初先発で衝撃の2得点
開始2分だった。ハーフウェイライン手前でボールを持ったジュニオール・サントスは次々に敵をかわし、50メートルもドリブルで進んで強烈なシュートを決めた。「フェノメノ」と呼ばれたブラジルのロナウドを思わせる衝撃的なゴールだった。
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柏レイソルからの期限付き移籍が発表されたのが8月11日、15日の大分トリニータ戦に16分間プレーして、第11節の清水エスパルス戦で先発。キックオフからわずか2分でのゴラッソである。83分にも振り向きざまに右足を振り抜いて自身2点目、チームの3点目をゲットした。
昨季はJ2で8試合、天皇杯1試合の計9試合に出場したがノーゴール。今季も1試合に出場しただけだった。柏には堂々のエースストライカーになったオルンガがいて、移籍してきた呉屋大翔もいる。出番を求めての移籍は当然として、いきなりの2ゴールは驚きだった。
188cmの長身でスピードがあり、先制点の場面では鋭い左足の踏み込みから右へ抜け出ての、強引にファーサイドへ打ち込んだ一連の動きにキレと迫力があった。
ジュニオール・サントスの先制点に続く2点目は、前田大然のヘディングシュート。前田も移籍して間もない。新加入選手2人が3ゴールをゲットした横浜F・マリノスが4-3で清水を下した。
加速する移籍と問われる対応力
昨季も横浜FMはシーズン中に獲得した選手が活躍していた。エジガル・ジュニオの負傷による離脱の穴を埋めたのがエリキだった。また、名古屋グランパスから期限付き移籍のマテウスも優勝に貢献している。補強戦力の馴染みが早かった。
チームのプレースタイルに合った、即戦力としての補強とはいえ、これだけ当たりが出るのは事前のスカウティングが的確というほかない。
ジュニオール・サントスについては、こんな選手がくすぶっていたのかと思わずにはいられなかったが、試合を通してみると攻撃に絡めていないところもあり、得意のドリブル突破も失敗に終わる場面もあった。先制点の勢いで続けられるなら、柏でももっとチャンスを与えられていたはずである。前田に関しても、まだ横浜FMのスタイルにはまりきっていないのではないか。ただ、新加入選手の活躍で3ポイントを獲れたのだから今のところは十二分の活躍といえる。
Jリーグを1シーズン戦い抜くうえで、1つのポイントになるのがシーズン中の補強だと思う。
Jリーガーの海外移籍のサイクルはどんどん早くなっている。リーグデビューしたかと思ったら、もう移籍していないというケースが珍しくない。昨季の久保建英(FC東京→レアル・マドリード)、中村敬斗(ガンバ大阪→FCトゥエンテ、現シント=トロイデン)、食野亮太郎(ガンバ大阪→マンチェスター・シティ)など、十代選手の移籍にはとくにその傾向がある。
今季は新型コロナウイルス感染の影響で移籍市場の動きは鈍くなるだろうが、鈴木武蔵(北海道コンサドーレ札幌)のベールスホットへの移籍がすでに決まっている。若くてJ1の主力を張っている選手なら、いつ移籍してもおかしくない状況といえる。
マリノスの変化
スカウト用の映像は世界のどこでも入手できるようになった。契約さえすれば、誰でも世界中のユースチームの選手まで映像を検索可能。だから青田買いは日本でだけ起きている現象ではない。ヨーロッパのクラブにとって、選手は若ければ若いほどいい。獲得資金は安くすむので、他のクラブへ移籍させたときの利益が大きくなるからだ。ビッグクラブは若手選手の転売で調達した資金を、即戦力の大物の獲得に充てているという現状もある。
幸いJリーグは引き抜かれるだけのリーグではない。抜かれたぶんは埋めることもできる。宇佐美貴史や井手口陽介を逆輸入したG大阪の例もあり、鹿島アントラーズのように移籍を予測して予め層を厚くしたケース、優れたスカウティング力ですばやく即戦力をゲットした横浜FMのやり方もある。
昨季の横浜FMが秀逸だったのは、補強に伴ってプレースタイルも微妙に変化させたことだ。変化というよりもともとの理想に近づけたのかもしれないが、守備のインテンシティと攻撃のスピードが上がり、前半戦とは少し違ったチームになっていた。これには対戦相手も面食らったところはあったと思う。
夏場に再編成を余儀なくされるJリーグだが、それだけに変化の面白さも味わえるわけだ。
(文:西部謙司)
【了】