「ボール支配による前進」と「爆発的なペース」
まずベンゲル時代のアーセナルについて考えていきたい。
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世界中の人々が想像するアーセナルのイメージはベンゲル時代に培われたものだろう。インヴィンシブルズ時代、セスクと愉快な仲間たちの時代、エジル、カソルラを中心とする時代と、18年の歳月でベンゲルは多くの時代を作り出してきた。
自分のチームをかつてこのようにベンゲルは評していた。「progression with possession」と、「explosive pace」だ。直訳すれば、「ボール支配による前進」と「爆発的なペース」となる。この2つの言葉は非常にベンゲルらしい印象として、18年の間、アーセナルに寄り添っていた。では、「ボール支配による前進」と「爆発的なペース」をもう少し具体的に探っていきたい。
「ボール支配による前進」は、今では多くのチームの選択肢になっている。つまり、ボールを保持しながら相手のラインを突破していくサッカーだ。平たく言えば、ポゼッションサッカーと言える。
ベンゲルがアーセナルに来た時のプレミアリーグは、古き良きキックアンドラッシュを信条とするチームが多かった。それゆえに、ボールを繋いでいくサッカーの衝撃はかなりのものだったに違いない。無敗優勝に代表されるように、タイトルという結果を残していることも大きい。
現代の視点から考えると、「ボール支配による前進」は、ボールを保持し、GKを使いながら、自陣の時間とスペースを前線の選手に供給するサッカー、というイメージがある。また、ボールを保持することが相手の攻撃機会を削ることに繋がるため、無理矢理前進することを避ける傾向にある。よって、どちらかのチームのボール保持時間が長くなり、トランジションが減っている。
しかし、ベンゲルのサッカーは、「爆発的なペース」にも支えられていた。昔から比較されることの多かったバルセロナのサッカーが静的なポジショニングによるボール保持だとすれば、アーセナルのサッカーは、動的なポジショニングによるボール保持(図1)だった。
メッシのゼロトップ、ブスケツのサリーダ・ラボルピアーナなど、静的なポジショニングとは、相手の位置に応じてポジショニングを変更する程度で大きな動きはあまりない、という意味である。当時のバルセロナは、現代で言えば、ポジショナルプレーをしていたといえるかもしれない。なお、当時の監督はこのあとでも登場するグアルディオラである。言わずもがな。
動的なポジショニングとは、オフザボールの動きが頻発することを示している。ベンゲルのサッカーは、攻撃参加の機会が多い。味方にパスをしたら追い越さなければならない! という決まり事があるかのように前に走りまくる。
当時のアーセナルのスペースへのフリーランニングを見ていて、スペースがなければ走ることで相手を動かしスペースを作ればいい、と学んだ記憶は今でも鮮明に残っている。多彩な動きが相手に判断を強制させ、ボール保持者には時間と空間を与えていた。
(文:らいかーると)
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