役割にとどまることなく幅広く動き回って攻撃の起点となり、味方のためのスペースメイキングやフリーランニング、ラストパスなどで最前線の司令塔として機能した。似たタイプの選手や匹敵する実力の選手はおらず、まさしく代役不在のピースだった。
中盤ではジョーダン・ヘンダーソンが卓越したリーダーシップでチームを引き締め、最終ラインにはフィルジル・ファン・ダイクやジョー・ゴメスが鉄壁を築く。GKアリソンの攻守にわたる安定感抜群のプレーも光った。
リーグ優勝の立役者を1人に絞るのは極めて難しい。各ポジションに役者が揃い、適材適所のタスクを与えられて躍動したからこその戴冠だ。有事にはセンターバックをこなしたファビーニョ。様々なポジションや起用法で奮闘したジェームズ・ミルナー。馬力あるドリブルで推進力をもたらしたアレックス・オックスレイド=チェンバレン。惜しみないハードワークと攻撃参加で存在感を放ったジョルジニオ・ワイナルドゥム。とにかく功労者たちの名前を挙げればきりがない。
選手が獲得熱望? 南野拓実の移籍加入
シーズン途中にはクラブ史上初の日本人選手も加わった。レッドブル・ザルツブルクから獲得された、日本代表FW南野拓実である。
リバプールUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のグループリーグでザルツブルクと対戦し、大苦戦を強いられた。特にホームゲームでは3点リードから追いつかれた。最後は4-3で辛くも勝利を収めたが、この試合で1得点1アシストを記録したのが南野だった。
一説には選手たちからクロップ監督に「南野を獲得すべき」と進言があったとも伝えられている。それほどまでに強烈な印象を与えたということだろう。昨年10月のアンフィールドでの躍動があってから、早い段階で「リバプールが南野を獲得か」というニュースが流れ始め、冬の移籍市場で噂が現実のものとなる。
しかし、25歳の日本代表にとって初挑戦のプレミアリーグは決して簡単ではなかった。リーグ戦での出番は散発的で、最終的に10試合に出場したものの、先発起用は2試合のみ。しかも、起用が増えたのは優勝が決まってからだった。
左ウィングやセンターFW、右ウィング、トップ下など様々なポジションで試されながら、出場した224分間でゴールは1つも奪えず。サラーやフィルミーノ、マネを脅かすことはできなかった。
それでも指揮官からの信頼は失われていない。むしろ南野の能力を非常に高く評価し、チーム内で確かな信頼を築いているようだ。それは先月29日に行われたコミュニティシールドのアーセナル戦でもうかがい知ることができた。
南野は59分から途中出場でピッチに送り出されると、73分にゴール前の狭いスペースを攻略して待望のリバプール移籍後初ゴールを決めた。PK戦の末、アーセナルに敗れてはしまったものの、新シーズンを迎えるにあたって大きな一歩を踏み出すことができたのは間違いない。
ノーゴールでも揺るがなかった信頼
試合後にはクロップ監督も「とても大きな一歩だ。彼にとっても、我々とっても重要な1日になった」と南野に惜しみない賛辞を送り、揺るぎない信頼を強調した。
「彼に唯一欠けていたのがゴールだった。ゴールは彼にとって論理的なステップだ。非常にうれしいよ。タキ(南野)は我々に大きなものをもたらすと思ったから獲得したんだ。彼にプレッシャーをかけたくはない。その必要はないしね。彼は本当に有益だ」
チームリーダーの1人であるファン・ダイクも「タキは本当に良かった」と南野のプレーを絶賛した。さらに次のように続ける。
「(新型コロナウイルス感染拡大にともなう)ロックダウンが明けてから、僕たちはみんな、タザルツブルク時代に僕たちと対戦した頃のようなタキを見てきた。彼は本当に、本当に精力的でファンタスティックな選手だよ。今日のゴールは彼が殻を突き破るために、そして僕たちチームのためにも重要だったと思う」
ゴールが生まれたことで、南野の両肩にのしかかっていたプレッシャーも少しは軽くなったはずだ。前線のさまざなポジションに対応するユーティリティ性やプレーの柔軟性、ゴール感覚は新シーズンのリバプールにとって大きな助けとなるに違いない。
クロップ監督も「タキは狭いスペースを使うのがうまい。ファーストタッチは抜群で、ライン間での判断が優れている」と、南野が持つ独特の強みを十分に理解している。「彼は適応の必要があった」という言葉の通り、これまでの半年はプレミアリーグやリバプールのサッカーに適応するための試運転期間だったのだろう。
プレミアリーグの新シーズン開幕を目前に控え、リバプールはロバートソンの控え要員としてオリンピアコスからギリシャ代表DFコンスタンティノス・ツィミカスを獲得した。ヘルタ・ベルリンからはマルコ・グルイッチが復帰し、下部組織出身の若手たちが存在感を増すなど戦力アップを遂げている。
指揮官はマンネリや不満を生まない見事な人心掌握やマネジメントも見せてきている。南野も継続した起用で信頼を感じ、さらにコミュニティシールドでの初得点を経て自信を深めているはず。プレミアリーグ連覇とCL奪冠を目指す2020/21シーズンのリバプールが、クロップ監督の指導でどんな進化を見せてくれるか楽しみだ。
(文:編集部)
【了】