チーム状況
チェルシーは、新型コロナウイルスの影響を受けているにもかかわらず、財政面では余裕があると見られている。その理由は以下の2点が挙げられる。
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1つ目は、昨年の夏と冬の移籍禁止処分による支出が無かったこと。厳密に言うと、移籍禁止処分が決定する前にマテオ・コバチッチを決めているが、獲得は彼のみ。また冬には移籍禁止処分は解かれたが、チェルシーは選手獲得を行わなかった。いずれにしてもチェルシーほどのクラブが一人のみ、4500万ユーロ(56億円)しか費やさなかったのは、かなり支出を抑えたシーズンだったと言える。
2つ目は、エデン・アザールやアルバロ・モラタの移籍金による収入だ。英メディア『テレグラフ』によると、まず基本的な移籍金が8800万ポンド(約122億円)であることに加えて、レアル・マドリードがリーグ優勝したことで、ボーナスが加算されてチェルシーは1億1600万ポンド(約162億円)もの売上を手にすることになる見込みだ。さらにアトレティコ・マドリードに対してモラタを移籍金4850万ポンド(約65億円)で売却したので、合計220億円もの売り上げを昨季計上している。
だからこそコロナ禍にもかかわらず、チェルシーは資金が潤沢な状態なのだ。
監督の方針
昨季のフランク・ランパード監督は、4バックと3バックを、試合に応じて変える采配をとっていたが、米メディア『ジ・アスレチック』によると、原則的には4-3-3を基本システムとしたいようだ。中盤は3枚を好むようだが、アンカーを置く形とトップ下を置く形、どちらをメインとするかは現段階ではわかっていない。
2019/20シーズンは、ハイプレス&ハイラインの攻撃的なサッカーを指向し、初年度かつ補強ができない苦しい状況ながらリーグではチャンピオンズリーグ出場権を手にする4位につけるなど悪くない結果を残した。
引いた相手を崩せないという問題、そしてリーグで9番目に多い54失点という記録の守備面でも大きな課題も残した。特に守備に関してランパード監督は「CBにリーダーがいない」と近しい関係者に愚痴をもらしていたと『ジ・アスレチック』は報じている。
退団が予想される選手
まず契約満了のためブラジル代表FWウィリアンと、スペイン代表FWのペドロの退団が確定している。昨季の時点で出場機会が少なかったペドロの退団は既定路線だったが、ウィリアンは主力として活躍していたこともあり、チェルシーとしては残留してほしかったところだろう。しかし2年契約を打診したブルーズに対して、ウィリアン側は3年契約を希望したこともあり交渉は破断に。ロンドン内でのプレーを希望したウィリアンは、ライバルチームのアーセナルに移籍することが決まった。
契約は残っているものの退団する可能性が高いのは、イタリア代表DFエメルソン・パルミエリ、フランス代表MFティエムエ・バカヨコ、ベルギー代表FWミシー・バチュアイあたりだろうか。
昨季序盤は出場機会を得たものの、徐々にアロンソと序列が入れ替わったエメルソンは戦力外状態であり、現在はインテルを率いる元チェルシー指揮官のアントニオ・コンテ監督が獲得に興味を示しているという。
一昨年のマウリツィオ・サッリ政権の時点ですでに戦力外だったバカヨコは、ACミランに買取オプション付きのローン移籍で近日中に契約がまとまるとの報道が出ている。
昨季は一定の出場機会を得たものの実力不足という声が大きく、ヴェルナーの加入もあり序列をさらに落としたバチュアイは、昇格してきたリーズ・ユナイテッドのビエルサ監督が興味を示している。ベルギー代表FWは2014/15シーズン、ビエルサ監督のもとマルセイユで共にプレー経験を持つ。恩師との再会は実現するのだろうか。
補強が必要なポジション
まず引いた相手を崩せない課題を解決するため、前線に何人かの選手が必要だったことは間違いない。特に昨季終盤はクリスチャン・プリシッチによるドリブルでの打開力に依存することが多く、2列目の補強は喫緊の課題だ。ランパード監督は最後の崩しの場面を個人に任せる傾向があるため、能力の高い即戦力級が必要であることは間違いない。
次に最終ラインだ。特に左サイドバックは、エメルソンが戦力外になってしまったこともあり、アロンソを欠場させる際には右SBのスタメンであるセザル・アスピリクエタを左で起用することすらあった。なお補強候補に関しては、アロンソが攻撃型ということもあり、守備的なタイプを求めるファンの声も大きかったが、ランパード監督は守備能力の高さよりもスプリント能力と心肺能力を共に持つ高い走力を重視しているという。
同時にセンターバックの補強も必要だ。長らくキャプテンとしてチェルシーを牽引したジョン・テリーが抜けた後のチェルシーには、後方から声をかけ叱咤激励しチームを引っ張るリーダーが不在という課題があった。現在はアスピリクエタがキャプテンを努め、彼自身はリーダーシップのある選手だと言われているが、テリーという強烈なリーダーを長らく見てきたランパードにとっては、物足りなく感じたようだ。加えて現在のチェルシーはセットプレーからの失点も多く、空中戦の強いCBを求めていると『ジ・アスレチック』は報じている。
最後に可能であればGKも補強できれば理想だろう。2年前にGKとしては最高額の移籍金である7100万ポンドでアスレチック・ビルバオからケパ・アリサバラガは、残念ながらここまでその金額に見合う活躍ができていない。
それどころか、直近は並のGKでもしないようなポジショニングミス、セービングの判断ミスなども犯すようになってしまっており、リーグ終盤戦ではとうとう38歳のベテランGKウィリー・カバジェロに正GKの座を譲ることになってしまっている。これが一時的な不調ならともかく、この2年間に今回のようなGK交代劇は何度も起こっており、ファンからの不信感も募る一方である。ここまで来ると実力不足というより、何らかメンタル面での不調すら疑いたくなってしまう。環境を一度変えたほうが本人のためになるのかもしれない。
一方でCBがシュートコースを消していないことで決まったミドルシュートも、全てケパの責任になっている節もあり、CBを補強すればある程度までは解決する可能性もある。判断の難しいポジションではある。
獲得が決まった選手、噂になっている選手
さて攻撃面の補強に関してはすでにほぼ完了している。決定的なスルーパスを供給できるモロッコ代表MFハキム・ツィエクをアヤックスから、2列目だけでなくワントップでも起用可能なスピードスターのドイツ代表FWティモ・ヴェルナーをライプツィヒから獲得している。
ウィリアンとペドロがチェルシーから退団することが決まっているとはいえ、即戦力級を2枚も獲得したため、これで2列目の最大3枠はプリシッチを含めると埋まること意味している。
控えにもパスでリズムを作るロス・バークリー、攻守ともにハードワークを欠かさず決定機にも顔を出すメイソン・マウント、突破力が売りのカラム・ハドソン=オドイ、190cm超えの体格ながらアジリティも兼ね備えるルベン・ロフタス=チークらイングランド人選手らがプレー可能であり、人数は十分かと思われた。
しかしチェルシーはさらなる大型補強に乗り出す。レバークーゼン所属のドイツ代表MFカイ・ハフェルツの獲得を目指しているという。所属元の要求額は高額だが、チェルシーは獲得を熱望している。移籍情報に詳しいファブリシオ・ロマーノ記者によると、8000万ユーロ(約100億円)の移籍金に加えてボーナスで最大2000万ユーロ(約25億円)を支払う大型契約が完了間近だという。
メスト・エジルや、ミヒャエル・バラックなど、往年のドイツのゲームメイカーらと比較される大柄MFは、視野が広くサッカーIQも高いため、プレミアリーグへの適応に時間がかかるとは考えにくく獲得が決まればチェルシーとしては本当に大きな戦力になる。前線だけでなく中盤でもプレー可能な万能さを持つため、どこで起用されるかは今の所わからない。いずれにしても、既に取り上げた選手たちが既にいることもあり、チェルシーはリーグ屈指の攻撃陣を要することになる。
一方で守備面での補強も忘れてはいない。左サイドバックに関しては、前述の走力重視の条件に合うレスター・シティのベン・チルウェルの獲得が最有力である(編注:26日に完全移籍での獲得を発表)。
若きイングランド代表DFは、攻守における豊富な運動量が持ち味で、質の高いスプリントを90分通して行える。ランパード監督はチルウェルの能力や将来性を高く評価しており、本人も移籍に前向きなため、英メディア『テレグラフ』によると、5000万ポンド(約69億円)での移籍が間近であるという。チルウェルに関しては、ロマーノ記者および信憑性の高い英国営放送『BBC』からも決定間近という報道が出ている。
最後にセンターバックに関しては、パリ・サンジェルマン所属のブラジル代表DFチアゴ・シウバの加入が目前である。シウバは今年の夏で8年間プレーしたパリとの契約が満了になる。そして惜しくもバイエルン・ミュンヘンに破れたチャンピオンズリーグ決勝の後のインタビューでは、PSGを退団し、数日中にも行き先を決めることを明言している。現在はチェルシー加入濃厚と言われており、前述のロマーノ記者も、それに同意している。
ブラジル代表でもキャプテンを務めるシウバは、圧倒的なリーダーシップの持ち主でチェルシーの求めていたCB像と合致する。強いて言うなら身長は183cmしかないため空中戦はやや不安だが、状況判断に優れる選手のため特別弱いということもない。むしろコーチングで他の選手のポジショニングを修正し、チーム全体としてのエアバトルを強化する可能性すらある。
加えてロマーノ記者によると、夏までニースに所属していた若手CBマラング・サールともフリーでの加入を交渉中であり、まだ契約は完了していないが、チェルシー移籍が濃厚になっているという。スピードがあるためSBでもプレー可能なレフティーをスカッドに加えることができれば、即戦力ではなく将来への投資枠ではあるが、スカッドに厚みが増す。
最後に
いずれにしてもチェルシーは潤沢な資金と、監督のカリスマ性を活用して、どこのチーム最寄りも早く、的確な、大型補強を成功しようとしている。しかも今回の補強は過去に行われてきたようなオーナーのロマン・アブラモビッチ氏が主導する大型補強ではなく、あくまで監督の意をくんだものであるという。
間近と言われている補強の噂が現実のものとなれば競争の激しいプレミアリーグではあるが、来季のチェルシーは間違いなく、優勝候補に名乗り出ることになる。今、最も動向に注視しなければならないクラブはチェルシーなのだ。
(文:内藤秀明)
【了】