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ネイマールにバルセロナ復帰の意思はもはやない。「ついに救世主となった」PSGに全身全霊を

2019/20シーズン、フランス王者パリ・サンジェルマンはクラブ史上初のチャンピオンズリーグ決勝にたどり着いた。その立役者となったのが、ネイマールだ。昨年の今頃は古巣バルセロナへの復帰説が浮上し、サポーターの怒りを買っていたエースだが、今ではPSGに全身全霊を捧げている。彼はどのように進化したのだろうか。(文:小川由紀子【フランス】)

text by 小川由紀子 photo by Getty Images

CLで魅せた圧倒的存在感

ネイマール
【写真:Getty Images】

 エスタディオ・ダ・ルスでのチャンピオンズリーグ(CL)決勝から一夜明けた24日、パリ・サンジェルマン(PSG)がバイエルン・ミュンヘンに敗れて優勝を逃したニュースを伝えたフランスメディアを埋めたのは、ネイマールの写真だった。

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 うなだれた後ろ姿、泣きはらした顔、掲げることのできないトロフィーに惜しそうに手を伸ばす姿…。あたかも、『PSGの勝利は、ネイマールの双肩にかかっていた』と言わんばかりに。

 勝っていれば、彼は間違いなく大ヒーローだった。準々決勝のアタランタ戦でも、準決勝のRBライプツィヒ戦でも、ネイマールはPSGのゲームメイクを先導した。

『レキップ紙』に掲載されたデータによれば、リスボンでの準々決勝が始まってから決勝戦までの時点で、全参加選手の中で90分間にもっとも多くのドリブルを試みたのはネイマールで、平均15.5回。2位につけたリヨンのフセム・アワール(7回)、3位のキリアン・ムバッペ(6.2回)の倍以上、しかも6割以上を成功させている。

 アタッキングサード内でのパス成功数も、RBライプツィヒのマルセル・ザビツァー(38本)に次ぐ37本。シュートにつながったアシストの数でも2位と、攻撃アクションにおいて万能に力を発揮したことは、数字も証明した。なかったのは自らのゴールだけ。しかしピッチ上での存在感はダントツだった。

 バイエルン戦の2日前、『レキップ紙』は一面にネイマールの写真を掲げて、「EXSTRA TERRESTRE(地球外生命体)」という見出しをつけた。そして「ついにネイマールは救世主となった」と書いている。

バイエルンとの決勝では不発に…

 その期待が大きかっただけに、決勝での戦いぶりは落胆を誘った。

 ネイマールは18分、ゴール至近距離からシュートを打ったが、鉄壁マヌエル・ノイアーに阻まれた。彼だけでなく、相棒のムバッペも本来の凄みを発揮できず、彼も前半終了間際のシュートも決めきれなかった。

「ネイマールとムバッペがピッチに立っていたことすら覚えていない」と辛辣なコメントをした解説者もいたし、『レキップ紙』での採点は、読者による3.3点、記者による3点、どちらもネイマールが両軍合わせて最低点で、ムバッペがそれに続いた。

 指揮官のトーマス・トゥヘルは彼らを擁護した。

「テレビでは全部を見ることはきっとできていないだろう。しかしピッチサイドからは見える。選手たちはすべて出し切った。人はネイ(ネイマール)とムバッペがいつもゴールを奪うことを期待しているが、それは現実的ではない。

 今日の試合でも、ネイはあらためて彼のキャパシティを発揮してくれた。恐れ入ったよ。怪我で長くトレーニングを休んでいたキキ(ムバッペ)にいたっては、今日プレーできたことだけでも奇跡だった」。

 ネイマールについて語ったとき、トゥヘルは、「まったく感心した」というように、頭を振っていた。

バルサ復帰説浮上も…。「腹をくくった」

パリ・サンジェルマン
2019/20シーズン開幕当初はサポーターも辛辣な言葉をネイマールに浴びせていた【写真:Getty Images】

 クラブ史上初の決勝進出の立役者となり、「救世主」となったが、肝心の決勝戦では、ファンを満足させるだけの働きができなかった。それが現時点でのネイマールの評価だ。

 しかし、ひとつ大きく変わったものがある。それは、彼自身のPSGへのコミットメントだ。

 ちょうど去年の今頃、フランスのサッカー界はネイマールの去就に関する話題でもちきりだった。とりわけサポーターの逆鱗に触れたのは、バルセロナに資金が足りないなら、ネイマールがポケットマネーから2000万ユーロ(約24億円)を出すとまで言っている、という報道だったが、実際にこの時点では、ネイマールには古巣に帰りたい気持ちがあったのだろう。

 PSGサポーターにとって屈辱中の屈辱である、2016/17シーズンのCL、ラウンド16でのバルセロナの大逆転劇を、当時は勝利者側にいたネイマールが「自分のキャリアで一番印象的な試合」に挙げたこともサポーターの怒りに火をつけた。

 2017年夏に入団してから昨年の夏までは、ネイマール自身、十分にはPSGに入魂していなかったように感じる。

 入団当初こそ熱烈歓迎を受けたが、サポーターとの関係はすぐに冷え切り、エディンソン・カバーニとの因縁だとか、果てはムバッペとの不仲説といったありもしない話まででっち上げられた。

 やることなすことネガティブに捉えられて、彼自身も嫌気がさしていたところもあったし、スポーツ面でも国内では、彼の闘志をかき立てるようなヒリついた対戦はそうそうなかったから、バルサ時代の興奮を恋しがっても不思議はなかった。肝心なCL決勝トーナメントでは2年続けて足を骨折して欠場と、不完全燃焼な思いも味わった。

 しかし今シーズンは違った。

 すったもんだはあったが、結局PSGに残ることを決めると、序盤こそ怪我で欠場が続いたが、12月に入って本調子を取り戻し、7試合連続でゴールを決めるなど、「腹をくくった」感じが見て取れた。

 ちょうどそんな最中だったか、試合後のミックスゾーンでマイクを向けられたときに彼は言っていた。

「これまでの2年間は、一番大事なところで怪我をしてしまった。今季は絶対にそれは繰り返したくない。だから、決勝トーナメントの時期にベストの状態にもっていけるよう慎重に調整していく」。

指揮官トゥヘルの信頼

パリ・サンジェルマン
【写真:Getty Images】

 彼のやる気を保たせたことには、トゥヘル監督のサポートもあった。

 彼は会見でも常にネイマールを「Ney(ネイ)」と愛称で呼ぶ。それだけで、ネイマールがチームで良好な関係を築いている様子を連想させたし、ネイマールについての質問を受けるたび、彼がいるとどれだけチームが別レベルになるか、彼が与える凄さがどれくらい大きいかをトゥヘルは訴え続けた。

「選手個々についてはコメントしないので」というのが、会見場での定番フレーズとなっている昨今でそれは珍しい。指揮官がいかにネイマールをチームの大エースとして信頼しているかというメッセージは、本人にも十分に伝わっていたことだろう。

 今季も、ラウンド16の直前に肋骨を痛め、またか! とヒヤッとさせられたが、無事に回復すると、今度は新型コロナウィルスによる中断と、別の難題が降りかかった。

 しかしこれを乗り越え、ファイナルエイトというイレギュラーな形の大会で決勝戦まで到達した。とりわけラウンド16のドルトムント戦2ndレグから、アタランタ戦での劇的な大逆転、RBライプツィヒ戦での圧勝までの3試合は、状況、内容ともにネイマールがPSGに入団してからもっとも血をたぎらせた対戦になった。

 これを味わったこと、そしてもしかしたら決勝で敗れた悔しさもさらなる欲求をかきたてて、過去2年とは別次元でPSGに入魂しようという境地に、いまのネイマールは達している。

 8月25日、彼はツイッターで、ロッカールームでのチーム写真とともにこんなメッセージを掲載した。

『選手もスタッフも、みんな本当によく頑張った。望んだ結果には終わらなかったけれど、みんなでともに戦ったこの経験は、信じられないくらい素晴らしいものだった。さらに強くなるため、そして勝利へのさらなる強い意志を持って戦えるよう、今はしっかりバッテリーをチャージしよう。ALLEZ!PARIS!』。

「移籍したい意思はネイマールにはない」

 リオネル・メッシのバルセロナ退団要求に派生して、ネイマールの名前もまた移籍情報を賑わせているが、現状を見る限り、ネイマールのPSGへの思いは本物だと感じる。クラブの内部情報に精通する『パリジャン紙』の番記者ドミニク・セヴェラックも「前回のメルカートのときのような、移籍したい意思はネイマールにはなく、契約延長を視野にPSGと話し合う用意がある」と書いていた。

 結局のところ、サポーターやメディアが見たかったのは、ネイマールがPSGに心身を捧げる姿勢だ。

 彼の実力ならすでに誰もが知っている。だから彼への評価で大事だったのは、持てる力すべてを出し尽くし、全身全霊でPSGのために戦う姿勢があるかどうか。

 決勝戦でのパフォーマンスは万人を納得させることはできなかったが、ネイマールが真剣に己をPSGに捧げようとしている意思は伝わった。今シーズンの戦いを経て、ネイマールとPSGの関係は、より深いものへと進化した。

(文:小川由紀子【フランス】)

【了】

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