120億円超え。補強の目玉が不発で…
ラ・リーガの2019/20シーズンにおいて最も大きく評価を下げた選手の1人が、アトレティコ・マドリードにいる。
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ポルトガルの名門ベンフィカから1億2000万ユーロ(約150億円)を超える移籍金を費やして獲得した、ジョアン・フェリックスである。
リーグ戦ではわずかに6得点にとどまり、終盤戦はベンチに座ることも増えた。ピッチ上で期待に応えられたとは言えず、年下のモデルのガールフレンドと、中断期間中にYouTubeで配信していたゲーム実況動画など、ピッチ外での日常の方が目立っていたほど。
トップリーグでの経験が1年しかなかった加入当時19歳の有望株は、アトレティコらしい攻守の切り替えの早さや強度の高いサッカーになかなか適応できず、新天地で大いに苦しんだ。
ジョアン・フェリックスのプレーには「若さ」も目立った。ベンフィカ時代のような自信に溢れた仕掛けは鳴りを潜め、チャンスを逸しては頭を抱える。不安や自信のなさが表情やプレーにはっきりと出るタイプで、タフさが不足するフィジカル面のみならず、精神面での成熟やネガティヴな感情のコントロールも大きな課題と言えるだろう。
補強の目玉が期待されたほどの活躍を見せられない中、アトレティコは例年のごとく得点力不足に苦しんだ。特にアルバロ・モラタやジエゴ・コスタといったストライカー陣が軒並み不発で、負け数こそ少ないものの、引き分けが多く、勝ちきれない試合が続いた。
早々に優勝争いから脱落し、前半戦では一時7位に沈むなど、なかなか浮上のきっかけをつかめず。だが、6月の中断明けからは7勝4分、無敗で駆け抜け、最終的には3位に。帳尻合わせ感はありつつも、猛烈なラストスパートで8年連続となるUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権を獲得した。
後半戦の巻き返しは、戦術面の微調整と大胆な選手起用によって実現したと言えるだろう。
シーズン前半は例年以上にボールを奪い返す場所が自陣ゴール寄りになり、自慢のカウンターを繰り出しても相手ゴールまでたどり着く回数が目に見えて減っていた。そのうえストライカー陣が精彩を欠き、フィニッシュも決まらない。
守備の要だったディエゴ・ゴディンがインテルに移籍したディフェンスラインは、GKヤン・オブラクを中心にいつも通りの堅牢さを誇ったが、ゴールを奪えなければ勝てないのである。ならばゴールにどう近づくか、という点でディエゴ・シメオネ監督は、まず「守備」に手をつけた。
マルコス・ジョレンテの覚醒
敵陣でボールを失ったら基本的に自陣に戻ってブロックを作るのがアトレティコの守り方だったが、プレッシングの開始位置を高くし、より積極的に前へ出る。それによってカウンターの回数と威力を増すことができた。
そして、もともと守備的なセントラルMFとして獲得していたマルコス・ジョレンテをFWにコンバートしたことが決定的な変化につながった。長身で運動能力の高い25歳は長いストライドを生かした走りで猛プレスの起点となるだけでなく、攻撃時は自由な役割を与えられ、豪快な仕掛けやシュートで違いを生み出した。彼が2トップの一角や右サイドに入り始めた2月ごろからチーム状態は急激に上向いたのだった。
ジョレンテが鮮烈な輝きを放った試合が、CLのラウンド16の2ndレグ、アウェイのアンフィールドで行われたリバプール戦だ。
ホームでの1stレグを1-0で制していたアトレティコだったが、2ndレグは43分に失点して延長戦に突入する。すると94分にロベルト・フィルミーノのゴールが決まってリバプールが一歩前に出た。
敗退も見えてきた状況。ここからジョレンテ劇場が始まる。56分からジエゴ・コスタに代わって途中出場していた背番号14は、2失点目の直後の97分に右足で強烈なミドルシュートを突き刺し、反撃の号砲を鳴らす。
さらに延長前半アディショナルタイムの106分、ジョレンテが再びペナルティエリア外から右足を振り抜いてゴールネットを揺らし、アトレティコは2戦合計スコアで3-2と一歩前に出る。最後に延長後半アディショナルタイムにモラタのゴールをアシストしたのもジョレンテだった。
途中出場したビッグマッチで2得点1アシスト、全得点に絡んだジョレンテは、アタッカーとしてのポテンシャルを大いに発揮した。そして、前回大会王者のリバプールを破ってのCLベスト8進出が、アトレティコに大きな自信をもたらしたのは間違いない。
この時期は欧州で新型コロナウイルスの感染が拡大し始めていて、この試合をもってアトレティコのシーズンも一時ストップ。チームとしての勢いや手応えを維持した状態で中断期間に入り、そのまま6月の公式戦再開を迎えることができた。
中断明けからリーグ戦無敗での巻き返しは先に述べたとおり。CLは準々決勝でRBライプツィヒに屈したものの、チームとして前向きな成果を得てシーズンを終えた。
シメオネのスタイルでは限界?
2019/20シーズンのアトレティコでは、中盤4人のユニットが確立された。中央でトーマス・パーティーとサーウル・ニゲスがコンビを組み、左にバランス感覚とリーダーシップを備えたコケ、右に突破力とチャンスメイクに優れたアンヘル・コレアが定着した。
より攻撃的に振る舞いたい場合に、冬の移籍市場で再獲得したヤニック・フェレイラ・カラスコを左サイドに配置するオプションも終盤戦の好調を支えた。いまはこのベルギー代表ウィングの完全獲得を目指していると伝えられている。
シーズン序盤は不安定だった新加入のレナン・ロディも、終盤には不可欠な存在に。キーラン・トリッピアーは右サイドバックの層を厚くし、攻守に高いクオリティをもたらした。ゴディンが抜けたセンターバックにはポルトから獲得したフェリペが台頭し、ホセ・マリア・ヒメネスとステファン・サビッチのコンビとともに力強く守備陣を支えた。
ジョアン・フェリックスやジエゴ・コスタ、モラタがゴールから遠ざかった前線以外は、各ポジションに盤石な「型」があったのは、大崩れを防げた要因と言える。一方で、シメオネが志向するサッカーの限界も見え始めているのも事実だ。
毎シーズンのようにポゼッションスタイルの導入が失敗に終わり、途中で元通りのカウンターサッカーに戻すことで何とか体裁を保っている。準々決勝敗退とはいえCLのようなトーナメントに強いのも、手堅いスタイルが故。ただ、これでは進歩がない。
2019/20シーズンは、そういう意味で格下相手の取りこぼしが多かったのは象徴的だった。リーグ戦ではわずか4敗と「0ポイント」を限りなく少なく抑えられていながら、16引き分けはセルタと並んでリーグ最多タイの多さだった。
ボールポゼッションなどクソ食らえ! というスタイルで、攻撃回数そのものが少なければチャンスの回数も少なくなるのは自然なこと。少ないチャンスを全て確実に決めるのはどんなチームや選手にとっても困難で、現状を打破できなければリーグタイトルに手は届かない。
補強にかけられる予算も例年に比べて少なくなる中、2020/21シーズンはどんな発展を見せてくれるだろうか。ジョアン・フェリックスは加入2年目で本領発揮となるだろうか。アトレティコを指揮して10シーズン目を迎えるシメオネ監督にとっても真価が問われる勝負の1年になる。
(文:編集部)
【了】