圧倒的だった空間認知能力
アンリの力を最大限に引き出しながら、自らも華麗なゴールで多くの伝説を残す。飛行機が苦手だったことから「飛べないオランダ人」というニックネームで呼ばれたデニス・ベルカンプは、記録だけでなく記憶に残る天才だった。
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オランダでクライフに才能を認められた男は、アヤックスからイタリアの名門インテルへ移籍。インテルでは苦しんだが、1995年にアーセナルに加入すると圧倒的なポテンシャルを開花させる。2003/04シーズンは、当時34歳というベテランでありながら、アンリを的確にサポートしていた。
単純なストライカーというよりもトップ下のようなポジションでボールを受けることを好んでいたベルカンプの存在は、アーセナルの流動的なフットボールにおける中心となっていた。
彼のトレードマークとなった技術は「トラップ」だろう。浮き球を正確にコントロールするだけではなく、相手の読みを外す方向に浮かせる抜群の技術は、数多くのスーパーゴールを生み出した。
圧倒的だったのはその空間認知能力で、ボールが落下する軌道を正確に計算。予測スピードを武器に、ボールを線ではなく点で捉えることを可能にしている。足下にピタリとコントロールするのではなく、動きながら次のプレーに移れるようにあえて浮かせたまま次のプレーに移行する技術を武器に、ベルカンプは新境地を開拓していった。
そのトラップ技術に近付いたのはマンチェスター・ユナイテッドやトッテナム・ホットスパーで活躍したディミタール・ベルバトフだが、彼ですらベルカンプには遠く及ばない。自分の背後からのロングボールを背中に目がついているように正確に察知し、勢いを殺しながらボールをコントロール。ボールの衝突音を消してしまうようなトラップは、多くのファンを夢中にさせていた。
ニューカッスル戦の「ベルカンプターン」は有名だが、常に芸術的なゴールを沈め続けた。シュートのパターンも多く、相手GKの位置を把握しながらのループシュートは絶妙。浮き球の認知技術を武器に、トラップすると見せかけてダイレクトでループシュートを狙うこともあった。
ボレーシュートのイメージが強いが、エリア外からの強烈なシュートも得意技だ。俊足ではないがコース選択が巧みで、ドリブルで密集地を割りながら積極的に狙っていく。ボールタッチの質が高い選手は、当然シュートも様々なキックを使いこなすことが可能だ。
フェイエノールトから20歳でアーセナルに加入したファン・ペルシーはベルカンプから練習意識の高さを学んだが、徹底的にミスを減らす姿勢は日々のトレーニングにも現れていた。
のちにアーセナルのエースに成長し、マンチェスター・ユナイテッドでも活躍するファン・ペルシーは、ベルカンプを彷彿とさせる空間認知能力を武器としていた。W杯のダイビングヘッドは歴史に残るゴールだったが、斜め後ろからのボールに見事に飛び込んだシュートは彼の空間認知能力を象徴するようなゴールだった。
(文:結城康平)
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